第十二話‐②
最初の目的地であるアステリに到着したのは、太陽が真上を通り過ぎ、更に少し傾いてからだった。人の少ないピネーに比べて人通りは相変わらず多く、賑やかだ。
だが、それ以上に賑やかさを見せていたのは……目を輝かせてはキョロキョロと視線を動かしまくっているシフォンだった。
「うわぁ…うわぁ~!凄い、凄い、凄い!なんて…なんて綺麗な所なんでしょうか!まるで宝石箱みたい!!」
「宝石箱って…、」
アステリに入った瞬間のハイテンションシフォンに呆れる様に呟くリリィ。けどそんな事を気にしていないのか、はたまた聞こえていないのか…シフォンは目の色を輝かせながら目移りしていた。
「初めて見る髪の色、肌の色、人種……様々な人達が人種関係なく、こんなに沢山いるなんて…!建築物の造りも谷と全然違います!どれも美しくて、歴史を感じます!あ!あっちにある食べ物、本で見た事がある!あっちの食べ物も!あああ!私の知らない本も沢山売ってる…!」
「シフォン、シフォン。初めての街で興奮するのは分かるが、落ち着け。…見られてるぞ~。」
「へ!?…あ!!」
ジークの一言にシフォンはハッと我に返っては辺りを見渡した。ジークの言う通り街にいた人達が私達…というより興奮していたシフォンに様々な視線を向けていた。面白そうに、可笑しそうに向けられた視線を向けられたシフォンは一気に顔を赤くすると、恥ずかしそうにジークの背に隠れた。そんなシフォンにジークは可笑しかったのか「ハハハ!」と笑うとシフォンの頭を慰める様に撫でた。
「本当、シフォンは興味あるものに関しては周りが見えなくなるなぁ~。可愛い奴め~。」
「に、兄さん…!お、面白がってるでしょ…!」
「当たり前だ。面白い。」
「に、兄さん……!」
「はいはい。兄妹でイチャつかないでくれる?只でさえアンタ達はエルフで珍しがられるんだから……。」
「ま、まぁまぁ。興奮するのも無理ないよ。私もそうだったもん。」
シフォン程じゃないけどね…。
ジークとシフォンのやり取りを見ては諦めた様に溜め息をつくリリィ。そんな三人の姿を眺めていると近くにいたクロトが私の見つめる所と全く違う方へ視線を向けているのに気づいた。その視線はどこか…険しい。
「どうしたの?クロト。何か睨んで…、」
「…あそこ。人が集まっている。」
「え?」
クロトが目を細めながら小さく答える。私も釣られる様にして視線を三人からクロトの見つめる先に向けた。すると道の先、丁度分かれ道になっている場所で人が集まっているのが見えた。
何か売り出しているのか、何かショーでもやっているのか…という賑わいには見えない。集まっている人達の顔は険しく、苛立っている様に見える。聞こえてくる声も怒号が混ざっていて、傍から見ても穏やかじゃないのが分かる。私の様子に気付いたのか、やり取りをしていた三人も私の見つめる先に視線を向けていた。
「なんだろう、アレ…。」
「何かあったのかしら。…行ってみましょう。」
「え、行くの?」
「別に見る位いいでしょう。宿屋も道具屋も占いの館も…あの分かれ道の先にあるんだから。…それに、」
「それに?」
「……確か、あそこって……いや、まさかね……、」
「リリィ?」
「……とりあえず、行くわよ!早くなさい!!」
バッと駆け出す様に走り出すリリィ。集まっている人…というより集まってる場所を見つめて一瞬、動揺していた様に見えたけど……あそこで起こっている事に何か心当たりでもあるのだろうか。
走り出すリリィに私達も追いかけた。幸いな事に集まっている場所まで遠くなく、先に向かったリリィにはすぐに追いついた。
「リリィ!」
「………嘘…、」
「へ?何が?」
「……な、何がどうなってのんのよ!?!」
ざわつく声と飛び交う怒号……それとは比にならない位、リリィは叫んだ。その顔は青く、絶望に包まれている。
突然叫んでどうしたのかと思いながらリリィの様子を伺っていると顔色を青くしながらリリィは視線の先にある場所に向かって指をさした。私はそのまま追う様にして向けられた先へと視線を向けた。
視線の先……集まっている人達の先にある大きな門。門は固く閉じられており、その中心には立て札の様なものが存在していた。その立て札には何か字が書いてあり、私はそれを見上げながら書いてある字を読んだ。
「…『この先、特別調査を実施している為、期間中入場禁止とする。……王都大騎士団』……入場禁止だから門が閉まってるんだ。」
「何呑気な事言ってんのよ!マツリ!」
「え!?逆に聞くけど…なんでリリィは取り乱してる訳…?」
「取り乱すに決まってるでしょ!!こんな…こんな事って……!」
「取り乱す魔術師殿に代わって、俺が説明してやろう。…マツリ、ここの門が何なのか分かるか?」
「もう最悪!」とリリィが苛立ちを隠せない中、逆に落ち着いているジークが口を開いた。ジークの質問に私は同じく分かっていないであろうシフォンと顔を見合わせてから、首を横に振った。
「ううん。知らない。」
「では、教えてやろう。…この門はアステリから外へ出る数ある場所の一つ。そして…クロスリー水路に向かう為の最短の出入口。俺達が今後、利用する場所の一つだ。」
「え、」
ジークの説明に思わず言葉が詰まった。クロスリー水路に向かう為の最短の出入口……この閉じられて、入場禁止と立て札がある門が……これから私達が利用しようとする場所…!?
「そ、そんな……ここから出られないって事?」
「王都騎士団直々だからな……期間中とある以上、利用は出来ないだろうな。」
「だから最悪だって言ってるのよ!!…ちょっと、これいつからやってんの!?ていうか、いつまでかかるのよ!!」
リリィが近くにいた男性の肩を掴み、無理やりに聞き出した。突然の事に男性は驚いてはいたが、状況が状況なだけに怒る事なく平然とした態度で口を開いた。
「昨日の夕刻頃に突然だよ。しかも予告もなしに閉めやがったから困ったもんだよ。」
「予告もなしに……、」
「あぁ。しかもいつ終わるのかも分からない。騎士に聞いても教えてくれなくてな……ったく商売してる身にもなってほしいもんだ。これじゃあ納品に間に合わん。」
「いつ終わるのかも分からない……そんな…、」
男性の言葉に身体の血の気が引いていく。突然に門は閉じられ、門が閉じている期間もいつまで続くか分からないときた。…もしかしたら明日には開くかもしれない。けれど、そうじゃないかもしれない。
「せっかく次の目的地も定まっていたのに……なんていうタイミングなんだろう……。」
「で、でも…アステリ程の大きな街だったら他にも出入口はありますよね?そこから水路を目指せばいいのでは?」
「それは無理だぜ、お嬢ちゃん。遠回りになるがもう一つ、水路に繋がる出入口が南にもあるが……そこも門が閉じられてる。」
「ハァ!?何それ!意味分からないんだけど!!」
「俺に当たるなよ!こっちだって困ってんだ。今、門が空いてるのは北側の門とプラトンのある東側の門だけだ。」
北側の門…というと私達が入ってきた門だ。プラトンのある東側…というのも以前利用した事があるから見覚えがある。
「北側は山脈があるから水路に向かうのは無謀で無理…だったよね。東側の門から水路に向かう事は出来ないの?」
「無理ね。森を抜ければ行けない事はないけれど、あそこの森は深くて魔物も多い。それに水路までかなり距離があるわ。万全の準備をしても無事に辿り着けるかどうか分からない。」
「そ、そんな……、」
水路に向かう手立てが完全に消滅した。手から力が抜けていくのが分かる。ど、どうしたらいいんだろう……。打開策や考えが全く思いつかない。
考えが思いつかないのは皆も同じ様でさっきまで騒いでいたリリィも悔しそうに唇を噛みしめながら黙っていて、ジークもどこか遠くを見つめているばかりだ。シフォンに至っては何を言えばいいか分からず私やジークに視線を移してばかり。その表情は私から見ても分かる位不安がっているものになっていた。
そんな中、一人平然とした面持ちでいたのは……門を見つめていたクロトだった。
「こんな所で突っ立っていても意味がないだろう。さっさと宿屋なり館に行くなり移動した方がいいんじゃないか。」
「クロト…。」
「まぁ、クロトの言う通りだな。ここにいても俺達にはどうする事も出来ない。今日はとりあえず宿屋にでも行って休もう。これからの話はそれからでいいだろう。」
「……そうだね。もしかしたら明日には開くかもしれないし……シフォンもリリィもそれでいいよね?」
私の問いかけにシフォンは「はい」と頷き、リリィも返事はしなかったけれど首を縦に振って従った。シフォンは不安そうな表情を浮かべているもののリリィ程ショックは受けていないみたいだ。
まだまだ人が集まりそうな門の前、騒ぎに近い賑わいをみせる人混みの中を私達はすり抜けながら、第一の目的である宿屋へと向かったのだった。




