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その18の2


 オーウェイル邸を出たレグは、夜道を歩いていった。



 高級住宅街を離れ、安アパートがある区画に入った。



 ひとけが少ない狭い道を、安っぽい街灯を頼りに進む。



 すると前方から、フードを被った男が歩いてくるのが見えた。



 男の周囲は、薄闇に包まれている。



 顔もロクに見えない。



 レグは男を気にせずに、そのまますれ違おうとした。



 男が腕を振った。



 男の手には、光る何かが握られていた。



 戦闘用の、厚みのあるナイフだ。



 男の殺気を感じた時点で、レグはすぐに回避動作に入った。



「くっ……」



 優雅に回避……というわけにはいかなかった。



 レグはぐらりと体勢を崩した。



 その隙に、男は追撃を加えようとした。



「『収納』……!」



 スキルによって、レグの手中に盾が出現した。



 盾がナイフを弾いた。



 この防御は、敵にとって予想外のはずだ。



 だが、レグの体勢が崩れていたこともあり、受け方がヌルい。



 相手に隙を作ることはできなかった。



 敵は素早く冷静に後退し、レグから距離を取った。



 奇襲を受けたわりには冷静に、レグがこう尋ねた。



「まだ続けるか?


 だったら助けでも呼ばせてもらうが。


 おまわりさん、ここに痴漢が居ますってな」



 レグはあいているほうの手で通信機を持ち、敵に見せびらかした。



「…………」



 状況を値踏みしたのか、少しの沈黙が場を支配した。



 その後、男は跳躍した。



 鋭く、家よりも高く。



 建物の屋根に飛び移り、敵はレグに背を向けた。



 そしてすぐ、レグの視界から姿を消した。



 レグは周囲に意識をめぐらし、脅威が去ったことを確認した。



 どうやらもう安全らしい。



 そうわかると、彼は疲れたふうに息を吐いた。



「ふぅ……」



(かなり出来る感じだったな。


 退いてくれて助かった。


 勝ち目が無いとは言わんが、


 こんな安い装備で、強いのとやりあいたくないからな)



 一瞬の攻防だったが、それなりの相手だということはわかった。



 向こうは完全武装だろうが、レグのがわはそうではない。



 もし実力が互角なら、向こうが有利だったはずだ。



 レグは安堵しつつ、盾を『収納』することにした。



 一応は最高級品である盾は、ナイフを受けても傷ひとつついてはいなかった。



 『収納』を終えたレグは、敵が逃げた屋根のほうへと視線を向けた。



(あいつの狙いは何だ?


 恨みを買った覚えがないとは言わんが、


 冒険者を引退してからずいぶんになる。


 昔の知り合いが、いまさらお礼参りに来るか?


 結婚式で顔を合わせて、恨みが再燃したとか?


 それよりは……)



 レグは通信機のボタンを押した。




 ……。




 アムの部屋。



 アムはいつもの車椅子の上から、レイスに話しかけていた。



「あの……レイ。明日は休むよう、レグに言っておいてください。


 それと猫車の手配をしてください」



「猫車……よろしいのですか?」



「いつまでも弱いままではいられません。


 強くなれるよう、努力をしなくては」



「かしこまりました」



 そのとき、レイスのポケットで通信機が震えた。



 仕事専用の通信機は、レグの機体にだけ対応している。



「リカールさま?」



 通信機に耳を当てながら、レイスはレグの名を呼んだ。



「そっちはだいじょうぶですか?」



 レグが気遣う声が、スピーカーから聞こえてきた。



「はい。何かあったのですか?」



「ちょっとヘンなのに絡まれまして。


 衝動的な通り魔とかじゃなくて、


 プロの手並みでした。


 いまさら俺を狙う理由もないと思ったんで、


 本命はそっちかと思ったんですが、


 何もありませんでしたか?」



「はい。屋敷の警備は万端ですから」



「そうですか……?


 うーん……? 俺なんかの首が欲しかったのか……?」



 敵の意図を絞りきれないようで、レグは悩む様子を見せた。



 一方レイスのほうは、敵の本命がレグだったとは思っていない。



「いえ。事情も話さず巻き込んでしまい、もうしわけありません」



「謝らないでください。


 ギルド長からの直々の紹介に加えて、


 ただのドライバーには破格のギャラ。


 ちょっとおかしいなと思ってましたよ。


 切りますけど、いちおう気をつけてくださいね」



 通話を終える気配を見せたレグを、レイスが呼び止めた。



「お待ちください」



「えっ?」



 間が悪く、レグからの通信が切れた。



 すぐに通信機が震え、レグから再びの通信があった。



「すいません。何を言いかけてたんですか?」



「明日はドライバーの仕事はお休みしていただきます。


 またあさってからよろしくお願いします」



「はい。わかりました。以上ですか?」



「はい。お休みなさい」



「お休みなさい」



 レグはまた通信を切った。



 通信機をポケットにしまったレイスに、アムが声をかけてきた。



「レグが遠話をしてきたのですか? 彼はなんと?」



「お休みなさいと。それと、明日は休みだと伝えさせていただきました」



「……そうですか?」



「そうです」



「そうですか」



 アムはむずむずと車椅子を動かした後、レイスにお茶を注文した。



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