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勇者は、後のマツリ!  作者: くるす
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第十三話‐①


「どうしろっていうのよ……最悪…本当、もう、アイツ…最悪……!!!」


ここは本当に宿屋の一室なのだろうかと問われる位、どんよりと重苦しい空気が部屋一杯に充満している今日の夜。街の賑やかな音が開け放たれた窓から流れてくるが、この室内ではベッドに顔を埋めるリリィの唸り声が一番に耳に入る。泣き声混じりというのが更に空気を重くしている。

この空気を作り出しているのはリリィだけではない。同じ室内にいるシフォンも備え付けのソファに深く座っては背を丸めて考えこむ様に顔を青くしているし、ジークも呆れ気味に笑みを浮かべてはシフォンの隣に座っていた。

あの顔色を変えないクロトでさえ、心のなしかいつもより暗い気がする。多分恐らくだけど、私も同じ気持ちだ。ベッドに腰かけているけれど、いつもより深く座っている様な、重たい様な……立ち上がる気力が湧かない。

足に力が入らないし、何より気持ちが滅入っているのが自分でも分かる。こういう暗い雰囲気の時は何か元気になる様な…励ます様な事を言わなければならないのに、言葉が思いつかない。

出るのは、溜め息ばかりだ……。


「…ハァ……ある程度覚悟はしていたけど、こればかりは辛いね…。」

「そう…ですね。私も予想外…いえ、予想以上のモノだったので…その、驚きました。」

「流石というべきだよな。なんて言うか、世界は広いっていうのが痛感出来たな。」

「………、」

「ありえない…本当、ありえないわ……!!あのジジィ……!!」


私を含め、皆が気落ちをしている理由……それはグラニフさんに提示された街から出る為の抜け道を通る為の『通行料』の事だ。

抜け道…つまり裏の流通ルートを通る為の『通行料』。流通ルートを使用している人達は皆、私達に提示された条件を飲み、『通行料』を支払って使用している。

…だから、私達も用意出来ると思った。すぐには用意出来なくても、何とかして用意出来るかと思ったのだ。だが、それは安易な考えだった。現実は、厳しいものなのだ。


『それで……私達は何を用意すればいいんですか?』

『あぁ、そうだな。…誤解を与えたくないから最初に言っておくが、裏のルートを使っている奴等は皆、同じ条件の通行料を払っているからな。覚えておいてくれ。』

『もったいぶるわねぇ…。それで、通行料は何?お金?』

『金が一番分かりやすいな。金か…それに代わる物でもいい。通行料は……、』

『………、』

『『一千万ベル』だ。』

『い、』


「一千万ベルって……そんな大金中の大金、用意出来る訳………ないでしょうがああああああああ!!!!」


リリィの悲痛に似た悲鳴が部屋中に響き渡った。とてつもなく痛々しく、大声だったが……叫びたくなる気持ちも分かるので誰も止める事がなかった。というより、止める気力がなかったという方が正解かもしれない。


「一千万ベルって……やっぱり大金だよね…。」

「そうですね…。普通に暮らしていれば一生見る事のない大金ですね…。」

「特に俺やシフォンは自給自足、質素な生活が当たり前だったからな……。驚き通り越して感心してるよ。」

「だよね…。」


その気持ち、何となく分かる。…というのも莫大な金額過ぎて想像が出来ないのだ。特に私はこちらの世界の金銭については買い物で得た知識しかなく、どれだけの金額を積めば何が出来るか等…完全に把握していないのだ。

…この世界に来て、唯一分かる高額な物を基準に考えたら想像出来るかな?確かあれは……、


「エレクシール、」

「え?」

「えっと…ほら、前にも一度話したでしょ?回復薬合成してたら偶然にもエレクシールが出来たって……確かあれって凄い高いんだよね?」

「一つ…五百万よ……ズビッ、」


ベッドからゆらりと起き上がるリリィ。涙で濡れた目元と鼻先は真っ赤に染まり、口から出た声は鼻がつまった様な声だった。そんな状態なのに私の疑問…ていうより金銭絡みの疑問に律儀に答えてくれた。


「リリィ、大丈夫?目とか真っ赤で…、」

「エレクシールが一つ、五百万。つまり今回言われた金額を揃える為にはエレクシールが最低二つ必要って事……これ、どういう事か意味が分かる?」

「えっと…、」

「用意するのは……む、難しいよね?」

「………難しいとか、そういう次元の話じゃなぁああああい!!!無理!無理なの!!現実的に考えて無理なのよ!!!」

「リ、リリィ!?!」

「よく、ちゃんと考えて発言して!!エレクシールが高額なのは高レアアイテムだから!何故高レアアイテムにされているかは、それを作成する際に必要なアイテムが入手困難だからよ!?分かる!?!」

「わ、わわわわ!!」

「マツリさん!?」


襟元を掴まれブンブンと前後に振られ、リリィの問いかけに答えたくても答えられない。慌ててやってきたシフォンによって何とか動きは止まったけど……く、苦しかった。後少しで本当に首が締まる所だった…。


「一千万用意する為にエレクシール二つ用意する、とか考えたでしょうけど、それは不可能に近いのよ。まずエレクシールを用意する事が出来ない。合成するにしてもアイテムが入手困難だし、買うなんて事は無理。そんな高額な物、普通に売ってないもの。」

「仮に売っていたとしても買う位なら最初からその大金でグラニフに渡すよな。」

「前みたいにマツリの合成で回復薬からエレクシールに化ける、なんて事があればいいけれど……あぁなるのは本当に何千、何億分の一の確率よ。つまり天文学的確率なの。一つならまだしも、二つともなると不可能に近い。」

「た、確かに……、」


あのエレクシール合成して以来、何度も合成しているけれど……エレクシールみたいな凄い物に化けるなんて事は起こっていない。強いて言うなら、風の遺跡で矢を合成した時だろう。だが、価値の事を考えたらエレクシールの方が遥かに高く、合成するのは難しいだろう。


「何か方法はないもんかね…。一千万用意する方法…、」

「お金ならともかく、それ同等の物を用意するとなると、ちゃんとした物を用意しないといけないですよね。何せグラニフさんには商人さんで『目利き』があります。嘘偽りも屋敷内にいる巫女様によってバレてしまいますし…、」

「そうは言ってもねぇ……今、私達の所持金全部合わせても百万いかないし、かと言って今から依頼やらマツリ経由で商売をして集めたとしても時間が掛かるわ。そんな事してたら余裕で一年は超える。」

「一年か…。流石に一年もあったら騎士団も門を開けてるよね……。」

「情報屋の話では最低一か月って話だったからな。流石に一年というのはないだろうが……。……無理そうなら騎士団が門を開けるのを待つか?」

「そんなの出来る訳ないでしょ!?私達には時間がないのよ!!!」

「ですよね~。リリィさんのお気持ち、痛い程分かります~。」

「え?」


私達とは別の高い声がした。会話の流れがピタリと止まり、思考も止まった。

この声、どこかで聞いた様な……そう思いながら私を含め、皆視線を声のした部屋の入り口近くに向けると扉にもたれ掛かる様にして立つ、一人の少女がいた。

身軽そうな服装に身の丈のある長いマフラー、金髪のツインテール姿の少女は……昨日の夜と変わらぬ姿で存在していた。


「ナ、ナタンさん…!?」

「はい!情報屋のナタンですよ~。昨日ぶりです!」


私が驚く中、ナタンさんは相変わらずの笑みを浮かべながら嬉しそうに手を振った。…情報屋のナタンさん。な、何故ここにいるんだろうか……、


「ちょっと、ここは私達が取った部屋よ。アンタの部屋じゃないんだけど、」

「あ、ご安心下さい。私、ここで寝泊まりするつもりはないので。つまり、この宿には部屋を取っていないんです!」

「成程、不法侵入ね。尚更悪いわよ。宿の主人に訴えるわよ。」

「いや~ん。そんな怖い事しないで下さいよ~。」


リリィの言葉に臆する事なく私達の輪に入るナタンさん。その態度と流れる様にして入ってきたナタンさんに対して、リリィは更にイラつく様に顔をしかめた。リリィの気持ちも何となく分かるが、それより気になるのはやはり……ナタンさんがここにいる理由だろう。


「部屋をとっていないなら、どうしてここにいるの?ていうか部屋にガッツリ入ってたよね…?」

「もう、皆さん。不用心ですよ。鍵位しないと私みたいな人が入ってきちゃいますよ!!」

「普通の奴なら入らないんだけどな。普通の奴なら、」

「に、兄さん…、」

「いやね、私だって普段なら知り合いでも入りませんよ。けど……仕事の匂いがしたので、つい。」

「し、仕事の匂い?」

「はい♪私の情報、欲しいんじゃないかな~って思って。例えば……『通行料』が手に入る方法とか。」

「え!?」


い、今なんて…言った?『通行料』が手に入る方法…そんなものがあるの…!?

反応したのは私だけでなくリリィやシフォン、顔には出さないがジークやクロトもだった。


「そ、それってどういう事よ。『通行料』が手に入る方法って……、」

「ていうかお前、グラニフに門前払いされたとか言ってなかったか?なんで『通行料』の話を知ってるんだ?」

「そんなの決まってるじゃないですか、ジークさん。私が情報屋だからですよ。例え本人から話はなかったとしても、どうしたら通らせて貰えるかなんて情報、簡単に手に入りますよ。」

「じゃ、じゃあなんでグラニフさんの事を紹介する時、教えてくれなかったんですか…!?」

「そ、そうよ!最初から知ってたなら教えてくれても良かったんじゃないの!?」

「え~?だって貴方方が欲しがった情報は『街を出る方法』と『裏ルートを管理している人』じゃないですか~。『街から出る為に必要な物は何か』って聞かれれば教えてあげれたんですけど、聞かれなかったので~。」

「この女…!!」

「リ、リリィさん!お、落ち着いて下さい…!!か、顔が……!」


般若に近い程顔を歪めるリリィにも恐れる事なく笑みを浮かべるナタンさん。…成程、『通行料』の事は知ってはいたけれど『聞かれなかったから』答えなかったんだ。

今思えばだけど、もっと深く掘り下げて聞けば良かった。だが、それは過去の事。過ぎてしまった事を今更言っても仕方ない。


「そ、それより…『通行料』が手に入る方法って言ってたけど……それは確かなの?」

「勿論です!バッチリ用意出来ますよ~!」

「…信用出来ない……、」

「…リリィの気持ちも分かるけど、私達には『通行料』をどうにかする方法ないでしょ?」

「この街からいち早く出たがってたのは魔術師殿だろ。ここは話を聞くだけでもしてみたらどうだ。」

「ぐ……ぐぐぐぐ……、」


私の発言に便乗する様にジークも言うと、言い返す言葉が思いつかないのか言葉を詰まらせていた。納得は出来ないが、私達の言葉は正論だというのを理解している…みたいな顔だ。

シフォンに視線を向けると私の視線に気づいたシフォンは私達の言葉に納得しているのか小さく頷いた。続けてクロトに視線を向けたが……反論してくる事もなければ、顔色一つ変えずにいる。

最後にもう一度、リリィに視線を向けて「いいね?」と聞くと観念したのか渋々とリリィは頷いた。


「一応確認なんですけど……ナタンさんが言う方法は私達に用意出来る物なんですか?」

「そりゃ勿論。だって、私がすでに持ってますからね!!」

「へ?」

「そ、それはどういう事ですか…?」

「すでに持ってるってどういう事よ!?」

「まぁまぁ、落ち着いて。皆さんが欲しいのは『通行料』なんですよね?一千万ベルと高額な金額か一千万ベル相当の物を用意するか……それが用意出来なくて困っている、と。」

「今更確認するなよ…。」

「そして私には『通行料』となる一千万ベル相当の物を用意出来る…というより、すでに持っているのです。そしてそして、それを貴方方にお渡しする事が可能なのです!勿論、タダではありませんよ!!」

「仕事…って言ってたもんね。つまり金を取ると…。」

「で、でも一千万ベル相当の物を渡す為に私達はどれだけのお、おおおお金を取られるんでしょうか……、」

「私も言えた義理じゃないけど、シフォン。アンタも落ち着きなさい。」

「まぁまぁ。不安がる気持ちも分かりますが、お金は取りませんよ。」

「え。お金を取らない…?益々分からないんだけど……、」

「まぁ、結論から言いますと……貴方方に私の仕事の手伝いをしてもらいたいんですよ。」

「「仕事?」」


思わずリリィと言葉が被ってしまった。それだけ予想外で突拍子のない言葉だったのだ。何せ私…いや、私達は『通行料』が手に入る方法、という情報を買うと思っていたからだ。

驚く私達を他所にナタンさんは話の続きをし始めた。


「そうです。私の仕事です。詳しい話は請け負ってくれた際にお話ししますので今は省略させてもらいます。まぁ、貴方方に出来る簡単なお仕事です。もし請け負ってくれて、ちゃんと仕事をしてくれたら……その報酬として『通行料』をお渡ししますよ。」

「つまり……俺達に仕事の依頼をする、という事か。」

「そういう事です♪いいお話でしょ?」

「………、」


悪い話、ではない。ナタンさんの仕事を手伝えば、報酬として『通行料』…つまり一千万ベルが手に入るという事なのだから。

私達には『通行料』となる一千万ベルを用意する手段も方法もない。この街からいち早く出るとなればナタンさんの話…というより依頼を受けた方が一番効率的で手っ取り早く街から出る事が出来る。

けど……簡単に決められる事じゃない。


「それって…いつまでに返事すればいいですか?」

「今、お願いします♪」

「い、今…ですか!?」

「はい。何せ時間が限られた仕事ですので……今決めて頂かないと、その仕事が出来なくなるんですよ~。」

「その仕事は重要な仕事なのか?」

「私にとっては、ですがね。安心して下さい。貴方方にお願いするのはあくまで、お手伝い。とても簡単な事をしてもらうだけです。危険な目は起きません。いや、起こさせません。皆様の身の安全は情報屋として私が全責任追います。疑うようでしたら書類を用意して一筆しますよ。」

「……ど、どうする。マツリ…、」

「う、うーん……ど、どうしようか。」

「ここまで言うんだし、受けてみたらいいんじゃないか。他に方法はないし、」

「そ、それしかないようですし、ね……、」

「………、」

「……確かに。今はこれしか方法がないみたいだからね。……ナタンさん、そのお仕事の手伝い、お引き受けします。」

「ふふん。そう言ってくれると思ってました。では、契約成立という事で!」


嬉しそうに、どこか楽しそうに笑みを浮かべながらナタンさんは私に手を差し伸べてきた。その手を取るべきかどうか……少し躊躇うけれど私は意を決して差し出されたナタンさんの手を取った。

グローブ越しではあるがナタンさんの小さな手を強く握り、ナタンさんの契約は成立したのだった。



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