その13の2
「私は構いませんが……。
シルクが拗ねないと良いのですが」
「だいじょうぶだよな?」
「みゃー」
シルクは明るく答えた。
自分の仕事を奪われることを、特に気に病んでもいないのだろうか。
「ほら、だいじょうぶだって」
「かってな猫翻訳はいかがなものかと思いますけど。
まあ、それほど気にしてはいないようですね」
「じゃ、そういうことで」
「はい。そういうことで行きましょう」
そういうことになった。
その翌日。
猫に乗ったレグが、オーウェイル邸まえの通りに現れたのだが……。
「……何ですか? その猫は」
猫を見たアムが、幻の珍獣を見たかのようにそう言った。
「俺の猫だが?」
よくも堂々と返せるものだと、アムは思ったに違いない。
レグが乗る猫は、全身をゴテゴテとした防具に包んでいた。
遊びに行くのではなく、火砲とびかう戦場にでも行くつもりなのか。
頭部はすっぽりとねこ兜に覆われ、顔もわからないありさまだった。
さすがに看過できず、アムの口から文句が漏れ出た。
「ダンジョンに行くのではないのですよ?
何なのですかそのデコレーションは」
するとレグは、オーバーリアクションで首をかしげ、こう言い返した。
「俺の故郷じゃデコった猫がはやってるっていう
新事実を知らないのかよ?」
「知るわけがないでしょう。
クソ田舎のセンスを都会に持ってこないでください」
「故郷を想う俺の心が傷ついたんだが?」
「それはどうもすいませんでしたね。
良いから脱がせてあげてください。
ねこ虐待罪で逮捕しますよ?」
そんなへんてこりんな格好、猫だって望んではいないだろう。
アムは猫が普通の格好になることを望んだが……。
「断る」
レグは断固として譲らなかった。
「えぇ……何ですかその
たまにひょっこり出てくる頑なさは」
「良いから行こうぜ。時間がもったいない」
レグはどうしても、珍妙な猫の格好を押し通すつもりのようだ。
「……折れれば良いんでしょう。折れれば。
レイ、お願いします」
アムは諦めて、レイスに声をかけた。
「はい」
珍妙ねこに取り付けられている鞍は、ふだんアムが使っている物と同じだった。
レイスはいつものように、アムを鞍に固定していった。
準備が終わると、レイスはレグの後ろに座った。
「よし。出発だ」
意気揚々と、レグは猫を走らせはじめた。
見た目は絶望的だが、乗ってみると意外に悪くない。
そう気付いたアムが、レグに話しかけた。
「優しい乗り心地ですね。この猫さんは」
「良い猫だろ?」
「はい」
通りの交差点で、レグは猫を一時停止させた。
近くを歩いていた通行人の視線が、猫へと向けられた。
「何だあの猫? 戦場帰りか?」
「すげえな。飼い主いったいナニ考えてんだろ」
普段は浴びない種類の視線を浴びて、アムは少し赤くなった。
「めちゃんこ見られてますよ。めちゃんこ」
早く立ち去りたい気分のアムに、レグはノホホンとこう答えた。
「そうか。都会でもデコ猫がはやるかもなぁ」
「はやりませんけど?」
……。
やがてアムたちを乗せた猫は、有名な水族館で足を止めた。
国内有数と言われている、大水族館だ。
ゴテゴテの猫も連れて、一行は水族館に入っていった。
水槽のそばを歩きながら、レグがアムに声をかけた。
「けっこう有名なとこだけど、来たことあるか?」
「小さかったころに一度」
「そのときと比べてどうだ? けっこう変わってるか?」
「あまり思い出せませんね。レグはどうなんですか?」
「二年ぶりくらいかな」
「変わりましたか?」
「……どうかな。俺もあんまり思い出せねぇや」
「それでは新鮮さを楽しみましょうか」
「そうだな」
そのとき。
「お母さん! 見て!」
何か珍しい魚でも居るのか、子供が大きな声を上げた。
「あの猫すごいヘン!」
子供の人差し指が、ゴテゴテ猫へと向けられた。
「こら、やめなさい」
母親に注意され、子供は遠ざかっていった。
「…………」




