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114 〈青緑の魔術師〉の困惑

「突撃、隣の魔術師!」


ピシリ、と〈青緑の魔術師〉を指さして言う。


「……」

「「…………」」

「「「………………」」」


……気まずいんだが。

私は上げていた腕をそっとゆっくりと、しかし機械的に下ろした。


「え?隣なんですか? 〈紫の魔術師〉様、ここの隣に住んでいるんですか?」


あ〜、えっと、その……。


「その、ミアの住んでいるところと〈青緑の魔術師〉……さんが住んでいるところは地理的に隣なので……」

「他に魔術師、いないんですか?」

「……いるっちゃいますけど、ここからは遠いですね」


トゥリズモ・レッテーノ地域とグランデ・フィウーメ校のあたりは遠……って、あれ?トゥリズモ・テッレーノ地域とモルタ・モンテ地域の間にグランデフィウーメ校の地域があるか。

あ。


「隣じゃなかった……」


ま、いいか。


「お隣ですよ」


ニコリ、と笑って誤魔化しておく。

だよね?多分。生き残っている魔術師がいなかったら。


「稜華、本題」

「あ、そうですね」


危ない危ない。忘れかけていた。


「というか、ミアが言った方が良くありません?」

「稜華が提案してきたでしょう?」


……そうですね。

確かに私は旅行に行こうって言っただけ……。


「分かりました。じゃ、説明します」


これは私が悪いもんね、うん。


「えっと、ですね。結論から言うと、ミアの研究に協力してほしいんです」

「え?」

「ミア、今すごいことをしようとしているんですよ。だけどミアだけじゃ流石に手が回らなくて。だから助手を」

「君は?」

「私は学園があるので四六時中研究所には居られないんです」

「姉妹、いたよね?」

「事情を知りません」


確かに姉妹がいたらかなり心強いと思うけどね。


「私、研究なんてしたことないんだけど。というか、すごいことって何!?」

「今は言えません。協力する、と言って頂き、尚且つ契約魔術をミアと結んでいただけたら話します」


情報だけの持ち逃げは許しませんよ。


「……ミア、助手になりそうですか?」

「そうねぇ……まぁ、及第点にはなるでしょうね。まだまだ伸び代がありそうだもの」

「ひえっ」

「何か?」

「なんでもないですっ!」


むしろのこの関係性を改善できたらすごいと思うよ。


「で? やってくれるかしら?」

「はいぃ……」


これ、答えがハイか分かりました、かしかないやつだよね。可哀想な〈青緑の魔術師〉。


「そんな哀れんだ目で見ないでくれるかしら!? 一体、誰のせいだと……」

「〈青緑の魔術師〉さん?」

「……ナンデモアリマセン」


ミア、恐るべき権力者!


「じゃあ、契約魔術、結びましょうか」

「はいぃ……」

「はい、署名してくれる?」


ミア、もうそれは半強制的と言うのだよ……。


「記載した内容を二次色〈紫の魔術師〉レッダ・ミアは契約します」

「同様の内容を三次色〈青緑の魔術師〉ブレッザ・プリマヴェリーレは契約します……」


……無事、契約が結び終わりました。


「うん、ありがと。それでわたくしがやろうとしていることだけど」


そうですね。それが大切です。


「とりあえず手伝ってもらうわ。目的が知りたいのなら手伝っている内容から考えること。分かったら他言せずわたくしに尋ねなさい。いいわね?」

「はい!?」


理不尽の象徴……。

ミアは〈青緑の魔術師〉にニコリと笑みを向けた。


「よろしくね? 〈青緑の魔術師〉さん?」




**




「ミア、このまま真っ直ぐ帰るんじゃ楽しくないから寄り道しましょーよ」

「〈青緑の魔術師〉さんもいるけどいいの?」

「……別にいいです」

「その間はなんですか!?」


いや、できればミアと二人きりがいいけど。だけど、まぁ。うん。〈青緑の魔術師〉がいてもいいでしょう。そこは譲歩する。

叩き起こして放置、はないだろうしね。上司で絶対言うこと聞けっていう圧を出してるミアに選択肢のない選択肢を出されていたし。


「あのぉ、名前で呼んでいただいて大丈夫ですよ……?」

「長いじゃない、名前」


確かに。

苗字の方はそこそこな長さだけど、名前の方がめっちゃ長いよね。


「別に短くして頂いても苗字でも……」

「じゃあ、ブレッザね」

「了解しました〜」


どこかなく上機嫌に見えるブレッザ。

私が呼び捨てしてる? ええ、細かいことは気にしない。そうしようね?


「で、どこに行くの?」

「どこ行きましょうか? とりあえず、街にでも行ってみます?」

「稜華さん、私たちが何か、忘れていません?」


魔術師ですね。


「街に魔術師探査機なんてありませんよ」

「ですが……」

「実際、わたくしは何度も街へ出ているけど一度してバレなかったわ」


胸を張って威張りげに言うミア。


「ま、ブレッザは五千年ぐらい、寝てたんでしょう?大丈夫よ。今の魔法師達はそんなに魔術師に厳しくないから」


そうかなぁ……。

今でも魔術師は悪とされているけどなぁ。


「……分かりました。街へは〈紫の魔術師〉様と稜華さんだけで行ってください。私は待ってるんで」


え〜。


「それでいいんですか?」

「……構いません」


……そうですか。

じゃあ、街へ行きましょうか。


「転移」


街の近くに転移し、しっかり正門から入る。うん、こう言う小さい心がけ、重要。

……さて。


「で、ブレッザは来ないんですか?」

「……行きます」


もしかして私達、街に魔術師探査機がないかの実験台だった?

まぁ、とにかく。


「ミアもブレッザも服を新調しましょうね?」


その重っ苦しいローブはどうかと思う。むしろブレッザはよくローブで数千年も寝てたよね。

何はともあれ、まず最初に向かうのは服屋。観光客が多い地域ということもあり、街はかなり栄えている。……金回りが相当いいんだろうね。


「ほら、二人とも現代的なファッションに触れてくださいね?」


姉妹ほどのセンスはないけど、ずっと籠っていた魔術師組よりはマシだろう。……マシだと思おう。


「えっと、この二人に合いそうな服を2、3着お願いします」


多分今日以降、ほぼ研究所に籠りきりだろう。2、3着あれば十分なはずだ。


「かしこまりました。ではお二方、こちらへどうぞ」

「い、稜華!?」

「稜華さん!?」

「行ってらっしゃい」


笑顔で手を振って送り出す。


数十分後。

すっかり現代的になった二人が店の奥から姿を現す。


「めっちゃ綺麗です。さすがミア、ですね」

「……稜華、いつそんな口説き文句を覚えたのよ」

「さぁ?」


そもそも口説き文句じゃないと思うんだけどなぁ。


「ブレッザも素敵ですよ」

「なんか、むら……ミア様と比べたら棒読みじゃない?」

「そんなことないですよ」


というか、さっき〈紫の魔術師〉って言いかけたな、この子。危なっかしい。

ミアも笑顔で固まっている。


「ま、まぁとにかく、街に出ましょう。楽しみましょう?」


嫌なことは忘れよう?

そう言っている私も結構引きずっちゃうけど。今は気にしないことにしよう。そうしよう。


「稜華! わたくし、ぱんけーき、ってやつ食べたいっ!」

「いいですね」

「じゃあ、私は、ぱふぇで!」

「……ブレッザ?」

「はいっ!……ぱんけーき、にしましょう……」

「どっちも同じお店にあるから大丈夫ですよ」


長い間篭りきりだった魔術師組もすっかり現代のスイーツの虜になっている。確かに美味しいもんね。

スイーツで軽く腹ごしらえした後は街の観光。

ミアは雑貨に興味があるようでかなりじっくり眺めていた。……あれ、絶対研究対象に向ける目だと思うんだよね。


そうやって夕方まで精一杯、街を楽しんで研究場に戻ってくる。

戻ってくるなり研究所の案内だ。……ミアとしても絶対に入ってほしくない部屋が複数あるから当然だろう。


「──いい? この部屋以外は勝手に入らないこと。自室は今まででいた祠がいいのよね?」

「はい」

「稜華。魔法陣、仕掛けてたわよね?」


まぁ……はい。


「一時的にブレッザはその魔法陣で行き来してくれる?自分用魔術陣とこの研究所と祠をつなぐが魔術陣が出来次第、そっちに切り替えて魔法陣は稜華に返してもらっても?」


返してはくれるんだ。やさし。……というか、合鍵状態では?

ま、いっか。


「分かりました。ありがとーございます」

「明日からバリバリ働いてもらうから。……稜華もよ?」

「あのぉ、魔術陣が優先ですよね?」


恐る恐るというようにブレッザが言う。


「……そうね。だけど」

「でしたらっ!先に祠の方の作業をするので、2、3日時間をくださいっ!」


うそ。逃げる気?……全くの被害妄想だけど。

ブレッザがいない間、私はミアの研究の手伝いか魔術の練習じゃない。

絶対的に私の負担が増えるパターン!


「稜華。頑張りましょうね?」

「……はぁい」


こうして冬休みは順調に(?)消化されていった。

三次色〈青緑の魔術師〉ブレッザ・プリマヴェリーレが仲間になった!

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