第十二話‐③
目的地である宿屋は以前使っていた場所と違い、屋台や露店が密集する地帯の中にある少し大きな宿屋だった。宿屋というよりホテルに近い佇まいだ。
クロト、ジークの男部屋と私、リリィ、シフォンの女部屋の二部屋を取り、荷物を置いた私達は再び宿屋の外に出た。もう一つの滞在目的である「占いの館」に向かう為だ。
荷物を置き、外に再び出ると屋台や露店には明かりが灯され、空は太陽が傾ていた夕方の赤い空から夜の薄暗い紺色の空へと変わり始めていた。気のせいか、宿屋に入る前より人通りが多くなっている様に思える。
街の中心にあると言われている「占いの館」は連なる屋台や露店を抜けた先にあり、その異様で不思議な只住まいは夜になっても変わらず、確かに存在していた。
「ここが…占いの館……!」
目の前に存在する大型のテントの存在に隣に立つシフォンは茫然としながら見上げていた。ポカンと口を開けたまま見上げるシフォンの姿はなんだか面白い。
初めて訪問するであろうシフォンと共に私達は占いの館の中へと入っていく。以前訪れた際も中は薄暗く、わずかにある灯りだけが頼りだったが……今は夜のせいか以前訪れた時より中は暗く、灯りも強さを増している様に見える。
いくつもあるカーテンの内、一つがさらりと私達の前で開いた。まるでそれは私達の来訪を知っていたかの様だった。導かれる様に私達は開かれたカーテンの先に進むと、以前訪れた時と同様……丸いテーブルと透明な水晶。
そして一匹の異様な形をした猫……マルサが鎮座していた。
「やぁ、リリィ、マツリ。元気にしていたかな。」
「マルサ。お久しぶりです。」
「久しぶりという程でもないだろう。君達がここを出てまだ少ししか経っていない。…だが、随分と逞しくなった様に見える。いや、女の子に逞しいは些か失礼だったかな。」
「にしてもマルサ、よく私達が来るって分かったわね。」
「私を舐めて貰っては困るよ、リリィ。昨日君達が来るのを先読みしていたからね。まぁ、この人数で訪れるのは読み違えたが……。」
ギョロリ、とマルサの宝石の様な瞳が私とリリィから隣にいる三人に向けられる。クロトとジークは相変わらずの表情だが、シフォンは一瞬驚いては、すぐに目を輝かせて嬉しそうに笑みを浮かべた。
「神々しい程の美しい翼と全てを見通す三叉の尾……エルフ族と同等、いやそれ以上の魔力の使い手と言われるテネリ族の方とこうしてお話させて頂く機会があるだなんて……感動です!!」
「し、シフォン…落ち着いて……。」
「エルフの娘とは珍しい。そっちの様なエルフの男は何度か見た事はあるが娘は初めてだ。…初めまして、可愛らしいエルフの娘さん。私はここの占い師でマルサだ。よろしくね。」
「!!…は、初めまして!シフォンです!!……うぅ……文献でしか見た事ない方と会話している……!」
「悪いな、マルサとやら。妹はつい最近外に出たばかりなんだ。……俺はコイツの兄でジークって言うんだ。よろしく頼む。」
「あぁ、よろしく頼むよ。……にしても君は中々面白い魔力を帯びているね。マツリと似た様な…不思議な魔力だ。」
「流石女王認可の占い師だ。鋭い事で。」
マルサの発言にジークはニヤリと楽しそうに笑みを浮かべた。そんなジークに小声で「よく女王認可だと分かったね」と聞くと「入口に証があっただろう」と小声で返してきた。あぁ、そういえばこの占いの館の入り口には女王認可のマークが飾られていたんだったっけ。
「それで?そっちの黒い子は……クロトだね。こうして面と話すのは初めてだ。」
「クロトを知ってるんですか?」
「知ってるも何もクロトもここの常連さんだ。まぁ、相手をしているのは他の者ばかりで私とは初対面だが……噂は聞いてるさ。異様な程までの強さを持つ魔物狩りのクロト。この街もそうだが、占いの館でも有名人だよ。」
「マルサだけじゃなくて、ここには何人もの占い師がいるからね。けど、女王に認められているのはマルサだけよ。」
「え、そうなの?」
「あぁ。ここにいる私以外の子達は全て私の弟子達さ。まだ女王に認められていないが、実力はある。そこいらにいる占い師達より優秀さ。…さて、話は逸れてしまったね。ここに訪れたという事は現状の状態を聞きにきたのだろう?」
マルサの言葉に私とリリィは頷いた。そう、ここに来たのは現状のレベルの把握をしに来た。けど、もう一つ……マルサには聞きたい事がある。これは宿屋で荷物を置いた時にリリィと話していた事だ。
「マルサ、占いとは別に聞きたい事があるんです。」
「聞きたい事?」
「はい。…水路へと繋がる出入口、何故騎士達が塞いでいるのか……マルサなら詳しい事を知ってるんじゃなかなって思って……、」
「あぁ…詳しいかどうかは分からないが、ある程度の事は聞いてるよ。でも、何故そんな事を聞きたいんだい?」
「そんなの決まってるでしょ!?私達は準備が整ったら一刻も早く水路に向かいたいの!けど塞がってるし、何とかして外に出たいのよ!!」
「その為には詳しい話を知りたいんです。…分かる範囲でいいので、マルサが知っている事、教えて貰えませんか?」
「……それは構わないけれど……でも、君達の力になれるかどうかは分からないよ?それでもいいんだね?」
マルサの問いかけに私は頷いた。私達の反応にマルサは小さな首で頷くと「ではまず占いから」と小さな前脚で私に椅子に座る様に促してきた。
マルサの指示に私は手をマルサに差し出すと、マルサの前脚がそっと私の手に乗った。……占いが、始まった。
●●●
「現在マツリの商人レベルは7。リリィの魔術師レベルは10。シフォンは魔法使いレベル13で、ジークは弓使いレベル25だね。」
順番に占ってもらい現在のレベル状態を教えてもらった。…教えて貰った所で私にはどの様に変化して成長しているのか…詳しく理解出来なかったが、リリィやシフォン達は「おお」と声をあげて喜んでいた。
「前回占ってもらってから5レベル上がってるわね。まぁ、妥当ね。」
「私も里にいる祈祷師様に見てもらって以来ですが……少しだけ上がってました。けど、兄さんは凄く上がってたね。」
「そうだな。…いや、正直驚いてる。マツリ達と会う前に見てもらったが……その時は17位だった筈だ。一気に上がり過ぎじゃないか?」
「遺跡にいる魔物を倒したからじゃないの?凄く強かったし……、」
「それか勇者の力…その風の大弓の影響かもしれないわね。相当な魔力量だし、それを担う為に身体的にもレベルが上がったんじゃないかしら。」
「そういうもんかね…。」
リリィの言葉にジークは半分納得している様な、していない様な表情になりながら背負っている大弓に視線を落とした。私はあまり理解出来ないけれど、急激にレベルが上がるのは相当驚く事らしい。しかもそれが勇者の力となれば尚更…らしい。
「にしても私もレベル7か…。そんなに日が経ってないし、合成ばっかしていたのに結構上がるもんだね。」
「普通なら合成だけじゃそんなに上がらないわよ。…マツリの場合は合成は合成でも結構レアなアイテムを合成成功させていたし、それこそ勇者の力を手に入れた影響もあるんでしょ。」
「それにマツリさん、一度魔物…ミルパンを一気に倒していた時があったじゃないですか。きっとそれもあるんですよ。」
「そう、なのかな…?」
経験値の上げ方は前にリリィから聞いていたから何となく知っているけれど……あまり実感が湧かない。これでも少し、商人として強くなってる…のかな?
いまいちピンとこない私を他所に最後に占いで見てもらったクロトが椅子から立ち上がった。クロトが立ち上がるとマルサは「流石だね」と小さく笑みを浮かべながらクロトに視線を向けた。
「いやはや…強いとは聞いていたけれど、ここまで強いとは思わなんだ。マツリ、心強い仲間を手に入れたもんだ。」
「えっと…?それはどういう…、」
「クロトの剣士レベル……56だね。いやはや、流石だよ。」
「5、」
予想以上に高い数字に言葉が詰まってしまった。
私が7、リリィが10でシフォンが13、そしてジークが25……けど、クロトはそのジークの倍、いや倍以上の剣士レベルだったなんて……。いや、強いとは思っていたし、人間離れした身体能力だなとは見ていて思っていたけれど……、
クロトのレベルを初めて聞いた私が驚く中、私やシフォン、そしてジーク以上に驚いた表情を浮かべていたのは……隣に立つリリィだった。
「な……ハァ!?剣士で56!?化け物なの!?!」
「リリィ!化け物って言い方やめなよ!」
「いやいや!化け物でしょ!?ありえないわよ!!56?…56って……、」
「リリィさん?い、一体どうしたんですか?そんなに取り乱して……、」
「まぁ、取り乱す気持ちは分からんでもないがな……。だが、クロトの強さを目の当たりにしていたら納得出来るだろ。」
「………、」
長い髪の毛を乱しながら床に打ちひしがれる様に膝をつくリリィ。その様子をクロトは顔色一つ変えず、静かに見つめているとリリィは視線に気づいたのかクロトの方へと弱々しく見つめ返した。
「何よ…剣士でレベル56って……、」
「何をそんなにショックを受けてるのか分からないけど……リリィだって一度レベル100になっていたんでしょ?そんなに気にする事?」
「魔術師と剣士のレベルの上がり方を一緒にしないで!!」
「!!」
勢いよく立ち上がったと思ったら私の言葉に食いついてきたリリィ。あまりにも凄い勢いに思わず後ろへと下がってしまった。
「確かに私は一度、魔術師レベルを100にしたわ。生まれた瞬間、マツリが召喚されるまでコツコツコツコツ……頑張って、沢山勉強したし、魔物も倒したし……、」
「そ、そう…、」
「この若さで魔術師レベル100は自分でも誇らしいわ。凄い事よ。けどね……剣士と比べたら、魔術師のレベルは比較的上がりやすいの。ていうか逆ね。『剣士のレベルは上がりにくい』の。」
「剣士のレベルが……上がりにくい?」
リリィの言葉に思わず首を傾げると「ゴホン」とマルサが大袈裟に咳払いをした。視線を向けるとマルサは長い尾をゆらゆらと揺らしながら笑みを浮かべた。
「リリィの言う通りさ。剣士…というより武器使いだね。特に剣や斧、槍等近接戦闘向きの武器使いは総じてレベルが上がりにくいのさ。理由は簡単……敵を倒さない限り、レベルが上がらないからさ。」
「敵を倒さないと…?」
「そうさ。例えばマツリの様な商人の場合、合成をすれば少なからずだが経験値は貰える。リリィの様な魔術師やシフォンの様な魔法使いも勉強し、使える術を会得すればそれだけでも経験値を得られる。弓使いのジークも同じ武器使いといえど近距離武器に比べて遠くから敵を射止める事が出来る上に敵じゃなくても『的を狙って撃つ』というだけで経験値を得る事が出来る。」
「マルサの様な占い師や祈祷師、巫女も戦闘をしなくてもレベルを見たり、先読みしたり……それだけでも経験値を会得する事は出来るわ。けど…近接戦闘向きの武器使いはそうはいかない。」
「そう。遠距離戦闘向きの武器使いと違って的を狙って攻撃しても経験値を得る事は出来ない。出来るのは『敵と認識したものを倒した』という経験。その経験でしか経験値を得る事は出来ない。理屈は分からないけどね。」
「敵と認識……。でもリリィ達が勉強するみたいに技の修行…とかで経験値は得られないの?」
確かクロトは遺跡での戦闘の際、何かしら技みたいなものを繰り出していた。あれだって単にレベルが上がったから出来る事じゃないと思うけど……、
「勿論、修行をすれば技を会得する事は出来るでしょうね。だけど『それだけ』なの。経験値は貰えないわ。」
「そ、そうなの?」
「技を会得って言っても近接戦闘向きの武器使いは突出した身体能力がないと技を使う事が出来ないのよ。その身体能力を上げる為にはレベルを上げる必要がある。敵を倒して、レベルを上げて、身体能力を上げて、そこで初めて修行した技を使う事が出来る。まぁ、こんな感じね。」
「確かに……魔術師や魔法使いは魔力の流れや魔術式を理解するという体的能力を必要としませんからね。勿論、レベルが上がる事で使える魔力量も上がるというのはありますが……、」
「まぁ、クロトの様な剣士と違って身になるわな。今の話を聞くと俺みたいな遠距離戦闘向きの武器は攻撃力重視というより命中率重視でレベルが上がるみたいだな。だから敵じゃなくても的を狙う事で経験値が貰えるという訳だな。」
「……なんだか頭がパンクしてきた……。」
「もー。だから、つまり……この若さでレベル56っていうのは凄いって事。特に鬼門の30。ここからはどの職業でもレベルが上がりにくいって言うし……それを更に超えて50いってるんだからね。相当凄いわよ。」
「………。」
チラリと視線をクロトに向けたが相変わらず無表情だ。あのリリィがここまで凄いというのだから相当凄いのだろう。いや、リリィが言わなくてもクロトの実力は凄いと分かる。どんな状況でも冷静だし、取り乱さないし、それに何と言っても戦闘では圧倒的な強さがある。
クロトは強い。レベルの通りだ。そんな強い人が仲間だなんて……改めて凄いと思うし、感謝しかない。……ここまで強くなるのにどれだけ苦労をしたんだろうか。
…苦労して、努力して、強くなったのなら……尚更、思ってしまう。
本当に、私と一緒に旅をさせて……良かったのだろうか、と。
「俺の事はいいだろう。」
バッサリ、とクロトは切り捨てる様に言葉を吐き捨てた。流れていた話題を断ち切る様に放たれた言葉にリリィは一瞬ムッと口を曲げたが、すぐに息をついて頷いた。
「ま、それもそうね。強い事に越した事ないし……それよりも大事な話があるんだったわ…。」
「魔術師殿が無駄に騒いだから聞くに聞けなかったしな。」
「あ?なんか言った?」
「いえいえ、別に。」
「大事な話……あぁ、門が騎士によって塞がれている話だったね。」
会話の内容にマルサは思い出した様に頷くとゆらゆらと動かしていた尻尾を下ろした。
「まぁ、私の知る限りの事を話そうかな。…昨日の夕刻頃かな……騎士団が現れて突然西門と南門を閉じて、立ち入り禁止にしたんだよ。理由は立てられた立て札に書いてあっただろう?」
「確か……『特別調査を実施している』だったよね。」
「はい。それに続いて『期間中は入場禁止』とも書いてありました。」
「マルサはこの事、先読みなり何なりで知る事出来なかったの?」
「いくら先読みが出来るといっても、こういう人為的な事は見れないよ。それにさっき言ったと思うが、本当に突然なんだよ?前触れもなければ、報せもなかった。昨日の夕刻まで普通だったさ。」
「特別調査…。騎士団が来るっていう事は王都が動いているという事だ。しかも流通の便を止めてまで行うという事は相当な事が起きているんだろう。何か思い当たる節はないのか?」
「…ないね。何の特別調査を行っているのか街の者も聞いてるそうだが、極秘任務だとかで詳細は教えてくれない。門を塞いでいる期間も未定と聞く。」
「…そうなんだ。…ここまでの話は街の人達が言っていた事と変わらないね。」
「そうですね。突然騎士団が現れ、門を塞ぎ、詳細は分からない……。目的やその調査というものが何なのか分かれば、いつ門が開くか予想は出来そうなんですが……、」
「マルサでも分からないか……。」
ハァ、と私とシフォン、リリィは大きく溜め息をついた。街の中心に館を構えるマルサなら何か詳細を知っているかと思ったんだけど……マルサでも分からない。何か分かれば、それこそシフォンが言っていた通り門が開くであろう日数を予想する事は出来たかもしれない。予想が出来れば気持ち的にも余裕が出来て、楽なんだけどな…。
私達三人の溜め息にマルサはフッと笑みを浮かべると「だがな」と呟くと言葉をそのまま続けた。
「ある噂が流れているんだよね。」
「噂?」
「そう、噂。まぁ、噂だから真実かどうか分からないけどね……。…南門を出て、しばらく歩いた所に小さな村があるんだ。いや、『あった』の方が正しいかな?」
「あった?」
不思議な表現の言葉に思わず首を傾げる私にマルサは目を細めながら、言葉を更に続けた。
「そうさ。あったんだ。村が一つね。小さいけれど、トリトンの様に農業が盛んな村があった。…だが、なくなったんだよ。一晩の内に……『何かに襲われてね』。」
「……え?」
マルサの最後の言葉に場の空気が一瞬で凍り付いた。今……なんて言った?村が……何かに襲われた?
どう言葉を返したらいいのか、何を聞いたらいいのか分からず、言葉に詰まっていると隣にいたリリィがテーブルに身を乗り出しながら眉を顰めた。
「ちょっと…それ、どういう意味?村が襲われた?一晩で?意味が分からないんだけど。」
「私も噂を聞いただけだから本当かどうか分からないんだけどね……そっちの方で仕事をしていた者達が見たというのだよ。一昨日見た村が翌日の朝には消されていた、とね。」
「消されていたとはまた…不思議な表現をするな。」
「襲われたのは間違いないだろうね。その者達は一昨日その村で商売をして、夜の内に出て次の村へ出発した。そして次に訪れた村での仕事も終え、帰る道中に……あった筈の村がなくなっていたのさ。跡形なく、焼け落とされてね…。」
「や、焼け落とされ…て?」
「あぁ。まるで大きな火事があったんじゃないかと言わんばかりにその村一帯は焼け野原さ。家も畑も全部、真っ黒に焼け落とされていた。勿論、その場には誰もいなかったそうだ。逃げたのか、それとも……一緒に死んだか…。」
「…ッ!」
ゾワリと冷たい何かが背筋を通った。喉がキュッと締まって息がしづらく、胸が痛い。震えてしまいそうになる手を耐える様に握りしめていると隣にいたシフォンも恐怖を感じたのか口元に手を当て、何かに耐える様に瞼を強く閉じた。
そんな私達を他所にリリィやジーク、クロトは顔色を変えず、マルサの話の続きを待っていた。それに応える様にマルサは閉じていた口を再び開いた。
「だから、なのかもしれないが……昨日の騎士団の登場、門を塞いだ事…一部は納得していたみたいだ。特別調査、と表向きでは言っているが、実際は消失した…いや、襲われた村の調査だろうね。原因を究明して、犯人を捕まえる為に…ね。」
「その話が本当なら…結構掛かるかもしれないな。」
「そんなのごめんよ!……でも、引っ掛かるわね。」
「引っ掛かる?何がだよ。」
「もし、マルサの言うその噂?が本当だとしたら……なんでわざわざ門を閉じたのか分からないわ。そんな事しなくたって調査は出来るでしょう?」
「そこまでは分からないし、騎士団の真意も分からないが……それこそ犯人を捜す為じゃないかい?水路に向かうにしても、この大陸の北側に向かうにしろ、必ずこの街は経由するだろうと考えてるんだろうさ。犯人を仕留める為に退路を断つ、という意味なんじゃないかな。」
「南側には水路に向かう為の迂回路がある。…が、その先には王都が管理する大橋がある。そこに犯人が逃げても騎士団がいて、犯人を捕まえる事が出来るっていう訳か。」
「山や森を抜ければ北側にも水路にも行けない事はないけれど……きっとそこはもう、騎士団が調べ始めてるでしょうね。でも、そう上手くいくかしらね。」
「だな。小さな村とはいえ、一晩で消滅させたんだ。相当な手練れな筈。犯人だってもしかしたら複数人いる組織かもしれないしな。…何にせよ、その話が事実なら犯人が見つかるまで街から出られないぞ。」
リリィとジークの会話に私は思わず隣にいたシフォンに視線を向けた。すると視線に気づいたのかシフォンも私を見つめた。眉が落ち、困った様な表情だ。きっと私も同じ表情をしているだろう。
村が一晩で襲われ、消えた。その原因と犯人確保の為に張られた規制線。…もし、その噂が本当なのだとしたらジークの言う通り街から出るのは難しそうだ。というより門が開く期間も長そうだ。
準備を整えてからとはいえ、長い期間ここに留まる訳にもいかないし……一体、どうしたらいいんだろう。
「まぁ、あくまで噂だからね。もっと詳しい事が知りたいなら酒場にでも行くといいよ。」
「酒場…ですか?」
「あぁ。特にそうだね……街の南側にある酒場とかいいんじゃないか?あそこの連中は噂好きだからね。もしかしたら……街から出られる方法もあるかもしれないよ?」
「!…それは本当!?」
「さぁ、どうだろうね。それは行ってみないと分からないよ。ただ…あの辺は街の中でも結構富裕層が住んでいる地区だからね。抜け道の一つや二つ、ありそうだけどねぇ。ま、どうかは分からないけど。」
「南側の酒場か……よし!!早速行ってみましょう!!」
「リリィ!?そ、そんな決めつけちゃっていいの!?」
「決めつけも何も、可能性があるなら行くしかないでしょ?話が本当かどうかも知りたいし…何より、ここから抜けれるかどうか…それが一番重要よ。」
「ま、南側の酒場なら南門の状況も見れるし、村がなくなったのも南門を出た所だろ?噂以上の情報があるかもしれないしな。飯も食わなきゃならんし、丁度いいんじゃないか?俺は賛成だ。」
「兄さん…。…兄さんがそう言うなら、私も……。」
「賛成も何も、行くったら行くのよ。マツリもクロトも強制参加。いい!?」
「……わ、分かったよ。」
「………。」
「ていう訳で、私達は南側の酒場に行くわ。色々とありがとね、マルサ!はい、これ。料金!!」
「毎度。気を付けて行ってくるんだよ~。」
支払う料金を人数分、まとめて支払うとリリィは足早に部屋から出ていった。一度決めたら即行動は相変わらずだ。
手を振る代わりに尻尾を振りながら見送るマルサに私は頭を下げ、リリィの後を追う様に私達は占いの館から出たのだった。




