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その28の2


 鬱々と歩み、レグはアパートにたどり着いた。



 部屋に入ったレグは、デート用の礼服を脱ぎ捨てていった。



 そして非戦闘用の細い義足を外した。



 空虚になった下半身に、レグは太い義足を装着した。



 いつもはぶかぶかのズボンで覆われている、戦闘用の義足だ。



(やっぱりこっちだな。


 一般向けの魔導義肢ってやつは、頼りなくていけねえ。


 ……さて、始めるか)



 レグは部屋の隅を見た。



 そこに全身鎧のようなものが置かれていた。



「頼むぜ新型」



 ……そして数分後。



 レグはその全身を、金属の防具で包んでいた。



 ただの鎧ではない。



 魔導義肢の発展形、『魔導外骨格』だ。



 それは装着者の意のままに動き、全身の身体能力を高めてくれる。



 オーウェイル家での仕事に対する報酬だ。



 大貴族は、そこらの住宅より高い魔導器を、ポンと用意してくれた。



 気前が良い。



 ありがたい。



 これで戦える。



 やっと全てを終わりにできる。



 完全武装となったレグは、アパートの外に出た。



 不審者と思われかねない格好だったが、周囲にひとけはなかった。



 レグは誰にも見咎められず、北東へと駆けていった。




 ……。




 王都の北東。



 山の麓の町。



 夜明け前のホテル。



「…………」



 国から用意された一室で、ルキナがベッドから起き上がった。



 普段であれば、まだ起きるような時間帯ではない。



 だが、この日のルキナは目が冴えていた。



 眠気を感じない目で、彼女は窓の外を見た。



(起きるのが早かったかな。


 緊張なんてしてない……とは言えないか。


 もう少しベッドで……)



 寝なおして万全を期すべきか。



 そう思っていると、部屋のドアがドンドンと叩かれた。



 うるさい。寝起きの神経にさわる。



 ルキナはうんざりと顔をしかめた。



 だからといって、出ないわけにもいかないだろう。



 彼女はしぶしぶと、部屋の扉を開けた。



「何だいこんな時間に……ってキミは……」



「お願いします……! レグを助けてください……!」



 悲痛にそう言ったのは、黒猫に跨った少女だった。



 少女の顔に、ルキナは見覚えがあった。



 以前、レグと一緒に食事をした少女だ。



 泣きそうにしている少女を、ほうっておくことなどできない。



 ルキナはアムの言葉に耳を傾けることにした。




 ……。




「話はわかった」



 ルキナはアムの話を聞き終えた。



 アムは動揺していたが、話は明晰だった。



 ルキナはレグが置かれている状況を、正確に理解することができた。



 可能であれば、すぐにレグの救援に向かいたいが……。



「けど、今すぐパーティを動かすというわけにはいかない。


 邪龍のところに向かうなら、準備を整えないと……」



「なんとかならないんですか……!?」



「うかつなことをして、仲間を危険に晒すことはできない。


 悪いけど……」



 命を預かる者の責任として、ルキナは冷静な答えを返した。



「っ……わかりました。……カゲトラ」



「みゃ……!」



 アムの指示を受け、カゲトラはホテルから飛び出していった。



 残されたルキナは、過去を思い返しながら、仲間の部屋へと足を向けた。



「先輩……」




 ……。




 2年前。



 オム島という島に、邪龍アンレイドラが姿を見せた。



 その島には、レグたちの故郷の村があった。



 レグには故郷をほうっておくことはできなかった。



 それに、当時のレグは自信家だった。



 自分たちであれば、どんな強敵が相手でもなんとかなると思っていた。



 そんなレグに引っ張られて、仲間たちは邪龍との戦いを決意した。



 そして現実を思い知らされた。



「う……うぅ……」



 守るべき故郷の村で、同郷のカレンが倒れ、呻き声を上げていた。



「無理だよ……やっぱり無理だったんだよ……」



 弱々しく嘆くカレンを庇う形で、レグとトールが立っていた。



 彼らの眼光が向かう先には、黒い邪龍の姿があった。



 敵から目を逸らさないようにして、レグが口を開いた。



「……強引につき合わせて悪かった。


 トール。カレンを、みんなを連れて逃げてくれ」



 勝ちを諦めたレグの言葉に、トールが驚きを見せた。



「っ……! 一人で残ってどうする気さ……!?」



「おまえたちをここに連れて来たのは俺だ。その責任を取る」



「置いていくなんてできないよ……!」



「カレンが死んでも良いのか! いいからとっとと行けッ!」



「っ……!」



 トールにとって、レグは大切な友だ。



 だがトールにとってカレンの存在は、わずかに友よりも大きかった。



 たとえカレンがレグを好いていたとしても。



 躊躇の後、トールは倒れていたカレンを抱きかかえた。



「みんな! レグが邪龍をひきつけてくれる!


 今のうちに逃げるんだ!」



 仲間たちにそう告げて、トールは地面を蹴った。



「レ……グ……」



 トールの腕の中で、カレンは婚約者の名前を呼んだ。



 かすれたような声は、レグの耳には届かなかった。



「さあ……きやがれ……!」



 戦意を漲らせ、レグはみんなとは逆側へ駆けた。



 そして邪龍との間合いを詰め、魔剣を振り下ろした。



 硬い鱗の前では、研ぎ澄まされた一撃も、大した痛手にはならない。



「レグ……カレンを避難させたら……すぐに戻ってくるから……!」



 トールたちと邪龍の距離が開いていく。



 それを見た邪龍は、逃亡者の群れに向かって口を開けた。



「させるかよ!」



 レグは下方から、邪龍の顎を強打した。



 邪龍の口が上に向いた。



 空に向かって、闇色のブレスがはなたれた。



 弱者を蹂躙するはずだったそれは、何も為さずに薄れて消えた。



 虐殺に失敗したドラゴンは、残されたレグに瞳を向けた。



「そうだ。それで良い。俺を見ろよ」



 村人たちの避難は、とっくの前に終わっている。



 龍と二人きりになったレグは、汗を落として笑った。



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