その21の2
みんなで夕食をつくることになった。
メニューは定番のカリーだ。
まずは具材となる野菜を切ることになった。
アムの包丁が、ドンと野菜に振り下ろされた。
「ヒッ!?」
隣の女子が怯えた。
野菜の下のまな板が、真っ二つに割れた。
「…………」
アムのじとりとした視線は、隣の炊事場へと向けられていた。
そこではレグが、とんとんと調子よく野菜を刻んでいた。
たまねぎのカットに区切りがつくと、レグはレッティに尋ねた。
「これで良いか?」
「……どうなの? トリーシャ」
料理の心得がないらしいレッティが、トリーシャに疑問符を丸投げした。
トリーシャは、穏やかに微笑んで頷いた。
「はい。問題ないと思いますよ」
「そう。貧相な平民のくせになかなかやるわね」
「まあ、一人ぐらしだし」
「それにしても、あんたちょっと香水つけすぎじゃないの?」
レグから漂う強い香りに、レッティは眉をひそめた。
「すまんな」
「べつに良いけど……。それでトリーシャ。次はどうすれば良いの?」
「鍋に油をひいて、具材を炒めましょう」
なんのかんの楽しげに、レッティたちは調理を進めていった。
トラブルもなく、レッティたちはカリーを完成させた。
レグは完成したカリーを、皿に盛り付けていった。
食事の用意が整うと、レグはスプーンを手に取った。
そのままカリーを食そうとしたレグを、レッティが制止した。
「待ちなさい。貧相な平民。
自分が食事をする前に、やるべきことがあるでしょ?」
「何だよ? ハラ減ってんだけど?」
「私に料理を食べさせなさい。あーん」
「いや、自分で食えよ」
「忘れたの? あんたたちは敗者で、
これは敗者へのペナルティなんだけど?」
「わかったよ。ほれ、あーん」
レグはレッティのスプーンでカリーをすくい、彼女に差し出した。
「あ、あーん……」
スプーンが近付くと、平然としていたレッティが、少し赤くなった。
そのままスプーンは、レッティの口内におさまった。
「どうだ? うまいか?」
「ま……まあ……平民がすくったにしては
悪くないんじゃないの?」
「どういう理屈だよ」
「…………」
べきりと。
近くのテーブルで、アムがスプーンをへし折った。
「ヒッ!?」
隣の女子が、怯えて声を漏らした。
そんな彼女たちの様子には気付かず、レッティは楽しく食事を終えた。
夕食後は、キャンプファイアーの時間となった。
生徒たちは、火の周りで伝統の踊りを踊った。
アムを乗せたカゲトラは、ねこ独自の踊りを見せた。
猫なりの伝統があるのか。
それとも完全なアドリブなのか。
何にせよ彼女の踊りは、周囲に好評な様子だった。
キャンプファイアーが終わると、コテージで休むことになった。
今のレグはレッティの下僕だが、男女で同じコテージというわけにはいかない。
彼は男子といっしょのコテージで就寝することになった。
翌朝。
朝食を済ませた一行は、山に登ることになった。
罰ゲームはまだ続いていた。
それで昨日と同様に、レグはレッティに同行した。
アムはレイスが操るカゲトラに乗って、レグたちの後ろを進んでいった。
そして前を行くレグを、不機嫌そうに眺めた。
「だいじょうぶ? アムちゃん」
アムを気遣って、ノーラが声をかけてきた。
「何がですか?
だいじょうぶに決まっていますけど。
青い空、白い雲、澄んだ空気。
まったくもって清々しいかぎりです」
「ホントに?」
ノーラがそう尋ねると、アムの表情が、しゅんと沈み込んだ。
「ただ……ちょっとくらい……
レグと屋外学習を楽しみたかったです……」
「だったら楽しもうよ」
ノーラは明るくそう言った。
「えっ……?」
戸惑うアムを置いて、ノーラは前に進んだ。
そしてレグの隣に来ると、アムに振り返ってこう言った。
「おいでよ。アムちゃん」
アムが何かを答える間もなく、レイスはカゲトラを加速させた。
カゲトラは、レグとノーラの間に入り込んだ。
急に近付いてきたノーラたちに、レッティが視線を向けた。
「何よ?」
「べっつに~。
他の班の人と行っちゃダメって決まりはないでしょ?
いっしょに行こうよ」
「お断りよ。
この私がオーウェイルといっしょに歩くわけがないでしょう」
レッティはそう言って、早歩きになった。
そうしてアムたちから距離を取ると、彼女はレグに振り返った。
「何してるの? さっさと来なさい」




