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勇者は、後のマツリ!  作者: くるす
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第十一話‐②




『これは盟約だ。』

『本当に、我等が民に危害を及ぶ事はないんじゃな。』

『えぇ、それは勿論。我等は人間程野蛮ではない。約束は必ず守る。逆に言えば約束を守らなければ容赦

はないという事だ。』


ピギャアアアアア!!


『私が作り出した芸術品だ。私との盟約は至極簡単。約千年後に現れるであろう勇者が訪れるまで、これに餌を与える事だ。』

『え、餌…とは、』

『これは元々人食いの魔物同士を合わせ作られたもの。特に若く、肉が柔らかいものには目がない。……ここまで言えば分かるだろう?』

『そ、そんな…、』

『まぁ、そう悲観するな。人食いの魔物だが力は神獣クラスと同じだ。ちゃんと育てれば谷に風が流れるだろう。その恩恵を受け、千年餌を与えて育てればいい事。それにこれに餌を与えるのは五十年に一度だけでいい。そうすれば消化する為に五十年眠り続ける。』

『ご、五十年に一度…だ、だが途中で逃げだすかもしれん。そうなった時一番に狙うのは我等の民がいる谷だ。我等が安全だというならばちゃんとした保証がほしい。』

『ハァ…仕方あるまい。なら、これでどうだ?この枷は私でしか外す事が出来ない、特注品だ。これさえあれば逃げ出す事はない。まぁ、餌を与えず放置したらコレは自分の足を食い千切って外に出るぞ。』

『な、』

『だから、餌を与えろ。そうすれば谷に風を送る神獣となる。お前達は餌を与えるだけでいい。それが私とお前の盟約だ。』

『……な、何故そこまで……それほどの力があれば、』

『無理だ。私の最大出力の力を持ってしても勇者を倒す事は出来なかった。我等が王を再び眠らせる事になってしまった。あの…あの扉でさえ今の私には傷一つつける事すら出来ない。なんて非力だ。』

『……だから、これを育てろというのか。』

『そうだ。千年後…私はこの世にいないだろう。だが、千年という私の恨み、妬みは絶えない事を証明してみせる。それが我等が王へ捧げる事が出来る絶対的忠誠。…上手くやり遂げてみせろ、エルフよ。』

『これで谷が救われるのであれば……、』


これが、シーナさん達が見せてくれた……風の遺跡の記憶、というものだ。何かもう一つ見た気がしたけれど……明確に思い出せたのは、これだけだ。だが…今は、これだけでも十分な筈だ。


「………つまり、前回の勇者が役目を終えた約千年前……何者かが神獣として別の魔物を用意したって事ね…。」

「しかも話を聞く限りじゃ、勇者に相当恨みがあるとみた。…これは、つまり……魔王の配下があの魔物を用意したって事か。」

「しかも…当時のエルフの長と結託して……なんて事、」

「………、」


私の話を聞いた皆は難しそうに眉間に皺を寄せていた。それだけ理解しがたいものだったのだろう。特に…ずっと『風神様』だと言い伝えられていたジークとシフォンにとっては、私達より理解に苦しむかもしれない。


「でも、話を聞いて納得したわ。あの強大な風の魔力はきっと生贄として犠牲になった人達の魔力を使ったもの。…シーナさん達がずっと解放されたがっていたのは、あれが『風神様』じゃなく魔物だと知ったからね。」

「勇者が力を得ない様にする為の妨害。その方法があの魔物っていう訳か。谷に風の恩恵を与えるのと危害を加えない為に餌となる生贄を儀式として差し出していた…って事か。……クソッ……胸糞悪ぃ。」


舌打ちをしながら苦虫を潰した様に顔を歪めるジーク。シフォンも底知れぬ恐怖を感じているのか無意識に組んだ両手は小刻みに震え、顔色も真っ青だ。…シフォンが怯えるのも無理はない。シフォンは、儀式で『風神様』の生贄になる一人だったからだ。

何も知らなかったとはいえ、もし生贄になっていたら……そう考えるだけで当事者でない私ですら恐怖で倒れそうになる。


「…ま、敵の誤算は私達が勝利した事ね。敵が用意した神獣クラスと言われる魔物をどうにかして、勇者の力を手に入れて、それで倒したんだから。」

「…そうだね。シーナさん達も解放出来たし……今後、谷で儀式は行われる事ない、よね。」

「…あぁ。……と、そろそろピネーにつくな。」


先頭を歩いていたジークの呟きに私とリリィは互いに向けていた視線を前へと移した。遺跡から続いていた森を抜け、開けた場所が見えている。そして、ゆらゆらと風で揺れる細い吊り橋が奥に見えた。…あれを渡れば、ピネーだ。


「……そうだった。またあれを渡らないといけないんだった…、」

「リリィさん…だ、大丈夫ですか?顔色が……、」

「もう…一度渡ったんだし、大丈夫だよ。」

「シフォンはともかく、なんでマツリは平気そうな顔してんの!?高いし、風強いし……怖くないの!?」

「いや……一度遺跡で豪風に吹っ飛ばされたからね。あれに比べたら……、」

「ハハハ!マツリは良い経験をしたな!」

「笑い事じゃないわよ!もう!!」



●●●

怯えるリリィの手を無理やり引っ張って谷と谷を結ぶ吊り橋を何とか渡り終えた私達は、無事、ピネーのある谷に辿り着いた。

ピネーに辿り着いた頃には陽は更に傾き、空も徐々に赤みを帯び始めていた。それにしても……、


「ピネーに戻ってきたのに…静かだね。」

「まぁ、ここは用がない限り殆ど誰も来ないからな。狩猟も魔物の力が一番弱い朝方にやる事が殆どだし、今頃谷の奴等は各々の家で過ごしてるさ。」

「…で?無事ピネーに辿り着いたけど……どうするの?このまま『あそこ』、行くの?」

「……マツリはどうしたい。」

「え、私?」


リリィの質問に答える事なく、ジークは私に話を振ってきた。突然振られて一瞬焦ったけれど、私の言葉を皆が待ってくれている事に気付いて、冷静になれた。


「……行こう。この谷にはお世話になってるし、遺跡に行く事は伝えてあるからね。ちゃんと勇者の力を手に入れた事を報告しないと。……それから、あの魔物の事も……、」

「マツリさん…、」

「この谷にいる人達の信仰していた『風神様』を倒した事、儀式の事、そして……あれが魔物だった事。千年前の事を知らなかったとしても、話はしないと。」

「そうだな。……それに、今後の俺達の事も話さないとな。」

「うん。そうだね、兄さん。」


私の答えにジークは隣にいたシフォンと共に頷き合う。流れる様に私はリリィとクロトに視線を向けると二人も私の意見に了承しているのか小さく頷いてくれた。

「行こう。…村長さんの家に。」










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