その16の1「幼馴染みと結婚式」
「明日は学校がありますから、
それくらいにしておいたほうがよろしいかと」
レイスが忠言すると、アムは細まった目でレイスを睨んだ。
「ケチケチ言わないでください。
ちょっとくらい良いでしょう?」
「深酒は美容にも影響します。
リカールさまに、みっともない姿を見せることになりますよ」
アムは真顔に戻り、恥ずかしそうに俯いた。
「……しまってください」
「はい」
レイスは酒瓶を持って去り、少しすると帰ってきた。
グラス一杯の酒で酔ったアムは、弱々しくレイスに懇願した。
「レイ……ベッドに運んで……」
「はい」
レイスは嫌な顔ひとつ見せず、粛々とアムをベッドに運んだ。
ガントレットはつけたまま、アムはベッドに横たわった。
アムは視線だけをレイスに向け、酔った声でこう尋ねた。
「レグに恋人が居たなんて……。レイは知っていましたか……?」
「いえ。ですが……人はいつか恋をするものです。アムさま」
レグが19歳になってから、アムは彼と出会った。
そんな相手の恋心を、独占することなどできるわけがない。
初恋の相手になることなど出来るはずがない。
常識だ。
わかりきっているこの世の道理だ。
何もおかしいことはない。
なのに……。
「……もう少しお酒をください」
もっとグチャグチャになってしまいたいと、このときアムは思った。
そんなあるじの破滅願望に、忠誠心あついメイドが従うはずもない。
レイスはつれなくアムの頼みを拒絶した。
「お断りさせていただきます」
「ケチ」
レイスならそう言うだろうと思っていたので、アムはもう何も言わなかった。
……。
少しの日々が流れて、結婚式の日がやって来た。
珍しく礼服姿のレグが、猫小屋でアムにこう尋ねた。
「マジで来るのか? おまえ」
「はい。マジで行きます」
そう答えたアムも、しっかりと礼服に着替えていた。
一方で、そばに控えるレイスはメイド服のままだ。
あるいはメイド服こそが、メイドにとっての礼装なのかもしれない。
知らんけど。
「……妙なことはしないでくれよ」
レグはそう言って、諦め顔を見せた。
「失敬な。人を何だと思っているのですか」
「……はぁ。それじゃ行くか」
気だるげに、レグは猫に視線を移した。
「はい。レグ。お似合いですよ。その礼服。
髪もばっちりと決まっていますね。
いつもその格好にしていただいても構いませんけど?」
「ヤだけど?」
「なぜ?」
「歩きにくい」
「オーダーメイドなのですから、
サイズはぴったりのはずなのですが……」
「ブカブカのほうが好みなんだ」
「はぁ。それとその首飾りは、
服に合っていないと思いますけど」
レグはいつも身につけている首飾りを、今日も身につけていた。
アムくらいのお嬢さまともなれば、アクセサリは服に合わせるのが普通だ。
ずっと同じアクセサリを使用しているレグを、趣味が悪いと思ったようだ。
「ドレスコードは守ってやったんだ。
アクセサリくらい好きにさせろよ」
「ですが……」
まだ執着を見せるアムの言葉を、レグはきっぱりと断ち切った。
「良いから乗れよ」
「レイ、お願いします」
レイスはいつものように、アムを鞍に乗せた。
小屋から出たレグは、猫を通りへと走らせた。
そのまま通りを進み、都内の式場へとたどりついた。
シルクを猫小屋に預けると、レグたちは式場の入り口へと向かった。
中に入ると、神々を祀る神殿のような内装が見えた。
長椅子がいくつも並べられ、奥には祭壇が見える。
とはいえ、ここで実際に礼拝などが行われるわけではない。
ここは結婚のための施設であり、毎日のように結婚式が行われる。
そこに一般の宗教儀礼が入り込む余地はない。
神聖な施設に似せた商業施設だということだ。
普通の神殿と比較すると、窓の面積がかなり大きく取られている。
少し過剰なくらいだが、結婚式というハレの日にはちょうど良いのかもしれない。
アムを先に長椅子に座らせると、レグは車椅子を『収納』した。
そして彼女の隣に腰をおろした。
いつものように談笑をすることもなく、レグは時を待った。
やがて結婚式が始まった。
まず、式を取り仕切る神官が、祭壇の奥に移動した。
次に式場の入り口から、新郎が入場してくるのが見えた。
華やかな道を歩く男の顔を、レグはよく知っていた。
(トール……)




