その24の1「アムと人さらい」
ぎゅるぎゅると車輪を回転させて、アムは館の外に出た。
そのまま庭を突き進んで、門に近付いていった。
門の向こうには、二人の衛兵の姿が見えた。
アムの気配に気付いて、門番の一人が振り向いてきた。
アムは門番に声をかけた。
「開けてください」
「お嬢さま? 一人でお出かけですか?」
「いけませんか? 通してください」
「せめてナーガエールさんに確認を……」
体を壊してからのアムは、常にレイスと行動を共にしている。
こうして一人でやってくるのは、何やらおかしい。
それに門番の目には、アムが涙ぐんでいるようにも見えた。
レイスとケンカでもしたのだろうか。
そんな彼女を一人で通してしまっては、責任問題になるのではないか。
そう思った門番は、まずはレイスに連絡しようと決めたが……。
「良いから通してやれよ」
別の門番が、口を挟んできた。
「俺たちの雇い主は、ナーガエールさんじゃないだろ?」
「けどな……」
「さあどうぞ。お嬢さま」
もう一人の門番は、あっさりと門を開けてしまった。
アムは通りに出た。
そして車椅子を方向転換させ、オーウェイル邸から遠ざかっていった。
アムの外出に乗り気でなかった門番が、相方に声をかけた。
「本当に良かったのか? これで」
「本人が望んでるんだ。
それより、ちょっとトイレ行ってくるから、後たのむわ」
「サボりかよ。
何かあったらおまえの責任だからな」
「へいへい」
門番の片割れが、門から離れていった。
発言とは違い、彼はトイレには向かわなかった。
彼は庭にある木の影に移動した。
そして遠話箱を取り出し、何者かに遠話をかけた。
「目標が一人で外出しました。どうしますか?」
……。
アムよりも少し遅れて、レグとレイスも門の所へたどり着いた。
レイスが門番にこう尋ねた。
「アムさまを見ませんでしたか?」
「先ほど通りに出て、
左のほうへ向かわれましたが」
門番がすなおに答えると、レイスの目つきが鋭くなった。
「……アムさまをお一人で行かせたのですか?」
「ご命令でしたから。
やはり不味かったでしょうか……」
「いえ。ですが、もしアムさまに何かあったら、
首が飛ぶのを覚悟しておいてください」
「えっ」
……。
黙々と通りを進んでいたアムは、やがて車椅子を停止させた。
「はぁ……」
アムは深くため息をついた。
表情は曇り空だ。
(今日は良い日になると思っていたのに……。
いったい私はなにをやっているのでしょうか……)
レグにプレゼントをあげる。
レグが喜んでくれる。
それを見て、自分も喜ぶ。
良いことしか起きない良い日。
そうなるはずだった。
なのに自身の幼稚な行動で、それをブチ壊しにしてしまった。
(首飾りを外すか外さないかなんて、
どうでもいいことではないのですか……?)
レグが悪いことをしたわけではない。
自分がかってに機嫌を損ねただけだ。
レグが古い首飾りを大事にしていて、何が悪いというのか。
元婚約者からの贈り物を大事にしていて、何が悪いというのか!
(どうして私は……)
そのとき。
後ろから腕が伸びてきた。
アムはその気配に、直前まで気付けなかった。
気持ちが鬱々としていたからか。
それとも相手の技が、訓練され研ぎ澄まされていたからか。
急に現れた腕は、布を手にしていた。
布がアムの顔をおさえつけた。
「んっ!? む~~~~っ!?」
アムは全身不随だが、ガントレットを動かすことはできる。
それでなんとか抵抗しようとしたが、上手くはいかなかった。
強い薬品の匂いが、アムの鼻を襲った。
薬の力だろうか。
アムはそのまま意識を失ってしまった。
(レ……グ……)
……。
「う……」
どれだけの時間が経過したのか。
気絶していたアムの目蓋が、重々しく持ち上げられた。
(体が動かない……いえ。それは元々ですが……)
今のアムは、ガントレットを動かすことすらできなかった。
どうやら全身を、しっかりと拘束されているようだ。
感覚から察するに、寝かされているのではなく、椅子に座らされているようだ。
アムは目だけを動かして周囲を見た。
(倉庫……?)
ここは屋内のようだが、まともな住居ではなさそうだ。
周囲の殺風景から、アムはそう推測した。




