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勇者は、後のマツリ!  作者: くるす
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第十二話‐⑥



グラニフさんの案内で私達一行はグラミクさんがいる御屋敷へと向かう事になった。ナタンさんの話では屋敷は街の北側、それも少し離れた小高い場所にあるらしい。情報通り、グラニフさんの案内は街の北側へと続いていた。

賑やかだった街の中心から段々と人通りが少なくなる。少なくなるといっても中心に比べて、というだけで全く人がいないという訳ではない。連なっている露店には人がいるし、通りには行き交う人もいる。

このまま真っ直ぐ進めば私達も出入りした北側の門へと繋がる筈だが、グラニフさんは歩いていた大きな道を左に逸れ、細くもなければ大きくもない道を歩き始めた。不思議な事に一つ道を外すと先程まで見ていた露店は全くなくなり、ただの建物が並ぶ殺風景な景色へと早変わりした。

行き交う人々もまばらで耳に入っていた人の声や物音は遠くへと感じた。


「さっきと違ってこっちは静かだね…。」

「この道を使う者は屋敷に用がある者だけだからな。静かなのは当然だろう。」


私の呟きに先頭を歩いていたグラニフさんが答えた。成程…だから人が少ないんだ。すれ違う人もグラニフさんに気付いて頭を下げているし、グラニフさんの言う通り屋敷に用がある人が使っていなさそうだ。

「にしても不思議だな」と今度は私の後ろを歩いていたジークが辺りを見渡しながら口を開いた。


「これから会うグラミクという奴はこの街の権限を持つ権力者…つまり領主みたいな奴なんだろ?何故金持ちが集まる南側に屋敷を設けず、正反対の北側に屋敷を設けたんだ?」

「貴様!グラミク様を奴呼ばわりとは…!」

「おっと、それは失礼しました。グラミク『様』でした。」


グラニフさんのお供に叱責されジークは大袈裟に手で口を塞いだ。だが気にしていないのかグラニフさんは「あぁ、それか」と反応すると視線を前に向けたまま、表情を変えずに答えた。


「それは父が生粋の商人だからだ。」

「?…どういう事ですか?」

「何、考えれば簡単な話ですよ、シフォン殿。…父は産まれてからの権力者ではない。最初はしがない商人だった。だが父の持ち前の人柄と信頼に足りる仕事力、そこから広がる人望あって街の権力者となったのだ。今この街が商人の街と呼ばれるのも父が築き上げた実績があるからだ。」

「…話には聞いていたけれど、凄い人だね。グラミクさんって…、」

「当たり前だ。知らないというのは普通有り得ない事だ。…話が逸れたな。父は産まれてから北側に居住を構えていて、増築したり改築したりしているが住まいは昔から変わらん。だから金持ちが集まる南側ではなく北側に屋敷を構えているのだ。」

「ふーん。でもそれだけの権力者なら金持ちの集まる南側に引っ越そうとか思わなかった訳?アンタも金は好きでしょ?」


リリィの発言にグラニフさんは「ハッ」と鼻で笑うと視線だけをリリィに向けた。その視線は「馬鹿にしているのか?」と言いたげな、呆れた様な視線だった。


「確かに私は金は好きだ。だが、後から来て、父の座を奪おうとする者が集まる場所に何故わざわざ引っ越さなければならんのだ。それそこ馬鹿馬鹿しい。」

「父の座を…奪う?」

「…さっきも言ったが、この街は父が築き上げたものだ。それまではただの小さな街だった。だがそれを父が商人を集め、隣の大陸と貿易を行う程の大きな商人の街に築き上げたのだ。その実力と実績は女王にも認められ、王都でも父の位は高いものだ。」

「成程な。それ程の者が築き上げ、女王に認められた街の頂点の座を欲する奴等がいるという訳か。世知辛いな。」

「それが金持ち連中という者だ。」


そう呟いたグラニフさんの横顔はどこか儚げで視線は遠い。グラニフさんも金持ちであるのは間違いない筈だけれど……その憂いを帯びた表情はグラニフさんが言う金持ち連中とは少し、違って見えた。

それは隣を歩いていたリリィも同じだった様でいつもなら何かと馬鹿にしたり、喧嘩を吹っ掛ける様な発言をするのに言葉にする事はなく、ただただ静かにグラニフさんの話を聞いていた。

…もしかしたらグラニフさんもグラニフさんで色々と苦労をしているのかもしれない。そう、思える程グラニフさんの表情は明るいものではなかった。


「さて、見えてきたぞ。」

「あ、」


グラニフさんの言葉に私は無意識に落としていた視線を上げた。見上げた先、街から少し外れた小高い丘の様な場所にポツンと建つ大きな屋敷が見えた。遠くからも大きく感じるのだ、きっと間近で見たらもっと大きいのだろう。

あれが……街一の商売人であるグラミクさんの住む、屋敷……。


「…行こう、」


身体にピンと張り詰める様に緊張が走る。意を決する様に生唾を一度飲み込み、私達は屋敷へと更に足を進めた。



●●●


街にある建物同様、レンガ造りの立派で大きな屋敷。街から少し離れた小高い丘の上に建つ屋敷はどことなく風格を感じさせる。

石造りの高い塀に囲まれた屋敷の鉄製の大きな門を抜け、屋敷までの延びる道を歩く。その道中に飾られた色鮮やかな花達は屋敷の主の栄華を物語らせている様に思えた。

しばらく歩き、ようやくして屋敷の玄関へとやってきた。目の前にある細かな彫刻が施された大きな扉をグラニフさんのお供がさも当然の様に開けた。ギィイ、と開かれる両開きの扉……その向こうに広がっている景色に私は息をのんだ。


「「おかえりなさいませ、グラニフ様。」」


高い天井に吊るされた豪華なシャンデリア、華やかな壁紙が貼られた壁には見た事はないけれど豪華そうな壁画があり、大理石の様な艶やで豪華な床に長い廊が広がる空間からいくつも走っている。入ってすぐ先には曲線を描いた階段が左右に分かれて存在しており、二階へと続いていた。

見るからに豪華で立派な雰囲気…けれど、それよりも目にいったのはズラリと並んでは腰を曲げて出迎える人達の存在だろう。本やテレビの中でしか見た事ないけれど……もしかして、これが使用人、というものなのだろうか。初めて見た…!

外観同様、内観も豪華で立派な作りで、しかも初めて見る使用人という存在にも驚いたけれど……それ以上にグラニフさんの動じない態度に驚いた。いや、自分の家だから驚かないのも当たり前なんだけど……こういうのを見るとグラニフさんと自分達の住む世界は違うのだなというのが目の当たりになる。


「父は?」

「グラミク様なら自室におられます。」

「そうか。…父に客人を連れてきた事を伝えてくれ。」

「かしこまりました。」


グラニフさんは近くにいた使用人に声を掛けると使用人は用件を受け入れては頭を下げ、そのまま去って行った。手慣れている…そう思っていると私達に使用人の一人が声を掛けてきた。


「お客様方、お部屋へと案内致します。どうぞ、こちらに…、」

「は、はい。えっとグラニフさんは……、」

「案内はしたし、父に取り次いでやった。後はお前達でどうにかしろ。」


そう言い残すとグラニフさんはお供と一緒に階段を昇って行った。もしかしたら自室に行ったのかな……疲れて丸くなっている後ろ姿に私は「あの!」と声を掛けた。


「あ、ありがとうございます!案内してくれて…、」

「…フン。精々、いい交渉をする事だな。」


最後の言葉を残して、グラニフさんは階段向こうにある廊へと姿を消した。その姿を見送っていると隣にいたシフォンが「いい人ですね」と耳打ちをしてきた。

そんなシフォンに「そうだね」と耳打ちすると待っていたのであろう使用人が「こちらです」と部屋へ行く様に促してきた。

…グラニフさんが案内して、取り次いでくれた……この機会、逃す訳にはいかない。ちゃんと話をしないと……!!


「マツリ、行くわよ。」

「う、うん…!」



●●●


「少々お待ち下さいませ。」


使用人に案内されたのは一階の廊を抜けた先にある広い客間だった。客間というだけあって豪華な装飾が施された机や椅子、飾られている壁画も高そうで……出された飲み物のカップですら触るのがおこがましいと思えてしまう。

そんな小心者の私を他所に右隣に座るリリィは誰よりも先にカップに口を付けては辺りを見渡した。


「流石、商人の街を創ったとあってか出される紅茶も美味しい…。ほら、アンタ達も飲みなさいよ。」

「えっと…私は後でいいかな。」

「わ、私も……。なんだか高そうで飲むのが申し訳ないです……。」

「何言ってんのよ。折角出されたんだから飲まないと勿体ないわよ。」


ズズズ、とカップにある紅茶を勢いよく飲んでいくリリィ。小心者である私とシフォンに比べてリリィはやはり大物だ。あまりの態度のデカさに何も言い返せない。

視線をリリィから逸らし、対面に座るジークとクロトに向けた。二人共出された物には手を出してはおらず、ジークは部屋にある装飾品や壁画に視線を向けては「おお」と声をあげていて、クロトはクロトで微動だにせず静かに座っていた。…そういえばジークは綺麗な物が好きだと言ってたっけ……目移りするのも分かる気がする。

けれどクロトは……いつも通りに見えるけれど、少し元気がない様に見える。クロト自身何も言ってないし、気にしているのは私だけかもしれないけれど……どことなく雰囲気が暗い様に思える。

……もしかしたら、昨日ナタンさんが言っていた事を気にしているのかな……。


「待たせたな!!」


ダンっ!!という客間の扉が男の大声と共に勢いよく開いた。あまりにも唐突で大きな音に私だけでなく座っていた皆が身体をビクリと反応させて驚いた。隣にいたシフォンに至っては「ひゃあ!」と悲鳴を上げていた。

だが、入ってきた男は気にしていないのか、はたまた気付いていないのか……ドシドシと大きな足音を立てながら部屋の正面、私達に向き合う様にしてある席へと勢いよく腰を下ろした。


「息子が世話になったそうだな。俺が、グラミクだ。」

「………、」


お、大きい…。

私達に向かい合う様にして座る男……自分の事をグラミクと名乗った男はとてつもなく大きかった。陽に当たり浅黒くなっている身体は逞しい筋肉で覆われており屈強だ。背も高いせいか大きな熊みたいだ。けれど大きいのは身体だけじゃない。

ニッと歯が見える程笑う顔、グラニフさんと少し似ている目元には何本の皺を走らせているが老いを感じさせない位瞳はギラついている。雰囲気も態度も何もかも大きく、逞しい。まるで大きな壁というか……何が来ても跳ね返してしまう程の力を持つ、大きな人。

外見だけじゃなく、内面からもその大きさを一目見ただけでも感じさせる……。街を創ったと言われても納得出来る。


「して、俺に用とは何かな。」

「え、えっと……、」

「用件を言う前に少し、質問いいかしら?グラミク様。」

「!」


隣にいたリリィが持っていたカップをテーブルに置きながら立ち上がった。物怖じないリリィの態度と発言に目を見張った。リリィ…い、いきなりどうしたの…!?


「質問か。いいぞ。言ってみろ。」

「…この部屋…普通の部屋じゃないわよね。私達に何をしているのかしら?」

「え?」

「…と、いうと?」

「壁に飾られた壁画…の額に施された装飾品、天井にある灯り、家具や花瓶、そしてこのカップ……これらが触媒になって陣が刻まれている。」

「陣?」

「えぇ。魔法陣ね。さっき言った物を繋げると部屋を覆う位大きな陣が出来るの。まぁ、陣に流れている魔力は微量で普通は気づきにくいし、身体にも影響はないから大丈夫だと思うけど……、」

「あぁ…どうりで見た事のあるやつばっかりだなって思ったんだ。この部屋にある装飾品に使われている石や刻印、パヌ爺さんの家にあった魔除けで使われていたやつと同じみたいだからな。どうりで変だと思った。」

「!!」


リリィの発言に乗っかる様にしてジークも言った。…魔法陣が作られているというのも驚きだけれど、リリィだけじゃなくジークも部屋の違和感に気付いていたなんて知らなかった。さっき部屋をキョロキョロ見渡していたのは綺麗な物を見ている為じゃなく、見た事のある物があると違和感があったからだったんだ。

開いた口が開かないとはこの事だ。二人共凄い…!隣のシフォンも気づいていなかったのか私と同じ様に目を見開いて驚いていた。少し違うのは私と違い、口元に手を当てていた事。…こういう所が女子力の差なんだろうな…。

リリィとジークの発言に静かに聞いていた大男……グラミクさんは「う~ん、」と腕を組むとすぐにニッと屈託のない笑みを浮かべた。


「お見事!よく気付いたな!これに気付くのは少ないぞ!」

「じゃ、じゃあやっぱり…!」

「あぁ。黙っていてすまなかったが、この部屋には俺専属の巫女が施した魔法陣がある。主に陣の中にいる者の素性を表す陣だ。」

「素性を表す陣…?」

「あぁ。名前、職業、現在のレベル…と、まぁ、簡単なものだ。何分、この商売を長い事していると色々と面倒事に巻き込まれやすくなってな……用心の為だ。」

「面倒事…。」

「あぁ。そこのお嬢さんが言う様に身体に影響はないから、そこは安心してくれ。」


笑みを浮かべながら発言するグラミクさん。表情や低い声で発せられる言葉からは嘘を言っている様に思えない。…実際、身体に何か影響があるかと言われたら何も起こっていない。リリィも影響ないと言っていたし、大丈夫…って事でいいんだよね?


「マツリ殿、でいいかな?」

「はい!?…って、あれ?名前言いましたっけ…?」

「何言ってんのよ、マツリ。さっきも言ってたでしょ?あの人は魔法陣で名前も職業もレベルも知ってるのよ?」

「あ、そ、そっか。な、なんでしょうか。」

「驚かせてしまってすまないな。いや、何…同じ商人同士なので声を掛けたものよ。だが…商人にしては商人らしくない様にも見える。…もしかして君は商売はまだした事がないのか?」

「え…は、はい。した事ありません。」

「それもお得意の魔法陣情報なのかしら?」

「いや、これは俺の勘だ。……と、話が逸れたな。それで?息子を通じて、わざわざ俺に会いに来た理由とやらを聞こうか。」


来た…!

背中がピンと伸び、生唾を飲み込む。私達の目的、それを切り出す時が来たのだ。

グラミクさんの挑戦的な、全て見透かしている様な強い瞳がコチラに向けられる。発した言葉も口調は変わらないけれど、何か試している様な……探っている様な、そんな感じが言葉の節々に感じられた。

嘘偽りは出来ない。いや、勿論するつもりはないけれど……生半可な態度で話す、なんて事は絶対に出来ない。

目上の人に対して話す時の緊張感が襲う中、私は一呼吸置いてから意を決した。


「実は、グラミクさんにお願いがあって来ました。」




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