その24の2
「おはよう」
視界の外から、声が聞こえてきた。
聞き慣れた声だった。
「キリー……?」
アムの向かいに置かれた椅子に、弟のキリアンが着席した。
その周囲にはぞろぞろと、手下らしき連中が見えた。
「何の冗談ですか? これは……」
これがキリアンのしわざだとすれば、じゃれあいの域を超えている。
アムは冷え切った顔で、大切なはずの家族を睨みつけた。
キリアンのほうにも、ふざけるつもりはないのか。
彼は真顔で口を開いた。
「悪いけど、冗談じゃあないよ。
ねえさんには死んでもらう」
過激な言葉を聞いても、アムは表情を変えなかった。
どうせロクなことにはならないだろうと、襲われた時点で想像はついていた。
覚悟ができているか否かは、また別の問題だが。
「けど、何も知らずに死ぬのはねえさんも嫌だろう?
だから最期に話をしようと思ったんだ」
「……聞かせてもらいましょうか」
今のアムにできることは、舌を動かすことくらいだ。
少なくとも話をしているうちは、殺されることはない気がする。
逆に会話を放棄すれば、今すぐにでも殺されるかもしれない。
自力で立ち向かえる状況ではない。
助かる可能性は、外部からの救援しかないだろう。
そう判断したアムは、せめて時間を稼ごうと決めた。
(時間を稼げばレグが…………ほんとうに?
ついて来るなと言ったのに。
私にも、ここがどこなのかわからないのに……)
レグのことを信じている。
彼は強い。
そこいらの悪党には負けないはずだ。
だが今回のアムは、レグを突き放した結果としてここに居る。
そんな自分を、レグは助けに来てくれるだろうか。
ざわめくような不安が、アムの胸を締め付けた。
アムの胸中を察した様子もなく、キリアンは話を進めた。
「ねえさんは、この国の王位継承問題について
どれくらい知っているかな?」
「難航しているという話は聞いています。
直系の王子ふたりが立て続けに亡くなり、
誰を後釜に据えるか
揉めているそうですね」
「誰が次の国王になると思う?」
「さて。
王室を抜けた第三王子か、
そうでなければ
親戚筋の誰かということになるのでしょうか。
王位継承権の数字だけを見れば、
王弟殿下が後継者ということになりますが、
殿下は国王陛下と年が近く、
後継ぎとしては不適格のように思えます。
王妹殿下に関しても同様ですね。
王弟殿下の子供を後継ぎにすれば、
それなりに収まりは良いように思えますが」
「模範的な回答だね。けど、間違いだ」
「なるほど?
それがこの狼藉と関わってくるということですか?」
「そうだね。
第一位の王位継承権を持っているのは、王弟じゃない。
ねえさん、あなただよ」
平静を保とうとしていたアムの表情筋に、強く力が入った。
「……どういうことですか」
「ぼくたちきょうだいは、
父さん母さんと血がつながった子供じゃない。
詳しい原因まではわからないけど、
父さんと母さんの間には、子供ができなかったんだ。
後継ぎに恵まれなかった二人に、
国王陛下が末の子供を養子に出した。
それがぼくたちだ」
(私たちが……陛下のじつの子供……?)
「……初耳ですが」
「最近まではぼくも知らなかったよ。
二人の王子に不幸が続かなかったら、
知ることはなかったのかもしれない。
王家の中枢では、
公然の秘密だったらしいけどね。
とにかく、この国の王家は血筋を重んじるから、
王家はねえさんの王位継承に乗り気になった。
国王からすれば、血を分けたカワイイ娘なわけだしね。
ぼくも同じ血を引いて、同じ日に産まれた。
けど、ほんの少し産まれた時間が違ったってだけで、
椅子が回ってくることはなかった。
それでぼくは思ったんだ。
ねえさんさえ居なければ、ぼくが国王だなって。
だからぼくは、ねえさんに消えてもらうことにしたんだ。
それで最初は……車に細工をした」
「あの事故はあなたが……?」
「うん。うまくいったと思ったけど、しぶといね。ねえさん」
キリアンはあの頃には既に、自分を殺すつもりでいたのか。
殺意を胸に秘めながら、平然と家族として接していたのか。
それなりに良好に、きょうだいをやれていたつもりだったのに。
偽りでしかなかったというのか。
弟の裏の顔を知り、アムは寒気を感じた。
「人をこんな姿にしてまで、
玉座が欲しかったというのですか……」
「安い椅子なら欲しくないけど、玉座だからね。
国で一番の席だから。
男なら、これくらいやっても良いかと思ったんだ。
それとべつに、ねえさんを苦しめたかったわけじゃない。
苦しまずに死んでくれれば良いと思ってたよ。
上手くはいかなかったけどね。
まあでも、その体じゃあさすがに国王は務まらない。
目的は果たしたと思ってたのにな……」
「車椅子の私を、
まだ玉座につけようという人たちが居るのですか?」
「うん……。どうやらね、
父さんが手に入れそうなんだ。エリクサーを」
「…………!」




