その17の1「アムとカレン」
「そんなもん、1か100かで答えられるかよ」
「そっか。100じゃないんだ?」
「悪いか? そんなもんだろ」
「悪くないよ。私も100じゃないと思うし」
「おまえなぁ……トールには言うなよ。それ」
「口には出さないけど、トールはわかってると思う」
「……お人好しなやつ」
「うん。そうだね。ところでレグ……その子は?」
カレンの視線が、アムのほうへと向けられた。
「はじめまして。アム=オーウェイルです」
不自由な体なりに精一杯に、アムは礼儀正しく挨拶をした。
「オーウェイル……。私はカレン」
「存じております」
「そう。高そうな車椅子だね?」
「はい。魔導式なので。お父さまには感謝しています」
「お父さま……ねぇ」
カレンの探るような目に、アムは平坦な表情を返した。
「何か?」
「いや……レグとはどういう関係なのかなと思ってさ」
「こいつは俺の雇い主だ」
口を挟んだレグのほうへ、カレンは視線を流した。
「雇う? レグを?」
「今はこいつの専属ドライバーをやってるんだ」
「レグが専属……。意外だね」
言葉のとおりに、カレンは意外そうな表情を浮かべた。
「そうか?」
「宮仕えみたいな仕事は、嫌がるかと思ってた。
何か仕事をするなら、
もっと自由なやつを選ぶかなって」
「まあ……べつに好きで選んだわけじゃねぇよ。
ギルド長に頼まれて、仕方なくだ」
仕方なく……というレグの言葉を聞いて、アムの眉根がぴくりと下がった。
「私たちとは切れたのに、ギルド長とは会ってるんだ?」
「切れるほどくっついてもなかったってことだ」
「そう? それでわざわざ引き受けたんだ?」
「稼ぎが良かったからな」
「お金に困ってるなら、ちょっとは都合するけど?」
「嫌だよ。おまえらと生々しいカネのやり取りなんて。
べつに困ってもないから、いらん心配はするな」
友人とはカネの貸し借りをするなとは、よく聞こえてくる言葉だ。
レグとカレンたちは、疎遠になった間柄ではある。
それでも関係にケチがつくようなことは、やはりしたくはない。
「問題ないなら良いけど。
仕事の関係の人を、わざわざ結婚式に招待したの?」
カレンは納得できない様子でレグの言葉を待った。
レグは上手い返答を思いつけず、表情を苦くした。
「招待したと言うか……ひっついて来たと言うか……」
そのとき涼しい顔で、アムが口を挟んできた。
「レグにはとてもお世話になっていますから、
そんな彼がお世話になった相手なら、
顔を合わせておくべきかと思ったのです」
その返答は、あまり納得がいくものではなかったようだ。
カレンは怪しむような表情をアムへと向けた。
「ただのドライバーと雇い主にしては、ずいぶん親密みたいだね」
「そうですね。毎日おなじ猫に乗っている仲ですから」
「同じ猫……?
レグ、ドライバーって言ってたけど、
ほんとは何の仕事をやってるの? まさか……」
普通、ドライバーと雇い主は、同じ猫に乗ったりはしない。
ドライバーは猫に乗り、雇い主は車に乗る。
それが普通だ。
レグがやっている仕事は、どうやら普通ではない。
つまり……?
カレンはぎょっとした顔をレグに向けた。
……どうせロクでもない想像をしたのだろうな。
そう推測したレグは、すぐに訂正を入れた。
「ただのドライバーだって。
アムはさ、猫車の恐怖症なんだ。
だから猫にちょくせつ乗ってるんだ」
「そう……恐怖症。
レグ。ちょっと彼女と仲良くなりたいから、
二人だけで話をさせてもらっても良いかな?」
「え? ああ……」
レグをその場に残し、カレンとアムはテーブルから遠ざかっていった。
二人だけというアムの言葉を尊重したのか。
レイスはテーブルの近くに残った。
レグはやや戸惑った顔で、レイスに声をかけた。
「何か食べませんか?」
「いえ。鍛えていますから」
……。
人々から距離を取ると、アムはカレンと向き合った。
「さて、何をオハナシしましょうか?」
アムのほうから口を開くと、カレンがこう尋ねてきた。
「猫車恐怖症って、本当?」
「ええ。本当ですよ。
車椅子に頼るようになったのは、
猫車の事故にあったのが原因ですから」




