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その19の1「アムと宝石店」


 翌朝。



 通学時よりはのんびりと支度をして、アムは庭に出た。



 彼女の隣には、弟のキリアンの姿があった。



 レイスを連れて、二人は通りに出た。



 そこで猫車が待機していた。



 アムたちが来たのを見て、御者が車のドアを開けた。



「……お願い。レイ」



 レイスはアムを抱きかかえ、車の中へと運んでいった。



「っ……」



 硬い表情で、アムは座席に腰をおろした。



 レイスはその隣に座った。



 続いてキリアンが車に乗り込み、アムの向かいの席に座った。



「だいじょうぶ? ねえさん」



「だいじょうぶとは言えませんが……。


 甘えてはいられませんから。


 それより、今日は頼みましたよ」



「そこまで自信ないけどね。ぼくも。


 クラスの男子とかに声をかけちゃダメだったの?」



「妙な噂になっても困りますから」




 ……。




 レグの自宅。



 休みを言い渡されたレグは、いつもよりぼんやりと朝を過ごしていた。



(休みか……。どうするかな。


 最近は休みの日でも


 アムに振り回されてたからな。


 休みってのは、どうやって過ごすんだったか。


 ずっとゴロゴロしてても良いが……)



「……散歩にでも行くか」



 イチニチ部屋で過ごすのは、逆にダルい気がする。



 そう思ったレグは、深い目的もなくアパートから出た。



 いつもの習慣がそうさせるのか、レグの足はオーウェイル邸に向いていた。



 ぶらぶらと歩き、高級住宅街に入った。



 すると身なりの良い通りすがりの老人が、不審そうにレグを見た。



(そういや場違いだったな。こういう所は。俺は)



 他者の視線を無視して、レグはアムの家へと近付いていった。



 暇人まるだしな自分の行動に、レグは苦笑いを漏らした。



(休みの日まで職場に来るとは。仕事人間かよテメェは。


 ……元気にしてるかね)



 レグはオーウェイル邸のほうを見た。



 すると門の前に、猫車が陣取っているのが見えた。



(おっ、シルク)



 猫車をひいているのは、見覚えのある白猫だった。



 御者の命令を受けて、猫車が走り出した。



 車はレグのほうへと走ってきた。



 御者はレグと顔なじみではない。



 距離が縮まっても、特にレグを気に留めた様子もなかった。



 すれ違いざまに、レグは車の窓を見た。



 そこにアムの横顔が見えた。



 アムは硬い顔で俯いていた。



 周囲を見る余裕はないらしく、レグに気付く様子もない。



 彼女の隣には、レイスが寄り添っていた。



 レグの視線に気付いたらしく、レイスはレグを見返してきた。



 レイスが軽く頭を下げたので、レグは軽く手を振って返した。



 すぐに猫車は、レグの後方へと去っていった。



 車に振り返らずに、レグはこう考えた。



(まさか出くわすとは。


 休みだってコト忘れて、


 うっかり職場に来ちゃったやべーやつ……みたいに見られてないよな?


 ナーガエールさんのことだから、


 アムには言わないとは思うが……。


 アムのやつ、猫車に乗ってたな。


 恐怖症を治そうとがんばってるってことか)



「そろそろ……俺が居なくてもだいじょうぶか?」



(さて……もうちょっと身の丈に合ったところにでも行くか)



 レグは覇気のない足取りで、高級住宅街から去っていった。




 ……。




 アムを乗せた猫車が、宝石店の駐ねこ場にたどりついた。



 レイスに車から下ろしてもらい、アムは店に入っていった。



 ネックレスが並べられた棚を見て、アムは弟に尋ねた。



「キリー、どれが正解ですか?」



「正解とかはないと思うけど」



「さてどうですかね?


 平均的な価値観の男性であれば、


 どれを選ぶと思いますか?」



「贈る相手が平均的じゃなかったら、


 意味のない情報だと思うけど……。


 まず普通の男ってさ、


 ネックレスなんかつけないって人が多いと思うけどね」



「レグはつける人ですから、


 それこそ意味のない情報ですね。


 もしあなたが自分で身につけるのであれば、


 どれを選びますか?」



「あんまり目立たないやつ……。


 これかな。こういう小さいの」



「なるほど、これが正解ですか」



「いやだから……」



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