第十話‐④
「持ってきたよ!ジーク!!」
「!!…それは……入り口にあった『風神様』の羽根か!」
羽根を求めて数分後、私は片手に持てるだけの羽根を持ってきた。そう、これは……最奥の扉近くに落ちていた『風神様』の羽根だ。
あの時は邪魔で振り払ったけれど……まさか『合成』で使う材料になるとは思わなかったな。
「そうか…考えたな、マツリ。この羽根を使えば矢羽の代用にはなる。」
「良かった。……じゃあ、後は『合成』するだけだね。」
「いけるか?マツリ。」
「やってみるしかない。……初めてだけど、頑張る。」
「……よし、信じてるぜ、マツリ。お前なら、やれるさ。」
力強く頷くジークに私は若干緊張しながらも頷き返す。そう、後は『合成』だけだ。さっきも言ったかもしれないけれど矢を合成するなんて初めてだ。しかも材料が少ないせいで一つしか作れない……つまり失敗は許されない、という事だ。
合成で作れなくてもダメ、失敗してもダメ…不安と緊張感で圧し潰されそうだ。……けど、やるしかないんだ。これしか今は、方法はないんだから。
「ふぅ……はぁ~……………よしッ!!」
深呼吸をして、気合いを入れる。気持ちのいい空気が鼻から入り、全身に巡る。圧し掛かっていた不安や緊張感も溶けていく様で、気合いも入りやすい。
意を決して私は合成に必要な材料を両手に持つ。左手には折れた矢をかき集めたもの、右手には落ちていた『風神様』の羽根。後は……瞼を閉じて、集中して一つになるイメージをする。
大丈夫……上手くいく。成功する。…これを一つにして、矢を作る。
……勇者の…風の大弓で使う矢を……『風神様』を倒す為の……強い矢を……、
「合成する…!」
言葉にした瞬間、両手が強く発光した。瞼を閉じていても伝わってくる光の眩しさに思わず眉間に皺を寄せる。ジークも眩しかったのか「うわっ!」と声をあげていたが、強い発光は収まらない。
合成する際に感じる手の熱さも今まで感じた中で一番熱い。まるで手の平が燃えている様な……そんな熱さだ。眩しさも今まで一番眩しく感じる。
だが次第に両手に感じていた熱も治まり、両手に感じていた重量も別の重量へと変わっている。強い発光も徐々に落ち着いていき、私は恐る恐る閉じていた瞼を開いた。
「…これは、」
治まりつつある光……けれどその光は回復薬や火炎瓶を作る時に出る白い光ではなく、虹色に光り輝いていた。これはまるで……エレクシールを合成した時と同じ光だ。
徐々に消えゆく虹色の光を見つめる中、手元に感じた一つの重量を思い出し、すぐに視線を光から手元へと移した。そこには……一本の真っ直ぐな矢が出来ていた。
「……出来た……の?」
手元にある矢はまるで新品の様に真っ直ぐで、とても長い。先端にある鏃は鋭く、天から降り注ぐ陽の光に反射して煌めいており、矢羽部分もちゃんと『風神様』の羽根が綺麗に切り揃えられて出来ている。
…出来たんだ。ちゃんと……合成して、矢が出来たんだ……。
「ジーク…!」
「あぁ……あぁ!やったな!マツリ!!やるじゃないか!!」
茫然とする私以上に興奮した面持ちで笑みを浮かべるジーク。そんなジークに私は合成し、完成した一本の矢を手渡すとジークはそれを受け取った。
そして品定めする様に矢を持つと色々な方向から眺め始めた。
「長さも重さも充分だな。鏃もこれだけ鋭ければいけるな。矢羽も綺麗に出来てるじゃないか。……これなら、使える。」
「…良かった…!」
「これもマツリの商人としての力のおかげだな。…ここまでされたら、やるしかないな。だが……、」
「…あ……確か…この大弓が『風神様』に使えるかどうか…だったよね。」
『二つ、『風神様』にどこまで通用するのか。この大弓が強い風の魔力を含んでいるのは分かる。だが、それは『風神様』も同じ。同じ属性だと威力も弱まる。それに加えて相手は上級魔法を使ってくるし、制限があるとはいえ動き回る。おまけに装甲も固い。矢が通るかどうか…、』
合成で矢が完成したのも束の間、もう一つの懸念が残っていた事を思い出す。そうだ、矢が完成してもこれが通用するかどうかはまだ分からないんだった。
確かジークは弱点があればとか何とか言っていたけど……『風神様』に弱点なんかあるのかな……。あったとしても、通用するのか……、
ひゅう、
冷たい風が私達の間を抜けていく。一瞬、花の様な香りがした気がして私は反射的に風が抜けていった方へと視線を向けた。
今まで肌で感じていた風とは違い、少し甘い、花の様な香りを帯びた風の先には……何度も目にした少女の姿がそこにあった。
「……シーナさん…。」
「!」
私の言葉にジークも視線を向けた。私の視線の先には花冠を頭に乗せたシーナさんがそこに存在していた。そうか…この花の様な香りは…あの花冠の香りだったんだ。
私達の視線に気づいたのか、はたまた気付くの待っていたのか…シーナさんは小さく微笑むと口を開いた。
『よく、ここまで来てくれたわ。この時を私達はずっと…ずっと待っていた。』
「姉さん…。」
『ジーク、そしてマツリ。…本当にありがとう。皆を代表して心からお礼を言うわ。……やっと…やっと皆と一緒にあそこから出られるわ。』
「あそこ…って…、」
『その矢で倒せるかどうか心配していたでしょう?大丈夫、ちゃんと通用するわ。けれど、狙うとしたら一カ所だけ。そこを狙えば確実に倒せるわ。』
「!…弱点があるって事か。」
『ここよ。』
そう言ってシーナさんは自身の首…の後方に指をさした。
『首の後方…丁度根元部分ね。ここを狙えば大弓の膨大な風の魔力で全ての神経系が切れて、生存機能もなくなる筈よ。』
「…首の後方……、」
『心配そうな顔をしないで。大丈夫、私達も協力するわ。貴方達は狙って、撃ってくれたらいい。その為にずっと…アイツの中にいて、中から抵抗していたんだから。』
「中から抵抗…?」
「……分かった。首の後方、根元だな。……やってやるよ。」
『…良かった。ジークならそう言ってくれると思ったわ。……終わりは近いわ。待ってるわね、ジーク。マツリ。』
そう言い残し、シーナさんは流れる風の様に溶けて消えた。意味がよく分からない事を言っていたけれど……弱点を教えてくれた。これでジークが抱いていた懸念が減った訳だけど……何故かジークの顔は晴れていない。
「どうしたの?ジーク。弱点分かったのに暗い顔をして…、」
「ん?あぁ……考え事をしていたんだ。弱点は分かったのはいいが、如何せん場所が厄介だからな……。」
「場所って…首の後方、でしょ?」
「あぁ。つまりは『風神様』が俺達に背を向けていなくちゃいけない。狙いを確実に定めると考えれば最低でも十秒、止まっていてほしい。…が、難しいだろ?」
「……確かに…、」
あの『風神様』が私達を無視して背を向けさせる、だけじゃなく動きを最低でも十秒止めていなくてはならないというのは今まで見てきた事もあってか難しいだろう。攻撃的で凶暴な今の状態の『風神様』の動きを制止させるなんて事……今の私達には出来ない。
……そう、私とジークなら。けど、
「…リリィ達は出来ないかな。」
「リリィ達に?」
「うん。リリィ達に何とかして『風神様』の注意を引き付けて、且つ十秒だけでも動きを止めてもらう…様に出来ないかなって思ったんだけど……無理そうかな。」
「…いや、それは俺も考えていたし、それしか方法はない。俺達ではどうにも出来ないからな。ここは魔術師殿達を信じてみるしかない。」
「じゃあ…!」
「あぁ。とりあえず『共鳴』で説明する。…ちょっと訂正も加えてな。」
「訂正?」
「あぁ。最低でも十秒…と言ったが、十秒って言うと魔術師殿は不機嫌になる可能性があるからな。…五秒に変更するよ。」
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「『風神様』の注意を私達に引き付けて、しかも五秒間動けなくしろだって…?また無茶な条件ね。」
シフォンの『共鳴』を通じて今までの説明を受けたリリィは大きく溜め息をついた。そんなリリィにシフォンは「まぁまぁ」と苦笑を浮かべた。
「けど兄さん達は勇者の力を無事手に入れられましたし、私達にしか出来ない事ですから…頑張りましょう!」
「それに、例え何もなかったとしても奴の注意を引かない限りアイツ等は戻ってこれないだろ。」
「…それは分かってるわよ。…結局はやるしかないのよ。ていうかジークは五秒だけでいいのかしら?」
「え?」
「この天才魔術師美少女に向かって五秒だけ時間を作れって…何それ?アイツは私が五秒だけしか時間作れないと思ってんの?馬鹿にしてんの?」
「ば、馬鹿にはしていないと思いますけど……、」
「五秒と言わず、十秒…いえ、二十秒作ってやろうじゃないの。なめてんじゃないわよ、あのエルフ。」
「……気合い充分ですね…!」
「作戦はどうするんだ。アイツは上級魔法を使ってくるんだろ。」
「…人と同じだった場合、上級魔法を使った直後は魔力の反動で一瞬だけ隙が出来る筈よ。その隙をつけば、いけない事もない。その為にも……私とシフォンの連携が必要ね。」
「私とリリィさんの…。」
「そうよ。けど私達以上にアンタには動いてもらうわよ、クロト。アンタの腰に背負ってるもんがタダの鈍らじゃない事を証明してみせなさい。」
「………、」
鋭いリリィの言葉にクロトは腰にある剣に手を置いた。カチャン、と音がやけに響いた気がしたが三人は左程気にする様子はなかった。
「作戦を伝えるわ。…私達でマツリ達の道を作るわよ!」
「はい…!」
「あぁ。」




