その23の1「アムとレベルアップ」
「私が」
レイスが魔法陣を展開し、レグに治癒術をかけた。
それを見たアムが口を開いた。
「私も……レベルくらい上げておけば良かったです」
「ん?」
治療を受けながら、レグはアムを見た。
アムは言葉を続けようとした。そのとき。
「そうしたら……私も治癒術くらい……う……」
アムの表情が、苦しそうに歪んだ。
「アム? どうした?」
「ちょっと……具合が……」
ちょっとどころではなく苦しそうだ。
それを見て、レグが焦りを見せた。
「何だ……!? 敵の攻撃を受けてたのか……!?」
そのとき。
「あの~」
トリーシャがレグに、間延びした声を向けた。
「何だよ? こんなときに」
レグはやや苛立った様子を見せた。
「ひょっとして、EXP酔いではないでしょうか?
先ほどの魔獣は、かなりの大物のようでした。
放出されたEXPの量も多かったと思います。
低レベルのオーウェイルさんには、過剰だったのではないでしょうか?」
けものが死ぬと、EXPと言われる力が放出される。
人はEXPを吸収することで、自らを強化することができる。
だが強すぎる力の源は、人に負荷を与えることもある。
今のアムは、魔獣のEXPに苦しんでいるということか。
「それってだいじょうぶなのか?
一度にEXPを吸いすぎると、
死ぬこともあるって聞いたぞ」
「それは本当に極端な場合ですから、
そこまで心配することもないと思いますよ。
治癒術で症状を和らげることもできますが……」
それを聞いて、レグはレイスにこう頼んだ。
「ナーガエールさん。アムをお願いします」
「しかし、まだリカールさまの治療が……」
「あの、私も治癒術を使えますけど」
トリーシャがそう言ったので、レグは彼女に甘えることに決めた。
「それじゃあ頼む」
レグはおとなしく、レイスから治療を受け続けた。
その隣で、トリーシャがアムに向けて治癒術を発動した。
ぼんやりと立つレグに、レッティが話しかけてきた。
「そんな怪我をしてまで私を守ろうだなんて、
なかなかの心意気ね。
私の専属の召使いにしてあげても良いわよ?」
「いや。結構です」
レグは即座に断りを入れた。
……。
レグの治療に区切りがつくと、一行は下山することになった。
アムは元気とは言えないが、命に問題があるわけでもないらしい。
ぐったりと猫に揺られて、山をくだっていった。
下山を終えると、レイスは関係者に事件を報告した。
貴族令嬢が襲撃されたとなれば、学校内部だけで済ませるわけにはいかない。
迅速に、山に調査隊が派遣されることになった。
調査は専門家たちに任せ、レグたちは学校に戻ることになった。
「レグ……」
帰りの猫車で、アムが口を開いた。
その声音は気だるげだ。
完全に元気になったとは言えないようだ。
だが最初の頃と比べれば、復調した様子でもあった。
「ん~?」
レグはのんびりとした調子で、アムの言葉を待った。
「そこそこレベルが上がったみたいです……」
「そうか。良かったな」
アムはレグに、曖昧な笑みを返した。
「手枷をつけるのはめんどうですけど……。
もっと早くにレベルを上げておけば……
事故に遭っても平気だったかもしれませんね」
「後悔してるのか?」
「いえ。
もし怪我をしなかったら、
レグと顔を合わせることもなかったと思いますから」
「そうおもしろい顔でもねぇだろ」
レグは少しだけ、アムから顔を逸らした。
「だいぶおもしろいですけど?」
アムは穏やかな笑みを見せてそう言った。
そして深く息を吐き、言葉を続けた。
「それにしても、せっかくのイベントで調子を崩してしまったのは不覚です。
リターンマッチがしたいです。
今度また、いっしょに山に行きましょうね」
「ああ。予定が合えばな」
「……どうせヒマなくせに」
アムは少しだけ眉根を下げて、すぐに穏やかな顔に戻った。
……。
生徒たちを乗せた猫車が、学校に無事に到着した。
その場で解散となり、生徒たちは帰宅することになった。
アムはノーラたちに別れの挨拶をして、猫の鞍に乗った。
そのまま猫で移動して、オーウェイル邸にたどり着いた。
車椅子に移動した後、アムはレグを気遣う様子を見せた。
「……腕はもうだいじょうぶですか?」
「ああ。見ての通りだ」
戦いで負傷した腕を、レグは上げてみせた。
その様子は軽快で、後遺症があるようには見えない。
「敵にやられたのではなく、自爆だと仰っていましたが」




