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勇者は、後のマツリ!  作者: くるす
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第十話‐⑥



『これは盟約だ。』

『本当に、我等が民に危害を及ぶ事はないんじゃな。』

『えぇ、それは勿論。我等は人間程野蛮ではない。約束は必ず守る。逆に言えば約束を守らなければ容赦はないという事だ。』


ピギャアアアアア!!


『私が作り出した芸術品だ。私との盟約は至極簡単。約千年後に現れるであろう勇者が訪れるまで、これに餌を与える事だ。』

『え、餌…とは、』

『これは元々人食いの魔物同士を合わせ作られたもの。特に若く、肉が柔らかいものには目がない。……ここまで言えば分かるだろう?』

『そ、そんな…、』

『まぁ、そう悲観するな。人食いの魔物だが力は神獣クラスと同じだ。ちゃんと育てれば谷に風が流れるだろう。その恩恵を受け、千年餌を与えて育てればいい事。それにこれに餌を与えるのは五十年に一度だけでいい。そうすれば消化する為に五十年眠り続ける。』

『ご、五十年に一度…だ、だが途中で逃げだすかもしれん。そうなった時一番に狙うのは我等の民がいる谷だ。我等が安全だというならばちゃんとした保証がほしい。』

『ハァ…仕方あるまい。なら、これでどうだ?この枷は私でしか外す事が出来ない、特注品だ。これさえあれば逃げ出す事はない。まぁ、餌を与えず放置したらコレは自分の足を食い千切って外に出るぞ。』

『な、』

『だから、餌を与えろ。そうすれば谷に風を送る神獣となる。お前達は餌を与えるだけでいい。それが私とお前の盟約だ。』

『……な、何故そこまで……それほどの力があれば、』

『無理だ。私の最大出力の力を持ってしても勇者を倒す事は出来なかった。我等が王を再び眠らせる事になってしまった。あの…あの扉でさえ今の私には傷一つつける事すら出来ない。なんて非力だ。』

『……だから、これを育てろというのか。』

『そうだ。千年後…私はこの世にいないだろう。だが、千年という私の恨み、妬みは絶えない事を証明してみせる。それが我等が王へ捧げる事が出来る絶対的忠誠。…上手くやり遂げてみせろ、エルフよ。』

『これで谷が救われるのであれば……、』


何かが流れ込んでくる。…これは、確か……遺跡の記憶だ。私はこれを……見た事がある。


ひゅう、


更に何かが風と共に流れ込んでくる。……あれは……誰…?


『雲の上はいつも晴れ、だな。』

『…なんだ、それは、』

『俺の世界の諺だよ。ほら、ここの遺跡って天井空いてるだろ?それがこの諺を彷彿させるんだ。』

『?…空が見えたら思う事なのか、それは、』

『う~ん……俺は思うけど、他はどうかな。』


ガタン、と石台の上に大弓が置かれる。男は指で石台を撫でると複雑な陣が大弓を取り囲み、半透明だった大弓が徐々に石台と一体し始めた。その光景を静かにエルフの男が見守っていた。


『よし、これでいいだろう。……さっきの諺にはちゃんと意味があるんだ。聞きたいか?』

『…聞きたくなくても言うんだろ、お前は、』

『ハハハ。バレたか。』


スッと真上を見上げる男。視線の先には切り開かれた天井があり、その更に先には青い空とそこに流れる白い雲が存在していた。


『雲の上はいつも晴れ……例え雨や雪で天気が悪くても、雲の上はいつでも青空が広がってるだろ?』

『?…そんなの当たり前だろう?』

『あぁ、それをもっと感傷的にするとだ……今は辛く、上手くいかない時でも、それを乗り越えたら晴れた日の様に明るく、楽しい未来が待っている!…と考えられているんだ。』

『……意味がよく分からないな。』

『おいおい…頭固すぎだろ。…まぁ、いいや。俺の役目もとりあえず一つ、終わった事だしな。』

『………お前はよくやった。充分な働きだった。』

『おお…お前が俺を褒めるだなんてどういう了見だよ。明日は雨か?嵐か?』

『茶化すな。』

『……いいんだよ、これで。これが俺に出来る最高の終わり方だ。…きっと、次の奴が上手くやってくれるさ。』


カチン、と大弓が完全に石と一体になったのを確認すると男はエルフの男と向き合った。淡い黄色の瞳を持つエルフの男に男は薄く笑みを浮かべた。そんな男にエルフの男は眉間に皺を寄せた。


『何故そんな事が分かる。』

『分かるさ。…だが、上手くするには色々苦労するだろうな。嫌な事もあるし、邪魔は入るし……けど、それを乗り越える力をきっと持っている筈だ。』

『……得意の勘、というやつか。』

『あぁ、俺の勘だ。……大丈夫。次の奴はきっと全部、ぜーんぶ上手くしてくれるさ。俺の勘がそう言ってる。だから、その時まで守ってやってくれ。それは、この遺跡にいるお前の役目だ。』

『……契約か。』

『違う、違う。そんな堅苦しいもんじゃねぇって。……俺とお前の約束だ。』





●●●




「……ッ、」


白い光が徐々に薄れていく。目の前に広がっていた白い世界が徐々に色を帯び始め、視界が鮮明になる。

石畳の地面、石造りの遺跡、広い空間。そして……天から降り注ぐ陽の光と……これは、


「……花……?」


空から雪の様に何かが降ってくる。ひらひらと風に乗って、沢山の……花びらだ。赤や白、桃色、黄色……色鮮やかな花の花びらが何もない筈の空から降ってくる。

これって……一体……、


「………姉さん…、」

「え、」


隣にいたジークが小さく呟いた。茫然としながら空間の中心を見つめるジークの視線を追う様にして私も視線を向けた。

さっきまで空間の中心にいた筈の『風神様』は……姿もなければ、いた形跡もない。繋いでいた鎖も枷もなくなっていて、『風神様』の身体で見えなかったリリィ達が今は見える状態だ。

けど……それ以上に視線を向けられたのは……空間の中心、『風神様』がいた場所に一人の少女だった。


「シーナさん…。」


天から降り注ぐ白い陽の光の下、無数に落ちる花びらがシーナさんの身体を通り抜ける中……シーナさんは笑みを浮かべながら小さな身体で両手を大きく広げた。


『ジーク、シフォン。おいで!』

「…ッ、」


笑顔で言うシーナさんにジークは大弓を持ちながら私の横を走り抜ける。それは向こうにいたシフォンも同じだったらしく、シーナさんに向かって走り出していた。


「姉さん!」

「お姉ちゃん!」


二人が勢いよくシーナさんに抱き着く。けれどシーナさんの身体に触れる事は出来ず、腕がすり抜ける。それでも二人はいいのか互いの身体を抱き締めた。駆け寄ってきた二人にシーナさんは触れられないけれど、そっと身を寄せ、二人の頭を優しく撫でた。


『二人共……よく頑張ってくれたね。お姉ちゃん、嬉しいわ。』

「姉さん…姉さん…!」

「お姉ちゃん……お姉ちゃん…!」


シーナさんの優しい言葉に二人は涙を流した。姉としてのシーナさんに再会出来た事に嬉しかったのだろう。涙する二人にシーナさんは優しく笑みを浮かべる。…二人を大事に思う、優しい笑みだ。


「全く……いいもん見せてくれるわ。」

「リリィ、クロト…。」


向こう側にいたリリィとクロトが私の隣までやってくるとそのまま中心にいるシーナさん達を見つめた。


「きっと……ずっと『風神様』の中にいたのね。けど、あぁして姿が保てるのは元々魔力が高かったシーナさんだけだったようね。」

「そうなんだ…。」


ここに来るまでの間、色々な場面で助けてもらった。彼女の存在がなければ……いや、彼女の思いがなければきっと私達は『風神様』を倒す事も、ジークやシフォンがシーナさんに再会する事もなかっただろう。


「お姉ちゃん…、」

『シフォン、泣き虫はまだ健在ね。けど、それ以上に強く、優しい子になったわ。貴方の優しさがきっと誰かを救う力になると思うわ。お姉ちゃんの代わりに沢山の人を救いなさい。貴方にはそれが出来る。』

「……姉さん…、」

『ジーク。貴方はもう少し落ち着きが必要ね。けど…ここ数日で立派になったわ。これから貴方の力を必要と求めてくる人が沢山いると思う。その時はちゃんと力になってあげなさい。大丈夫、貴方は賢い子だから。何がダメで何が良いか判別出来る筈よ。』


シーナさんの言葉に二人は涙しながら力強く頷く。その姿にシーナさんは更に優しく笑みを浮かべると今度は私達のいる方へと顔を向けた。


『勇者様、魔術師様、そして剣士様。私達を救ってくれて、ありがとう。…おかげで、この遺跡に縛られていたものが全て解放出来たわ。…見て、皆幸せそう。』


そう言いながらシーナさんは花弁が降り注ぐ空を見上げた。私も釣られて空を見上げるが……今の私には花びらと空しか見えない。

……けど、そこにある空は一段と明るく、綺麗で……特別に見えた。それはきっと私の両隣りにいるリリィもクロトも同じだろう。


『きっと、これから沢山の苦難が待っているでしょう。けど皆さんなら乗り越えていける筈です。…私達が、風となって御守りします。』

「シーナさん…。」

『……時間ね。もう行かなきゃ、』


すぅ、とシーナさんの身体が宙へと浮かび上がる。抱き締めていたジークとシフォンは目を見開きながら浮かび上がるシーナさんに手を伸ばし、縋った。

だが、それはすぐに止まり……代わりに互いの手を握りしめ、涙を流しながら二人は笑みを浮かべた。


「姉さん、ありがとう。最後まで俺達を気に掛けてくれて……俺、もう間違えないよ。ちゃんとシフォンも皆も…この手で守っていく。」

「私も…お兄ちゃんを支えていくわ。だから安心してて……お姉ちゃん、ありがとう。ありがとう…、」

『……ずっと見守ってるわ。大好きよ。』


優し気な笑みを浮かべながら小さく涙を流すシーナさん。涙が頬を伝わり、落ちる…が、地面に落ちる前に光の粒となって、シーナさんは天へと吹き上がる風と共に……消えた。

それはもう一瞬で……残されたのは天から降り注ぐ色鮮やかな花びらだけだった。


「……行っちゃった…、」

「いえ、まだよ。」

「え?」


私の呟きに隣にいたリリィは杖を取り出しながらジークとシフォンのいる元へと歩いていく。歩きながらリリィは杖の先を振るうと白い光の球をいくつか出し始めた。


「リリィ、それは…、」

「灯りよ、ただの。ちゃんと天への道を歩む為の道標よ。…迷わない様に、こうして標してあげるの。」

「リリィさん…、」


リリィが出した白い光の球は静かに空へと浮かび、飛んでいく。光を放ちながら飛んでいく光の球は吹き抜けた天を抜け、空を抜け、流れる雲の向こうまで飛んで行った。

遥か空の彼方まで……静かに、風に流れながら飛んでいく。


「…きっと、シーナさん達も迷わないよね。」

「…あぁ。そうだな。」


私と同じ様に空を眺めながらクロトは応えた。すると私達の間を冷たく、爽やかな風が通り抜けていく。

空を眺めながら手を握り合うジークとシフォンの髪の毛を揺らし、リリィの服を靡かせながら……冷たくも、どこか温かな風はシーナさん達と共に空へと、流れていった。

どこまでも、ずっと遥か先まで……流れていくのだった。







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