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その26の2


 レイスならば、自分の意思を尊重してくれる。



 そう思っていたのだろう。



 アムの表情が、露骨に曇り空になった。



「私が次期国王だからですか?


 当事者が知らない所で、かってに話を進めておいて、


 恋まで縛ろうと言うのですか?」



「彼とアムさまでは、住む世界が違います」



「それでも……彼のことが好きなんです。


 こんな気持ちを抱いたのは、初めてのことです。


 簡単には諦められません」



 眉に力を入れて、アムはじいっとレイスを見た。



「わかりました。そこまで仰るのであれば」



「……良いんですか?」



 あっさりと引き下がったメイドを、アムは意外そうに見た。



「はい。私もアムさまのことを応援します」



「ありがとう。レイ」



 長年つれそってくれたメイドは、やっぱり私の味方なんだ。



 そう思うと嬉しくなり、アムは表情をほころばせた。



「……………………」



 レイスの表情が硬くなっていることに、アムは気付くことができなかった。




 ……。




 キリアンが捕らえられてからの数日間、アムが危険に晒されることはなかった。



 キリアン以外には、次期国王の命を狙う者はいないのか。



 それとも機会がなかっただけか。



 何にせよ、平和に日々が過ぎた。



 そして休み前。



 放課後、オーウェイル邸の猫小屋で、アムがレグにこう尋ねた。



「レグ。明日もヒマですよね?」



「ああ。明日はな。あさってはやる事があるが」



「何をするのですか?」



「昔の知り合いに、会いに行く予定だ」



 レグはそう言って、視線を大きく動かした。



 アムはつられて、レグが見ている方角を見た。



 特に何かがあるわけでもない。



 小屋の壁しか見えなかったので、彼女はレグに視線を戻した。



「そうですか。明日は遅れずに来てくださいね。


 それと、きちんとした格好で来てください。


 ちゃんとした店に行く予定ですから」



「え~? かったるいなぁ」



「柔らかいお肉が食べたくないのですか?」



「……わかったよ」




 ……。




 翌朝。



 授業のない休日。



 アムの要望を受け、レグは礼服を身につけた。



 そして彼女が待つオーウェイル邸へと向かった。



 猫小屋で少し待つと、すぐにアムとレイスが現れた。



「おはよ」



「おはようございます」



 レグは短く、アムはていねいに、朝の挨拶をした。



 既にシルクの背に、鞍の装着は完了している。



 レグはアムが鞍に乗せられるのを待った。だが……。



「……アム? ナーガエールさん?」



 レグがふわふわと、疑問符を浮遊させた。



 年のわりに機敏なレイスが、なかなかアムを運ぼうとしないのだった。



 レグがきょとんとしていると、レイスが口を開いた。



「じつは今朝、


 腰をぎっくりとやってしまいました」



 レイスは優雅に腰をさすり、こう続けた。



「負傷した私に代わり、アムさまを運んでください」



「めっちゃ背筋のびてますけど?」



「めっちゃやせ我慢にございます」



「……はぁ」



 レイスのシャッキリとした佇まいは、どうみても負傷者のそれではない。



 妙なたくらみを始めやがったな。



 内心でそう思いつつ、レグは流れに身を任せた。



 レイスの望みのままに、レグはアムの前に立った。



「良いんだな?」



 ベルトからアムを解放しながら、レグはそう尋ねた。



「……はい。どうぞ」



 アムの体が、ベルトから自由になった。



 少し硬くなっている彼女を、レグは遠慮なく抱きかかえた。



「っ……」



 アムの顔が、露骨に赤くなった。



 レグはそれに気付かないフリをして、彼女を鞍へと運んだ。



 そして鞍のベルトを使い、アムの体を固定した。



「これで問題ないですかね? ナーガエールさん」



 ベルトを締めるくらい、べつに難しいことではない。



 だが万が一のことを考え、レグはレイスに一応の確認を取った。



「はい。どうかアムさまをよろしくお願いします」



 いつもと違い、レイスは家に残るつもりらしい。



「良いんですか? 俺と二人きりで」



「誠実な応対をお願いします」



「自信ないですけど。んじゃ」



 軽い調子でそう言うと、レグは猫を連れて小屋から出た。



 そして猫に跨ると、まずは通りに出た。



「どこに行くんだ?」



「まずは……」



 アムのプランに従って、デートスポットを巡ることになった。



 数箇所で遊び歩いた後、二人はいちご農園に移動した。



 車椅子のアムに並んで、レグは農園内を歩いた。



 日当たりが良い屋内で、レグは上に視線を向けた。



「いちごが天空に……」



 アムおすすめのいちご農園は、少し風変わりな構造をしていた。



 栽培棚が、通常の高さの物に加え、入場者の頭上にも設置されているのだ。



「ここのいちごは好きに取っても構いませんよ」



「そんじゃ遠慮なく」


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