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32/58

その17の2


「そう……。疑って悪かったね」



 車椅子の少女に対し、強い疑いを向けることを恥だと思ったのか。



 カレンはすぐに引き下がった。



「ですがまあ、


 日が経つごとに立ち直っているのは事実です。


 今なら少しがまんをすれば、


 車に乗ることくらいは出来るかもしれませんが」



「それで……キミはここに何をしに来たのかな?


 私の被害妄想でなければ、


 キミは私のことを好意的には見ていないようだけど」



 何か含むところがなければ、他人の結婚式にわざわざ出席するはずがない。



 カレンは身構えて、アムのイシが明らかになるのを待った。



「すいません。


 べつにケンカを売りに来たわけではないのです。


 ただ、別れた彼女と話すのは


 勇気が要るだろうと思ったので、


 応援をしてあげようと。


 それだけのつもりでした」



 だが結局は、それだけでは済まなかったのだろう。



 カレンを前にしてからのアムは、くすりとも笑っていない。



 めでたい席で、社交辞令を学んでいる令嬢が、新婦に愛想笑いさえ見せないとは。



 内に棘を持っていると告げているようなものだ。



 一生に一度の祝いの場で、初対面の相手に冷や水を浴びせられるとは。



 カレンの立場からすれば、たまったものではない。



 とはいえ、ここで激昂するようなことになれば、それこそ台無しだ。



 彼女はなんとか平静を保ち、声音に少しだけ棘を乗せた。



「私の顔がむかついたのかな?」



「レグは私の恩人で、好ましい人だと思っています。


 あなたが彼を傷つけた相手だと思うと、


 残念ながら、完全に平静ではいられないようです」



 アムの瞳が、少しだけ燃え上がったように見えた。



 対するカレンは、視線を沈ませてこう言った。



「私だって……傷つけたくて傷つけたんじゃないよ。


 けど、仕方ないでしょ? あんなことがあったんじゃ……」



「あんなこと?」



 アムに疑問を向けられると、カレンの視線が浮き上がった。



「…………そう。キミはまだ、それくらいの関係なんだね。


 ふふっ。……ごめん。笑うようなことじゃないのに。


 レグには言わないで。私が笑ったって」



「何だと言うのですか?」



 相手の笑みに見下すような雰囲気を感じつつ、アムは平静を保った。



 カレンは笑みをひっこめて、まじめな顔でこう言った。



「忠告しておくよ。


 もう手遅れかもしれないけど……。


 彼に恋愛感情を抱かないほうが良いよ」



「いちおう理由を聞いておきましょうか」



「傷つくことになるよ。


 きっと、キミもレグも。


 彼には女の人を幸せにすることなんてできない」



「婚約までした相手に、ずいぶんな言い様ですね」



「そうだね。でも事実だと思う」



「ご忠告どうも」



「聞くつもりはない……って感じだね?」



「そうですね。


 レグは優秀なドライバーです。


 将来的に彼に対して、


 私がどのような感情を抱くかはわかりませんが、


 距離を取るには惜しい存在です。


 仮に、私が彼に恋をして、


 彼の力ではどうにもならない障害が、


 私たちの前に現れたとしましょう。


 そのときは……私の力で二人ぶんの幸せを掴んでみせます」



「歩くこともできずにレグに頼ってるのに?」



 カレンは真顔のまま、冷ややかにアムを見た。



「っ……!」



 痛いところを突かれたアムは、表情筋をぐっと強張らせた。



「ごめんね。傷ついたかな?


 けどこのままだと、キミはもっと傷つくことになると思うよ」



「何を根拠に言っているのですか……!?」



「実はね……」







「彼、ホモなんだ」







「えっ……!?」



 既に揺らいでいたアムの表情が、さらに激変したあと硬直した。



「まあ冗談なんだけどね」



 カレンがそう言って笑うと、麻痺していたアムの表情が、再び動きはじめた。



 アムは怒りを隠さず、声を荒らげてこう言った。



「まじめな話をしていたのに、何のつもりですか……!?」



 対するカレンは、怒りを受け流すように薄く笑った。



「ごめんごめん。けど、揺らいだよね?


 私のヨタ話にショックを受けた。


 やっぱりキミは、そんなに強くないよ。


 強くも弱くもない、普通の子だ。


 キミがレグを幸せにするって?


 口だけならなんとでも言えるよね。


 口先だけの女に、レグを傷つけないで欲しいな」



「決め付けないでください。


 肝心な話を聞いていませんよ。


 どうして私がレグを傷つけると思うのですか」



「そんなに知りたいなら、レグから聞くと良いよ。


 正面からまじめに聞いたら、教えてくれると思うよ。それじゃ」



 言いたいことは言い終えたのか。



 カレンはアムに背を向けた。



 そして友人たちの所へと歩いていった。



「あっ……」



 話をはぐらかされたアムは、スッキリしない様子で元のテーブルに戻った。



 それを見て、レグが口を開いた。



「お帰り。どうだった?」


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