第三話‐③
私の適正職業を占い師のマルサから聞く事が出来た私は必要な代金を支払い、リリィと共に占いの館から出た。
「ぶ……くくくく……。」
「……リリィ。」
「な、何…?ふふふ…。」
「…………そんなにおかしい!?私が『商人』だって事!さっきからずっと人を馬鹿にする様に笑って…!!」
「だ、だって……ははははははは!!だって、だって商人って……めちゃくちゃ勇者とかけ離れてるんだもん…くく…はははははは!!」
「確かに勇者とはイメージ違うけど…けど、そこまで笑わなくてもいいでしょ!?もう、酷い!リリィなんて知らない!!」
「ご、ごめん!ごめん!ほら、でも…馬鹿にしてる訳じゃないのよ?商人だってこの世界には必要な存在なんだから。それにマツリだって元いた世界ではお店で働いてた商人なんでしょ?ピッタリじゃない。」
「それは…そうだけどさぁ……。」
けど出来る事ならもっとこう…カッコいい感じが良かったというのが本音だ。まさかスーパーの店員だった私がこっちの世界でも似た様な職業に就いた方がいいと言われてしまうとは……思いもしなかった。
期待していた分、意外にショックも大きい。
「ほら、落ち込まない!…そうだ!買い物!買い物しましょう!買い物したら気分も晴れるでしょ?ね?」
「で、でも私お金ないし……、」
「そんなの私が出すわよ。それに……商人ってどういう職業の人なのか聞きたくない?」
「は?商人って…物を売る人、でしょ?」
「うーん……それだけじゃないんだよねぇ~。商人っていう職業は、さ。」
そう言ってリリィは歩き出す。言葉の続きが気になり私もリリィに続いて歩き始めた。
行き交う人々の間を通り抜けながら私はリリィの隣に並ぶととリリィは言葉の続きを話し始めた。
「商人っていうのはマツリの言った通り物を売る人…つまり、商品を売買出来る人よ。」
「まんまだね。」
「まぁ、商売が出来るっていう点では誰でも出来るわ。けどマツリの様な商人は商品…うーん、言うなら物とかね?それを『目利き』出来る能力があるの。」
「目利き?」
「私も聞いただけだから詳しい事は知らないけど、食べ物や宝石、回復薬…そういった『物』がどれだけの価値があるか分かるみたい。それが出来るのは商人だけで、それを利用して価格をつけて商売をしているみたいよ。」
「へぇ……。でもなんか、曖昧な感じでよく分からないね…。」
「だって産まれてからずっと魔術師として育ってるし、商人の事なんて今の今まで考えた事なかったのよ。私にだって分かる事、分からない事はあるわ。…とりあえず商人っていうのは、そういう人だって事。マツリも商人になった訳だし、この世界で物を客相手に売買出来るわよ。」
「…物を売買するって言ってもなぁ……商品とかもないし、商品を集めるにしても買うお金もないしなぁ……。」
現状の私には商人として働くってなると、どこかのお店に雇って貰って働くしかないのかな……でも勇者として召喚された以上、魔王の所にいかないといけない訳だし、ずっとどこかのお店で働くって事も出来ない…よね。
……となると今の私は何も出来ないって事なのだろうか。
「まぁ、待ちなさいよ、マツリ。商人は何も物を売買するだけじゃないのよ。」
「え?そ、そうなの?」
「そうよ。マツリの言った通り商品がなければ売買出来ないもの。だから……あ、ちょっと待ってて。」
そう言い残しリリィは立ち並ぶ出店の一つに向かって走っていく。リリィの言われた通り道の端によって待っていると「おまたせ」と何か買ったのか小さな袋を持ちながらリリィが帰ってきた。
「何か買ったの?」
「うん。これをね……はい、これ持って。」
「これ」と呼ばれた二つの物を袋から取り出すとリリィはそれを私に渡してきた。一つは透明で手のひらサイズの瓶。もう一つは紐でまとめられた草の束だ。
「一つはどこにでもある普通の空き瓶。もう一つはどこにでも生えている薬草。それを一つずつ、両手で持ってね。それで……想像して。」
「想像?」
「そう。この二つの物が一つになる様に想像するの。そして想像しながら二つを合わせてみて。」
「あ、合わせるって?一体何を……、」
「いいから!やってみて!!」
リリィの相変わらずの強引さに反論出来なかった私は言われた通り目を閉じ、想像してみた。
この二つが合わさる感じ……合わさる感じってなんだろう。入れるって感じなのかな?でも合わせるって言ってたし、入れるっていう事ではないだろうけど……うーん……。
この持っている草は薬草だってリリィは言ってたし、瓶と合わせるって考えたら薬草が薬になって、それを瓶に入れるって事?それをイメージしろって事なのかなぁ……よく分からないけど、これが一番合わせるっていう意味では合ってるかもしれない。
ピカッ、
「え?」
両手が一瞬熱くなった気がした。反射的に閉じていた瞼を開けると瓶と薬草を持っていた両手が白く、光っている。
……光ってる!?
「な、え!?り、リリィ!?」
「大丈夫!すぐに治まるから!……それより見てみなさいよ、今自分が持ってる物!」
「え?……あ。」
リリィの言った通り両手の発光は徐々に小さくなり、完全に光が治まった頃には先程まで両手で持っていた物がなくなっていて……代わりに緑色の液体が入った瓶が両手に収まる様にしてあった。
「これって……。」
「回復薬よ。さっきの瓶と薬草を『合成』して完成した物よ。にしても……凄いじゃない。初めての『合成』で成功するなんて!幸先いい~。」
「ご、『合成』…?」
「そうよ。言ったでしょ?商人は物を売買するだけじゃないって。それがこの『合成』よ。『合成』っていうのは…まぁ、簡単に言えば二つの物を一つにして新しい物を作り出す商人特有の能力よ。」
「二つの物を一つに……。」
つまり…さっきまであった瓶と薬草を私が一つにして……リリィの言う回復薬になったっていう事?さっき私の手が光っていたのも『合成』をしていたから?
……私、ただリリィの言われた通りにしただけなのに……、
「す、凄い。こんな事出来るなんて……マジックみたい…。」
「商人だから出来るのよ。商人は物を集めて、合成して、それを商品にして稼いでいるのよ。勿論売買をして経験値を稼げるけど、『合成』でも何度もしていれば経験値は稼げるわ。それに自分のレベルが高ければ高い程凄いアイテムを『合成』出来るのよ。」
「凄いアイテム?」
「えぇ。例えば回復薬は回復薬でも効能が高い回復薬を作り出す事が出来たり、取り扱いが難しい物を扱えたり、レアリティが高いアイテムを作ったり……そういう普通手に入らない物を簡単に作れる様になるの。そしてそれは高く売れる。」
「へぇ…。」
「逆にいれば、レベルが低ければ扱える物も少ないし、効能が低い物しか出来ない。下手をしたら失敗してゴミを『合成』しちゃう事もある。そういう物は安くしか売れないの。商人としてやっていくなら日々レベル上げに勤しんで高い商品を『合成』出来る様にならないといけないわ。」
「そうなんだ。……出来るかな…。」
「出来るわよ。私もいるし、『合成』が出来る物は何も売れる物だけじゃないわ。武器だって『合成』で作れるから、それで戦えば経験値稼げるし……そう考えると商人って結構幅広く活躍出来そうよね。お金に困る事もなさそうだし、ちょっと地味だけど安定してるわよね……。」
何度も頷いて、しみじみと納得しているリリィ。何に対して納得しているのか私には分からないけど……まぁ、経験値を稼ぐ為に『合成』をするっていうのは初心者の私には合ってるかもしれない。
いきなり魔物を倒せとか勉強しろとか修行しろとかだったら難しそうだし、ついていけないだろう。けど、これだったら案外上手く出来るかもしれない。
それに販売とかだったら接客経験あるし、何とかなるかもしれない。……こっちの販売方法がどういったものか完全に理解していないから不安はあるけど、でも少なくともリリィの負担は減らせるかもしれない。
ここに来るまでずっとリリィの迷惑になりっぱなしだった。お金が稼げる様になったらリリィへの負担が減らせるかも…!
「あ!」
「わっ!び、びっくりした……いきなり大きな声出さないでよ……。」
「ごめん、ごめん。…マツリ、来て。」
リリィに手を引かれ歩き出す。何かを見つけたのか私はリリィに手を引かれながら、対面にある出店の前まで連れていかれた。
「いらっしゃい」と笑みを浮かべる温厚そうな店主がいる出店。広がる商品はブレスレットや指輪、ネックレスなどの装飾品がずらりと並んでいる。頭上にはストールやマフラー、大小様々な鞄も吊るされている。
「凄い数……アクセサリーも色々な形があって面白いし、綺麗…。」
「ちょっと何見てるのよ。マツリが見るのは……こっち!」
「え?それって……鞄…?」
並べられたアクセサリーに目を奪われている私にリリィが見せてきたのは頭上にある鞄だった。リリィは手慣れた様に頭上にある大き目な鞄を二つ程取るとそれを私に見せてきた。
「どっちがいい?」
「え、」
「こっちの肩掛けと背負うタイプの物……どっちがいい?私的には肩掛けの方がデザイン的には可愛いと思うけど、機能面で見たら背負うタイプの方がいいと思うのよね……。」
「えっと……どっちでもいいと思うけど…。」
「どっちでもって……ちょっと真剣に考えてよ。これから自分が使う物なのよ?しっかり考えてよね。」
「自分が使うって……え、それって私の?」
「それ以外に誰がいるのよ。いい?マツリは商人なのよ?これから色々な物を扱うし、そうなれば色々な物を持たなきゃいけなくなる。その為に必要な道具が『鞄』なの。私で言う『杖』みたいなものね。」
「そ、そうだったんだ。てっきりリリィの事かと……で、でも私お金が…。」
「いいわよ、私が払うから。ていうより元から私が払う予定だったんだし。」
「リリィが払う予定だったって……?」
「勇者が適正職業を聞いた時、その職業に必要な物を買ってあげようって思ってたの。剣士なら剣、魔術師なら杖みたいな……マツリを召喚する前から考えていた事だし、決めていた事なの。だから、気にしないで。私がしたい事なの。」
「で、でも……服だって、宿屋代だって全部リリィが払ってるし、それ以上に貰うのは……、」
「だから、気にしないでって。これは…商人になったマツリへの祝い品。いうならば…うん、プレゼントね。だから貰ってちょうだい。」
「リリィ……。…ありがとう。」
「どういたしまして。…で?どっちがいいと思う?」
「じゃあ…リリィがおススメしてた肩掛けにするよ。確かにデザイン的に肩掛けの方が可愛いし…、」
「流石!分かってるわね。じゃあこれ、お願いしまーす!」
持っていた片方の鞄を店主に手渡すとリリィはそのまま会計をした。話を聞いていたのか店主は鞄を袋にいれる事なく、すぐに使える様に金額が書かれていたタグを外すと、そのままリリィに手渡した。
「はい、マツリ。」
「ありがとう。……本当に、ありがとう。大事にするよ。それと…またちゃんとお返しさせて。」
「そんなの気にしないでいいわよ。」
「ううん。こればかりは私が今決めた事だから…いつに分からないし、それまでも色々と迷惑掛けるけど…ちゃんと何かの形でお返ししたいの。」
「マツリ……じゃあ、楽しみにしとく。」
小さく、だけど嬉しそうに笑みを浮かべるリリィに私も嬉しくなり自然と笑みを浮かべた。
この鞄もそうだけど、リリィには沢山の場面で助けてもらった。そしてそれはこれからも…沢山の場面で助けられるだろう。だからいつか、その恩を自分なりに返せれたらいいなと思った。
…ううん、ちゃんと返す。どんな形でも、絶対に。
「さて、そろそろ宿に行きましょうか。明日から忙しくなるわよ~。」
「うん!」
歩き出すリリィに私も一緒に歩き出す。その足取りは今までで一番、軽かった気がした。




