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勇者は、後のマツリ!  作者: くるす
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第十話‐③



『神聖なる風が今、解放された。』

『全ての風が勇者と共に、在らん事を……、』


ぶわりと身体の中に風が突き抜けていく。冷たく、けれどどこか爽やかで心地の良い風。

頭の中で響いた声が消えると同時に強い発光が弱くなっていくのが瞼の裏側から感じた。小さくなっていく光に私は恐る恐る閉じていた瞼を開けた。

ぼやける視界、けれど徐々に鮮明になっていく視界に私は慣れていくと目の前にある大弓の存在に一気に目を見開いた。


「な、に……これ…!?」


驚いた、というレベルではない。驚愕だ。さっきまで目の前にあった大弓の石像。手を触れ、強く発光した大弓。それが目の前にあるのは変わらない……けれど先程とは全く『材質が異なっている』。

石で作られていた筈の柄も切れてしまいそうな弦も……今、目の前にあるのは石で作られたものではなく、全て半透明の美しい一本の弓に変わっていた。

ガラス細工の様な柄にはいくつもの複雑な模様が描かれていて、天から降り注ぐ陽の光が半透明の柄を通して光り輝いている。

……美しさでこんなに言葉を失うなんて……初めてだ。一つの芸術作品に見惚れてしまう様な、いつまでも眺めていていたい様な……そんな気持ちにさせられてしまう程、目の前にある大弓は綺麗だった。

それはどうやら隣にいるジークも同じらしく、口を半開きにしながら目の前にある大弓を茫然と眺めていた。


「…こんな奇跡、ある事なのか……しかも、なんだこれ……風の魔力が溢れて、流れてる。穢れのない、綺麗で、透き通った風の魔力だ…。」

「風の魔力?」

「あぁ。この一本の、こんな細い柄や弦から、ありえない程の風の魔力が流れてくる。何も穢れてない、俺が今まで感じた一番綺麗な風の魔力だ。……これが、勇者の力ってやつなのか。」


大弓を見上げながら話すジーク。魔力を感じられない私には分からないけど、感じる事の出来るジークがここまで言うのだから相当凄いものなのだろう。この、目の前にある大弓は……、


「…マツリ、持ってみたらどうだ?」

「え、私が?」

「お前以外に誰がいるんだ。それは、お前の物だぞ。マツリ。」

「………分かった。持ってみる。」


ジークに促され大弓に手を伸ばす。恐る恐る伸ばし、指先が細い大弓の柄に触れた。……ガラスに似た様な感触だ。

…これが、勇者の力。風の遺跡に眠る、勇者が残した……魔王を封印する為の力。

生唾を飲み込み、緊張しながらも細い柄を今度は掴んだ。そしてそのまま地面から引き抜く様に上へと力を向けると簡単に大弓は石台から抜けた。…ていうか、コレ……!


「め、めちゃくちゃ軽…!!」

「そうなのか?」

「羽根を持ってみるみたいな……全然重さを感じない!…ジークも持ってみる?」


見た目に反してあまりにも軽い大弓に若干興奮しながらジークに問いかけるとジークは興味があるのか頷いた。持っていた大弓を慎重にジークに渡すとジークもその羽根の様な軽さに驚いたのか目を見開いた。


「これは……凄いな。本当に重さを感じないじゃないか!…このまま矢を放てば壊れそうな…それ位軽いな。」


そう言いながらジークは大弓を構え、矢はないけれど弦を引き、放つ様に弦から指を話した。ピンと張り詰めた弦がジークの指から離れた瞬間、弾ける様に震えた。その一つ一つの動作が綺麗で、美しく見えたのはきっと大弓が綺麗だからだろう。


「様になってるね。」

「ま、弓使いですからね。…でもこんなに大きな弓は普段使わないな。普通の大弓は威力は強いが、重いし、大きくて的になりやすい。まぁ、そういうのを考えれば…これは弱点ないな。軽いし、半透明で景色に溶け込みやすい。流石としか言えん。」

「ジークがそこまで言うなら本当に凄いんだね。……ねぇ、ジーク。これが遺跡に眠っていた勇者の力っていうやつなら……出来るんじゃないかな。」

「……『風神様』を倒すっていうやつか。」


言わなくても分かっていたのか神妙な面持ちで言葉を切り出したジークに私は同意する様に頷いた。

私とリリィ、そしてクロトがこの遺跡に来た目的は『風の遺跡に眠る勇者の力』を手に入れる事。これは今、達成された。

そしてジークの目的は『風神様』をどうにかする事。倒すなり、遺跡を壊すなりにして『風神様』という存在を失くす事。そうすればピネーで行われている『儀式』がなくなり、次の『生贄』であるシフォンが助かる。

『風神様』を純粋に倒す事は実力のない私達には出来ない。それはここに来るまでに証明された。…けれど、今は違う。今、私達の手元にはこの『風の大弓』がある。

どんな威力か、どんな力があるのか……使っていないから分からないけれど、もしかしたら……あの『風神様』を倒す事が出来る事が出来るかもしれない。

この大弓を使えば…それが出来るかもしれない。………その為には、


「ジーク、お願いがあるの。」

「なんだ?」

「……この大弓を使って『風神様』を倒して欲しいの。」

「!……俺が…?…でもこれはマツリの力であって、マツリの物だ。俺なんかが…、」

「確かに勇者の力で目覚めさせたものだよ?けど、私は弓は使えない。使った事もないし、敵を倒す程の力もない。けどジークは違う。この大きな弓を正確に構えられるし、使えるでしょ?」

「それは……そうだが、」

「それに私はジークに使ってほしい。『そうしなきゃいけない』気がする。だから……使って、ジーク。」

「………マツリ。………本当に、いいのか?」

「うん。」

「俺がこのまま弓を持って、シフォンと一緒に逃げるかもしれないぞ。それでもか?」

「ジークはそんな事しないよ。分かるよ、それ位。」


何を根拠に言ってるか分からない。けど、それでも分かる。ジークは大弓を盗む真似も逃げもしない。それだけは感覚的にだけど、分かる。

私の言葉にジークは一瞬考えこむ様に黙ったが、それはすぐに浮かび上がった笑みと共に終わった。


「………分かった。勇者であるマツリの頼みだ。有難く使わせてもらう。」

「ジーク!」

「だが、いくつか欠点がある。」

「欠点?」

「あぁ。一つ、矢がない事。……これを見てくれ。」


そう言いながらジークは背負っていた矢が入っている筒を下ろしては逆さにし、中に入っていた物を地面へと落とした。

その中から出てきたのは何本も折れた矢と折れてはいないけれどヒビが入り、触れれば折れてしまう矢だった。


「マツリと最奥の扉に飛び込む時、その衝撃で矢がダメになった。ついでに言うと俺の弓も衝撃で使い物にならなくなった。…まぁ、使えたとしてもこれだけ大きい弓だと矢の長さが足りない。」

「そ、そんな……、」

「二つ、『風神様』にどこまで通用するのか。この大弓が強い風の魔力を含んでいるのは分かる。だが、それは『風神様』も同じ。同じ属性だと威力も弱まる。それに加えて相手は上級魔法を使ってくるし、制限があるとはいえ動き回る。おまけに装甲も固い。矢が通るかどうか…、」

「………、」

「弱点とかあればいいんだがな……でも、その前にまず矢をどうにかしないと、どうにもならん。せっかくここまで来たのに……、」

「…そんな……、」


ここまで、ここまで来て……行き詰まるの?決死の思いで最奥の扉を抜けて、やっとの思いで大弓を手に入れたのに……矢がないと倒せない。

矢を準備しないと…いや、矢をどうにかしないと私達は『風神様』を倒す事が出来ない。…ここまで来たのに……、

一旦帰る?いや、ピネーに戻れば私達は遺跡に戻る理由がない。戻ろうとすればピネーの人達に問われる筈。入口近くにる三人に矢を確保してもらう?いや…それでも『風神様』を切り抜けて私達に届ける事が出来るものなの?

それはまた、逆も然り。私達二人で『風神様』の前を通り抜ける事は難しい。……今しか、倒すチャンスはない。

でも、矢がない。矢がなければ、倒す事が出来ない。矢を、どうにかしない…と………、


「…矢をどうにか、して……準備すれば、いい?」

「え?」

「…………あの時と似てる。クロトの時と…、」

「クロト?…って、おい!何してるんだ!」


ジークの制止を無視して私は地面に落ちている折れた矢を手にする。…そうだ、どうにかしなきゃいけない場面は今までにあった。そう、あれは……クロトの時だ。

クロトが魔物の毒で身動きが取れず、魔物がすぐ近くにいて絶体絶命のピンチになった時……どうにかしなきゃいけないと私はあの時、偶然にも『合成』で作っていた『エレクシール』を使った。

今回だって、あの時と似ている。どうにかしなきゃいけない、そして切り抜ける方法もまだ、ある…!

私は手にした折れた矢を地面に真っ直ぐに並ばせながらジークに問いかけた。


「ジーク、大弓で使う為に必要な矢の長さってどれぐらい?普通の矢の何本分位?」

「え?あ、あぁ…そうだな……。」


何を考えてるのか分からないと言いたげな表情を浮かべながらジークは並べられた矢を手にしながら並べ直した。


「ここまではいらない。……いるとしたら、これ位だな。」


折れた矢を並べ直し、大弓で使える矢の長さがこれで判明した。後は…、


「他に何かいるものある?これだけで矢は作れると思う?」

「作れるって……一体何を…、」

「『合成』、してみようと思う。長さからして一本しか作れないと思うし、矢を合成するなんて初めてだけど……やってみようと思うの。」


そう、私にはまだ勇者だけじゃなくて、商人としての力もある。攻撃は『風神様』にはレベルが低すぎて

効かないけど、『合成』で矢を作り出る事は出来るかもしれない。

私の発言にジークは一瞬驚いた表情を浮かべたがすぐに納得した様に真顔になった。


「…そうか、マツリは商人だったな。……必要なものか…、」

「弓を使った事がないって言ったでしょ?こういうのは本職の人に聞いた方がいいかなって……、」

「……矢羽だな。」

「矢羽?」

「俺の持っていた矢にも羽根がついていただろ?あれが『矢羽』だ。あれがないと矢は真っ直ぐ飛ばないんだ。…俺が持っている矢の羽根もボロボロで使い物にならないからな…、」


そう言いながらジークは折れている矢の残骸に視線を落とした。確かにジークの言う通り持っていた矢には羽根がついている。けれどどれもボロボロになっていて矢羽としての機能は果たせなさそうだ。

…流石に羽根は『合成』でも用意出来ないだろう。何せ元となる材料がないのだ。代わりとなる羽根があれば代用出来ると思うけど……、


『進む前に…マツリ、』

『え、な、何?』

『……今から神聖な場所に行くんだ。ソレ、払ってからの方がいいんじゃないか?』

『ソレ?……な、何これ!?』


「あ……あるじゃん。羽根…。」

「え?」

「あるじゃん!…ちょっと待ってて!取りに行ってくる!!」

「ハ!?と、取りに行くって何を……、」

「羽根だよ!羽根!!」


そうだ、思い出した。ていうか矢羽に使える羽根、あるじゃないか!なんて奇跡的なんだろう!!

思い出した興奮を抱きながら私はジークの制止を無視して、来た道を足早に戻った。矢羽に使える羽根を求めて。









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