109 お化け屋敷、否、研究所です!
「こんにちは……」
そぉっと扉を開け、薄暗い建物に入る。
迷路のようなその建物は、お化け屋敷のような雰囲気を漂わせていた。いかにも長年掃除をしていません、という埃の積もり方。
「ミア……これ、掃除していいで、クシュン!」
ヤバい、埃でくしゃみと鼻水が……。
「え? だ、だめよ。必要な埃だって……」
「そんなんありませんよっ! 掃除しますっ!魔法で有害物質全部消しま、シュン!」
なんなの、この空間!
「有害だけど役に立つものもあるのよ!?」
「じゃあ、どれを消していいんですか!? とりあえず埃は消させてください!私、ここに来れません!」
「それは困るわっ!!」
知ってる。
ミアは私を助手としているから。
「えっと、埃だけ、掃除することはできる?」
「やります。情報消去」
埃、消えろ。
というか、なんで埃って出てくるんだろうね。いくら掃除しても湧いてくるんだもん。不思議でしかない。
魔法学園の研究棟は国内最大級の研究所だけど、ミアの研究所もそこに匹敵するほどの大きさ・設備だ。……ミア1人しかいないのにこんなに大きくて意味ある?とか、どこから設備を仕入れてくんの?とか思うけどね。
前に来た時にはなかったものが増えていたりしている。
「で、稜華、お土産」
来て早々、これですか。来客に自ら土産を要求する……ミアしか出来ないね。
だけど、私とて、準備は万全。ミアを知ってから早7年ぐらい? 扱い方ぐらいはわかっているつもりだ。
「今回はこれです」
まぁ、使い回しだけどね。
「これ、使い回しじゃない」
え?
「稜華、これ、魔法学園の合同文化祭とやらで発表したやつでしょ?」
「そう、ですけど……。まだミアは見ていないはずでは……」
「わたくしとて、魔法庁に伝手はあるのよ? もちろん、稜華の研究も見させてもらったわ」
な、なんですと……!?
「そこそこは面白かったわ。まだまだ詰められる部分がありそうだけど」
「そ、そうですか」
「で、お土産はこれだけ? 合同文化祭からそこそこの時間が経っているし、新しいテーマに向けて動き始めているんじゃなくて?」
流石ミア。
ズバズバと急所を撃ち抜いてくる……。
「……その通りです。新しいテーマを決めたものも、色々と忙しかったので冬休み中に着手し始める予定でした」
「そう。テーマは?」
「魔法の歴史と法則です」
ミアにとって魔法なんてどうでもいいかもしれないけど、私たちにとったらものすごい技術だもん。
「わたくしが教えましょうか?」
何それ。聞いてみたい。魔法は魔術の劣化バージョンだし、多少なるとも魔術には関係してくるだろう。つまり、ミアのことを知るチャンス……。
「……聞くだけ聞きます。文献が残っていないようだったら書くのはやめますけど」
「それがいいわね」
正直、ミアが何千年も生きているからどれだけの情報を持っているかわ、分らないし。
「まぁ、それは後でね?」
意味深な笑みを浮かべるミア。
「とりあえず、先に自分で調べていらっしゃい」
まさかの、研究に付き合わされないとは……驚きです。
「じゃあ、行ってきます」
先にグランデ・フィウーメ校に行きましょう。ちゃんと制服も着たし。早くしないとヘリコニア先生が取ってくれた許可の期限も過ぎちゃうしね。
「転移」
魔法の根本となったものは魔術。
魔術の劣化版が魔法。
魔術は元々魔術師にしか使えなかった。なぜなら、使用する魔力が今で考えれると莫大な量だったから。……何がともあれ、魔法の歴史と法則がわかれば魔術……ひいてはミアのこともわかるかもしれないのだ。
日付と時間感覚のないミアのところに行っていたから、家を出たのは夜明け。それから対して時間も経っていないからまだ外の空気はひんやりしている。
確か、魔法についての蔵書が1番多いのがここの学校の図書館なんだよね。肝心の図書館ってどこなんだろ。
「……おい」
とりあえず、学校の位置情報を把握するか。
「おい!」
魔法を使えば1発だし。やっぱり魔法は便利だよね。
「紫月稜華っ!」
パシリ、と腕を掴まれ、驚く。
「青龍、会長……」
なんでこんなところに?
というか、いることが全く気づかなかった。
「お前、なんでここに……」
「ちょうどいいですね。図書館、どこですか?」
「答えろ」
え?
あ、ここにいる理由だっけ。
「研究の調べ物のためです。グランデ・フィウーメ校の図書室が1番、蔵書が多いとヘリコニア先生に伺ったので。……許可は出ているはずです」
「ヘリコニア? あぁ、あの変人研究者か。そういえばその弟子が来るという連絡があったな」
「それですね。というわけで、図書館はどこですか?」
早く研究を進めないと……!
「こっちだ。」
「ありがとうございます」
早く終わらせて帰らないと。ミア、今頃待っているだろうかなぁ……。
「言っておくが、ウチは一部が泥沼だから、気をつけろよ?」
「泥沼? ちゃんと整備したほうがいいですよ」
学園に泥沼って……もし落ちて底なし沼だったらどうすんのよ。事故どころじゃ済まないよね。
「そっちの泥沼じゃない。感情がドロドロの方の泥沼だ」
「……大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃないに決まっているだろう」
まぁ、そりゃそうだよね。
「まぁ、頑張ってくださいね、青龍会長」
私は知らないよ。
だって王都校だし。
「お前も関係あるから言っているんだぞ?」
え?
「泥沼は言葉は悪いが底辺から頂点……俺ら生徒会に向けられている。お前も生徒会、しかも一年で副会長だ。気をつけろ」
「……がんばります?」
頑張ったところでどうにかなるものじゃなさそうだけどね。
「じゃ、失礼しま〜す」
図書室に転移。
……うん、もちろん早朝ということもあって人はいない。
人がいない、のだ。つまり。
「不法侵入するな、バカが」
「バカじゃないです。バカだったらここまでのことをしません」
……誰もいない。
閉まっている図書館に無断で魔法を使って入っちゃった、というわけだ。
「どうしたらいいですかね? 私、早く帰りたいんですけど」
「そんなに親元のところがいいのか?」
親元。
学園内だから言葉をぼかしているけど、創造主……ミアのことだろう。
「……別に。帰省にはお土産が必要じゃないですか」
「そのお土産が研究ってわけか」
そうですよ。
「いいこと思いつきました」
「なんだ?」
「青龍希翠生徒会長」
ウフフ。
「図書館立ち入りの許可をくださいな」
生徒最高権力者? がここにいるんだから、その人に許可を貰えばいい。簡単なことだった。
「……別に構わん」
「ありがとーございまーす」
さて、これで文献に触れても文句は言われないね。
ひたすら、魔法の起源や歴史に関する文献を読み漁る。本当は持ち帰ったりしたいけど、あいにくと魔法に関する本や文献は持ち出しが禁じられている。……実を言えば、情報だけ読み取るっていう手もあるけど、それはそれで滞在時間が異様に短くなって怪しまれるからやらないほうがいいしね。
「あらぁ? 変なのが迷い込んでいるわよ?」
「そんなに必死になって……醜い事」
太陽の光が眩しいと感じられるようになった頃。なんか絡んできたのがいる。
「……何の用ですか。忙しいんでさっさと出てってください」
きっと、これが青龍希翠の言っていた泥沼の人たちだよね。それにしても泥沼って……上手いこと言っている。
「もしかしなくても、王都校の生徒かしら?」
「どこか見覚えのある顔じゃなくて?」
なんか、元貴族、っぽいね。言い方が。すっごいお嬢様口調なんだが。
「そうよ!思い出したわ」
「どなたなの?」
「王都校、生徒会副会長、一年、紫月稜華よ」
あ、分かったんだ。
「一年生でありながら生徒会入り、しかも副会長。なのに生徒会長に匹敵するほどの魔法力を持っている」
いやいや、姉妹なら誰でも飛華と互角だから。
制限が足を引っ張っているだけでね?
「生徒会選任祭後、バッシングを受けるも、実力で黙らせ」
え?
そういう評価なの?
「数多くの歴史的な研究を発表したのに、学園の一教師のまま。そのくせ、研究室生や弟子を持たなかったヘリコニア・プシッタコルムの研究室に入り」
「合同文化祭では研究部門最優秀賞を取って」
そうなんですか。それは初耳です。
……って私、なんで真面目に受け答えしているんだろうね。
「……っていうか、どこからその情報を持ってきたんですか」
疑問すぎます。合同文化祭はわからなくもないけど、あのバッシング事件は王都校内だけの出来事だったし……。
「確かに。……オレも知りたいな」
3/21 1万PVに達しました!
ここまでお読み頂き、ありがとうございます。
これからも6姉妹の物語をよろしくお願いします。




