115 探偵双子の追跡劇
side風華
「風華、あれって、稜華っぽくない?」
「美華、どこにいる人のことを言っているの?」
私、紫月風華は美華の言葉に目を細める。
「あそこ。系のグラデーションの髪が見えるじゃん。ほら、ローブ来ている人」
「見つけた」
「で、そのさらに横には青緑色の髪をした、またまたローブ姿の人がいる」
「いるね。……となると、あの紫髪が稜華?」
「だと思う」
感の良い妹に気づかれないよう、こそこそと会話をする。
「稜華と一緒にいる人、誰だろうね」
「分からないよ、美華。だけどあの稜華が外に出るくらいだから、よっぽどじゃないかなぁ」
「確かに。風華ナイス」
引きこもりの稜華のことだ。自宅か学園の研究室にいるような子でもある。そんな子がこんな観光地にいるのは不自然だった。
「……つける?」
「そうだね。こっそり」
「予定変更、決定だね」
今日は移動する予定だったから動きやすさ重視の服だ。きっと今の格好では稜華も気づかないだろう。そう思い、私達は稜華のあとをつけ始めた。
**
「寒っ!」
稜華達が服屋に入って早30分。
冷たい空気が肌に刺すようでかなり厳しい。かといって店に入るのも……っていう感じだ。
「美華、向かいのお店に入って待とうよ」
「それだと見逃しちゃうよ」
「だけど……このままだと風邪ひくよ?ただでさえギリギリのスケジュールを押してここにいるんだし……」
「じゃあ、どこかに行くの諦める?」
「それもそれでもったいなくない?」
「別に行かなくても良さそうなところとか、比較的家か学園に近いところがあるから……」
この調子じゃ今日の馬車に間に合わなそうだ。
稜華みたいにバンバン転移魔法が使えるわけじゃないし、そもそものんびり外の景色を楽しむのも目的の一つだし。
「……美華、どうする?」
「どうするって言っても……」
「やっぱ旅程を削る?」
「その方がいいよね……」
「ゴメンね、美華。稜華の後を追うことになったばかりに……」
「風華が謝ることじゃないよ。そもそも私が稜華を見つけたし……」
少し気まずい雰囲気が私たち二人の間に流れる。
「……多分今夜はこの街にいることになるだろうから、私、宿の予約してくるよ?」
「いいの?」
「うん。風華はここで稜華たちを見てて」
「オッケー」
美華はパタパタと駆け出し、宿の並ぶ通りへ向かう。その姿が見えなくなったところで私はズルズルと座り込んだ。
「……はぁ」
昔は、何をしても気が合ったのに。意見が食い違ったり気まずい雰囲気になることもなかった。
今でも仲が良いね、気が合うねって言われるけど。
その一言は私にとって、苦しい。昔ほどに一心同体っていうか、以心伝心っていうか……ずっと美華と通じているっていう感じがないから。
だから最近は意見がバラバラになったり、何を話したらいいのかがわからなくなる。
「ホント、どうしたらいいんだろ……」
そんな小さな呟きは人の中に消えていく。
「我が占ってやろうか?」
そう思っていた声を、誰かが拾った。
「我はキロマンテ・レノハ。占い師だ」
「……そうですか」
「双子の姉君、悩んでいるのだろう?」
「生徒ですか」
「……まぁ、そんな感じだ」
学園の、と言わなくてもわかったようだった。
双子の姉。それは私だから。
「私、占いの対価になるほどのお金は持ってないんですけど」
「大丈夫だ。我は見習い。もしかしたら間違うかもしれないが、大目に見てくれ。だからタダだ。……ここだけのヒミツだぞ?」
「……ありがとうございます?」
そもそも、なんでこの人は私なんかに。
「そうだな。……ほうほう。紫月、風華、か」
「……名前、知らなかったんですか」
「知らなかった」
……この占い師、ホントに学園の生徒?
そんな疑惑が胸に浮かぶ。だけど、確か5年生に占い師という生徒がいたはずだ。背丈的にも確かに5年生ぐらいだろうと思い、無理やり振り払う。
「お主は悩んでいるな」
「むしろ悩んでいるから私に声をかけたのでは?」
「そうだな。そうだった」
しっかりしているようで、ふわふわしているその人は、つかみどころがない。
「……なるほどな」
「何がですか?」
「お主のことだ」
私の、何が。
「双子の妹との関係はそんなに心配しなくて良い。むしろ良い傾向とも言えるだろう。外の世界に触れ、それぞれがようやく確立してきた、という感じだな」
……つまり、今のままで良い、ということ?
その思考に辿り着き、むくむくと疑念が湧く。
「ただ、話し合いは必要だ。今のままではすれ違うぞ」
「……はぁ」
「次は……姉妹のことか?こちらも関係性についてか」
一体、この占い師は何を持って占いをしているのだろう。ぼんやりと目の前の人物を眺めながら考える。
「イツカ……?其奴はかなりの秘密主義だな。こちらは時が経てば……しかも近いうちにその秘密がわかるだろう。安心せよ。そのほかの姉妹は特に問題無しだな」
遠くに、紫の髪が見える。
「……タイムリミットのようだな。我の忠告、忘れるでないぞ」
そういうと占い師は裏路地に姿を消す。
「風華、宿、予約してきたよ。……誰かいたの?」
「……占い師」
「へぇ。そうなんだ。風華、変な占い師には引っかけられないようにしなよ? お代とかは求められた?」
「なんか、いらないって」
つくづく変な人だ、と今更ながら思う。
「ちなみに名前は?」
「えっと……ね、キロマンテ・レノハ?とか言ってた」
「風華、ホント!?」
美華が血気迫る表情で私をガクガクと揺さぶる。
「美華、くるしい……」
「あ、ゴメン。それより、なんでそんな大物がこんなところに!?しかもタダだったんでしょ!?」
「うん」
一体どの要素で美華がこんなに興奮することに……。
「風華、キロマンテ・レノアって知ってる?」
「え?誰?」
「もう! 5年の占い師の!」
「ああ、その人」
だからその人でしょ。
「そのお母さんはめっちゃ有名な占い師で、キロマンテ・レノハっていうの!」
「……同一人物?」
「違うって!名前!最後の位置文字が違うでしょ?レノアとレノハ」
……確かに。
「確かにっていう顔してる!」
いつの間にか、気まずい雰囲気は消えてなくなっている。
「で、何を占ってもらったの?」
「……ヒミツ」
だって、美華には言いたくないから。
「……風華、稜華達がお店から出てきそうじゃない?」
「え?ウソ」
「ほら、もうお会計してる。ちょっと離れよう?」
「そうだね」
美華ナイス、だね。
「……華! わたくし……ってやつ食べたいっ!」
「……ですね」
「じゃあ……!」
「……?」
「はいっ!……」
「どっちも……大丈夫ですよ」
少し前から聞こえる、途切れ途切れの会話。
「スイーツ店にでもいくのかな?」
「そうじゃない?だけど、先回りは難しいし、少しだけ間を開けて入ろう」
「人の出入りが激しかったら時間を置かなくていいよね」
「そうだね」
そしてこの町で1番有名なスイーツ店に一行は入って行く。
ここはかなりの評判がいい。稜華が事前にピックアップしてきたのか、それともなんとなくで店を選んでいるのか。……もし後者だったら稜華はすごいと思う。うん。
「いらっしゃいませ〜」
流行っているスイーツ店ということもあり、内装は若者向けのおしゃれな感じだ。
「席は自由席となっております」
ラッキー。
二人で顔を見合わせる。
素早く店内を見渡し、特徴的な3人組を探すとその3人がさりな〜く視界に入り、かつ向こうからは分かりにくいカウンター席に座る。前の前は曇りガラスになっていて、ぼんやりとしか見えないけど、きっと大丈夫だろう。
「こちらがメニューとなっております」
差し出されたメニューの1ページにはででんと『カップル向け!』と書かれたプロットがある。その背景となっているイラストはあらゆるものをハートで埋め尽くしたパフェ。
「……風華、どうする?」
「え?食べる気なの?」
「私はこれがいいかな〜。美味しそうだし」
「……これ、お願いします」
ちょっと高いけど、旅程を削るから問題ないだろう。
「は、はい?かしこまりました」
明らかにハテナを浮かべてカウンターに戻っていく店員さん。
「……絶対混乱させちゃったよね」
「美華が食べたいって言ったからだよ?」
「風華は食べたくなかったの?」
「……別に、そんなこと、ないけど」
GWなので投稿です(いつもの土曜日更新もいつも通りやります)
よろしくお願いします!




