その16の2
新郎のトールが祭壇の前に立つと、スピーカーから音楽が流れはじめた。
曲に合わせるように、新婦が入場してきた。
まっすぐに歩いていく。
夫となる男の所へ。
やがてレグの視界に、新婦の姿が映った。
とっくに受け入れていたはずの光景だった。
この状況で現れるのは、カレン以外にありえない。
だが彼女を見た瞬間、レグは心臓がどくりと跳ねるのを感じた。
その気配を感じたのか、それとも偶然か。
カレンの視線が、ふと横に向けられた。
カレンの瞳に、レグの姿が映った。
レグもカレンを見ていた。
少しの間だけ、二人の視線が重なり合った。
カレンの表情は、ほとんど揺らがなかった。
かつての婚約者の姿を見て、いったい何を思ったのだろうか。
レグには推し量ることができない。
カレンはすぐに視線を外し、トールの所へと歩いていった。
祭壇の奥で、神官が口を開いた。
そこから吐き出されたのは、お決まりの文句だった。
神官に問われ、新郎新婦は神々に愛を誓った。
指輪の交換が行われた。
そして誓いの口づけが済み、カレンとトールは夫婦になった。
儀式が済むと、二人は来場客に祝福されて退場していった。
二人の退場が終わったことで、式は終了となった。
(結婚したのか。オレ以外のやつと。カレンが)
レグがぼーっとしていると、隣からアムが声をかけてきた。
「レグ。レグ。あの?」
レグは声のほうを見た。
目の焦点が定まらず、アムの姿がぼんやりして見えた。
「ん? ああ。何だ?」
「次は披露宴ですから、会場を移動しないといけませんよ」
「……ああ。そっか」
レグはしゃっきりとしない顔で、長椅子から立ち上がった。
そして結婚式場のすぐ隣の、披露宴会場へと移動した。
天気が良かったので、当初の予定通り、会場は屋外となった。
日光の下に並べられたテーブル席に、レグは着席した。
アムは車椅子のまま、レグのそばに移動した。
参加者の移動が済むと、司会の男がマイクを手に取った。
司会の言葉に合わせ、新郎新婦が入場してきた。
それから司会のスピーチタイムとなった。
彼の語りは軽妙で、しばしば笑いが起きた。
次に新郎が、感謝と未来への抱負を述べた。
スピーチが終わると、食事と歓談の時間になった。
レグは新郎たちのほうは見ず、料理に手を伸ばした。
そこへ新郎新婦が近づいてきた。
「レグ。久しぶり」
新郎のトールが、レグに声をかけてきた。
レグは俯いていた顔を上げて、新郎新婦に向き直った。
そして二人に祝福の笑みを向けた。
「ああ。トール、カレン、結婚おめでとう」
「ありがとう。……元気にやってる?」
「それなりにな」
「良かった。ひょっとしたら、来てくれないかと思ってた」
「ちょっと迷ったよ。
今の俺のしょぼくれた姿を、祝いの席に見せても良いのかって思ってな」
「しょぼくれてないよ。バッチリ決まってるよ。その格好」
トールがレグに向けた賛辞は、お世辞などではないだろう。
珍しく着飾ったレグの姿には、みすぼらしい点は見当たらない。
強いて言えば、大きめの首飾りが少し不似合いなことくらいか。
「ありがとよ」
「礼を言うのはこっちのほうだよ。
ぼくとカレンのことを、認めてくれてありがとう」
「大げさに言うんじゃねぇよ。認めるに決まってんだろ」
「カレンのことは、ぼくがぜったいに幸せにするから」
「しくじるなよ。おまえは」
「うん。良かったら、カレンとも話すと良いよ。
ぼくが居ると話しにくいなら、向こうに行ってるから」
「べつに気をつかわんでも……」
レグはそう言ったが、トールはさっさとよそへと行ってしまった。
「聞いちゃいねえな」
レグは残されたカレンを見た。
カレンの表情は、トールほど和やかとは言えない。
ぎこちない様子の二人を、アムがちらちらと観察した。
「……せっかくだし、なんか話すか」
「無理に話さなくてもいいけど」
「べつに無理ってほどでも。
仕事はどうだ? うまくやってるか?」
「うん。ほどほどにね」
「そうか。何事もほどほどが一番だ」
「…………」
「…………」
白々しいやり取りの後、レグは言葉に詰まった。
カレンのほうも、積極的に話を盛り上げるつもりはないようだ。
「気まずいならもう行くけど?」
場に見切りをつけた様子のカレンを、レグが呼び止めた。
「待てよ。ただちょっと久しぶりだから、
昔のノリが思い出せねえだけだ」
「……ねえ、レグ」
「うん?」
「私のこと、もう吹っ切れた?」




