その27の1「アムとホテル」
上に手を伸ばし、レグはいちごを摘み取った。
そしてふたつみっつと食していった。
アムはそれを微笑ましげに眺め、次にこう言った。
「もっと食べても構いませんよ」
「つっても……そんなにガツガツ食う感じでもなくね? いちごって」
「だったら、私が代わりに食べますから、
おいしそうなのを選んでください」
さきほどのレグは、自分が食べるいちごを、雑に選んでいた。
人に食べさせるいちごくらいは、さすがにちょっとまじめに選ぶか。
レグはそう考えて、いちごの群れをまじまじと観察した。
しかしレグは、いちごに関する造詣が深いわけではない。
まじめに見たところで、どれが上等ないちごなのかはわからなかった。
「いちごってでかいのが美味いのか? それとも小さいやつ?」
「はて……。家で出てくるいちごは、
普通のサイズだと思いますけど」
「するとでかいのは不味いのか?」
「どうでしょうかね。見栄えの問題もあると思いますけど」
「つまりわからんってことか。それじゃあ……」
レグはぷちぷちと、複数のいちごをちぎり取った。
「でかいやつ、小さいやつ、普通のやつ。食べ比べてみろよ」
いくつかの不揃いないちごを、レグはアムに差し出した。
アムはいちごを受け取らず、無骨なガントレットを振ってみせた。
「この手で食べるのは趣がありません。
レグが食べさせてください」
「しょうがねぇな。どれから行く?」
「それでは小さいやつから」
レグは小さいいちごをつまんで、アムの口に運んでいった。
アムは少しだけ口を開けて、いちごを受け取った。
そして上品に咀嚼して飲み込んだ。
「よし。次だ」
「あーん」
アムが普通サイズのいちごを食べ終わると、レグはこう尋ねた。
「どっちが美味かった?」
「ん~。強いて言えば普通のやつですかね?」
「ふつう最強か?」
「大きいやつもお願いします」
レグは大きないちごを、アムに食べさせようとした。
アムはさきほどより大きく口を開けた。
レグの指の一部が、アムの口の中に入った。
「あむ……」
レグの指ごと、アムはいちごをくわえた。
「指を食うな」
アムはいちごを食べ終わると、レグにいたずらっぽい笑みを向けた。
「ふふっ。どうせ大した指でもないでしょう?」
「カネ取るぞ。それでどうだった?」
「どっちも美味しかったです」
よほどいちごが美味しかったのだろうか。
アムはニコニコとしてそう言った。
「でかいのもイケるか」
「はい。レグもいかがですか?」
「それじゃ……うん」
レグは大きないちごを探し、それを口に含んだ。
しばらくいちごを食べたり食べさせたりした後、レグはいちご農園から出た。
そしてアムのプランに従って、別のデートスポットに向かった。
時間はあっという間に過ぎ、やがて日が暮れてきた。
「そろそろ帰るか?」
「いえ。ホテルのレストランに予約を取ってあります」
レグはホテルへと猫を走らせた。
豪華ホテルのレストランで、二人は食事をすることになった。
まずは名前もわからない前菜を食した。
やがて名前もわからない肉料理が、レグたちのテーブルに置かれた。
(肉なんて、適当に焼いて塩コショウすれば、
それで良いと思うんだけどな。……まあ美味いけどさ)
レグは慣れない雰囲気に乱されず、食事を堪能した。
「美味かったよ。ごちそうさん」
「それでは行きましょうか」
アムが車椅子を走らせたので、レグは彼女に続いた。
レストランを出て、廊下へ。
廊下を進み、エレベーターの前へ。
操作パネルに手を伸ばしたアムは、上ボタンを押した。
「上?」
猫に乗って帰宅するなら、下ボタンを押さねばならないはずだが。
「…………」
レグの疑問に、アムは答えなかった。
彼女の耳は赤い。
到着したエレベーターに、アムは黙って乗り込んだ。
そして内部の操作パネルに手を伸ばし、上階のボタンを押した。
上ボタンを押したのは、押し間違えではなかったようだ。
目当ての階にたどり着くと、アムはエレベーターから出た。
そして廊下を進み、とある部屋の前へとたどり着いた。
「鍵をお願いします」
いつの間に手に入れていたのか。
アムは服のポケットに手を入れ、ホテルの鍵を取り出した。
レグは黙って鍵を受け取り、ドアを開いた。
「どうぞ。お嬢さま」
レグのエスコートを受けて、アムは室内に入っていった。
その部屋は、広々としたスイートルームだった。
レグからすれば、人生で初めて入るような場所だ。
それに感動した様子もなく、レグは測るような目をアムに向けた。
「豪華だな。けど良いのか?
そろそろ家に帰らなくて」




