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勇者は、後のマツリ!  作者: くるす
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第十話‐②




狭く、薄暗い道をジークを先頭に歩いていく。曲がり角もなく、ただ前へと伸びた道はすぐに行き止まりに辿り着いた。しばらく歩くと伸びていた道は石造りの壁によって途切れており、辺りを見渡しても他に道らしい道はない。

視界いっぱいに広がる石造りの壁を私とジークは並んで見上げた。


「行き止まり…?」

「いや…これは、扉だな。」

「扉?」

「ほら、ここに切り込みがあるだろ?多分、ここに入る時と同じものだろう。」

「あ、確かに…、」


石造りの壁をジークが撫でる様に触れる。触れた先は確かに直線的に伸びた切り込みがあり、それは長方形の形が作られている。人一人が通れる程の大きさだ。…確かに、ここに入る時と同じ様な形状の扉だ。


「…でも、ここは開いてないんだね。」

「そうだな。…恐らくだが、勇者以外の奴を通らせない為の遺跡の防衛機能みたいなものだろう。……うーん、何か扉を開く仕掛けもなさそうだ。」


ペタペタと扉に触れながら辺りを見渡すジーク。私も同じ様に辺りを見渡すが、これといって特別変わった事はない。全く変わらない石造りの景色だ。


「ここまで来たのに……扉が開いてないなんて……、」

「…いや、待てマツリ。……何か、ここ、あるぞ。」

「え?」


ジークの言葉に促され視線を石造りの天井からジークに移す。するとジークは何か発見したのだろうか扉の前に膝をつきながら扉に手を触れていた。

立っていると見えない……私はジークと同じ様に扉の前に膝をつくと、ジークが触れている箇所に目を向けた。


「これは……文字?」


触れた箇所、年季が入っているせいか所々掠れている所もあるけれど……そこには小さく文字が彫られていた。

勿論だが彫られている文字は私の知る日本語でもなければ、英語でもない。この世界の文字である事は間違いない……けれど、少し形が違う気がする。こんな感じだっただろうか…少し違和感を覚える。

……でも、まぁ……書けるかと言われたら字を覚えてないから書けないけれど、読めるか読めないかと問われれば『読める』し、不思議な程『理解出来る』。


「えっと……『世界に選ばれし者のみが許される神秘の間。その手で触れ、開放せよ』。」

「!?…マ、マツリ、これが読めるのか!?」

「え?あぁ、うん。なんでか分からないけど、この世界の文字は読めるんだよね……書く事は出来ないけど。」

「……驚いた。いや、マツリが別の世界の人間で、その人間がこの世界の字を理解するのも驚く所だが……まさか『古代文字』も理解出来るとは…、」

「『古代文字』?」


新しい言葉に私は首を傾げるとジークは神妙な顔つきで話し始めた。


「ここに使われいる文字は『古代文字』と呼ばれていて、その名の通り遥か昔に使われていた文字だ。知識ある者なら理解出来るかもしれないが、普通に暮らしていたら理解する事も解読する事も出来ない代物だ。」

「それは…ジークも読めないという事?」

「当たり前だ。読書好きなシフォンなら兎も角、俺みたいな狩りしかした事がない奴が解読する事なんて出来る訳ない。…だから驚いてるんだ。異世界から来たマツリが一瞬で読めてるんだからな。」

「………、」


字が読めるのは助かるし、生活する上では楽だから深く追求しようとは思わなかったけど……まさか、ここまで驚かれる事とは思わなかった。

しかもここに書かれてあるのが遥か昔に使われていた文字……そんな誰も理解出来ない様な文字も理解出来るなんて自分は凄いと思う、と同時に底知れぬ不気味さを感じる。

一体何故一瞬でこの世界の文字を読めるのか、理解出来るのか……正解が分からない。


「……ま、そんな顔するな。おかげでこの扉が開く方法が分かったじゃないか。扉が開かなきゃ、どん詰まりだから。」

「扉が開く方法、分かったの?」

「ん?自分で言ってたじゃないか。『世界に選ばれし者のみ許される神秘の間。その手で触れ、開放せよ』…だったか。世界に選ばれし者っていうのは勇者、マツリの事だろ?その手で触れ、開放せよっていうのは言葉のままだ。マツリ、扉に触れるんだ。それできっと開く筈だ。」

「……ほ、本当かな。そんな簡単に開くものなのかな…。」

「そう不安がるなって。さぁ、マツリ。」

「………分かった。やってみる。」


ジークに促され、私は扉を正面に立つ。…本当に触れただけで開くものなのだろうか。不安がないかと問われたら、ある。けど、何もしないより何か行動した方がいいのも分かる。

すぅ、と息を吸い、ゆっくりと吐き出す。深呼吸をしたおかげか身体の中に芯が通った様な覚悟が出来た。……よし、やろう。

腕を伸ばし、ゆっくりと手をかざす。そして、石造りの扉に……触れた。


ガゴンッ!!……ガガガガガガガ……、


「!!…と、扉が……!」

「あぁ…開いたな。」


何か枷が外れた様に、触れた瞬間石造りの扉が音を立てながら横へと動き始めた。前回開かれてから時が経っているせいだろうか開く動作は遅いものの、着実に少しずつ扉が開いていく。

ガタン、と最後に一際大きな音を響かせると扉の動きは止まった。…どうやら開き切った様だ。


「この先が勇者の力が眠っている場所……、」

「だな。……行こう、マツリ。」


ジークの言葉に私は頷く。扉の先に広がる空間の只ならぬ空気に緊張しながらも私とジークは同時に、その空間へと足を踏み入れた。







●●●






「………、」


扉の先に足を踏み入れた瞬間、私は立ち止まってしまった。

空間は広いと言わないが、狭い訳でもない。内装の造りも道中と変わらず、壁も地面も全て石造りだ。強いて言うなら『風神様』がいた空間同様、天井が吹き抜けている所が特徴的だろうか。

薄暗い空間を天井から入る陽射しで照らされ、仄かに明るい。まるで雲の間から入る陽射しの様で……神秘的で、綺麗だ。

けれど、それ以上に驚いたのは……、


「……気持ちいい。」


この空間に入った瞬間に感じた、澄み渡る様な空気。鼻から入る空気も清々しく、全身で回っているのが自分自身で分かる。頭がすっきりするし、目も開けやすい。全身に感じていた緊張感とか疲労感とか…そういったものが全て抜け落ちていく。

まるで浄化された様な……そんな感じだ。

吹き抜けから入る風も冷たい様で温かい。身体を撫でる様に優しくて、気持ちいい。


「…こんな素敵な場所が、この遺跡の中にあったなんて……、」

「………、」

「ジーク?…どうしたの?ボーっとして……、」

「え?あ、あぁ……本当、マツリの言う通りだなって思って……。…遺跡は神聖な場所だって聞いてたし、『風神様』がいた場所が正にその通りだと思っていたんだが……そうじゃなかったんだな。」


そう呟いて静かにジークは天を見上げた。緩やかな風と共に温かな陽射しが降り注ぐ、その場所を見つめては噛みしめる様に瞼を閉じた。


「ここの空気は……風の魔力は、穢れも何もない。こんな風、生まれて初めて感じた。」

「ジーク…。」

「……もっとここの風を感じていたい所だが、そうゆっくりもしてられないな。勇者の力っていう奴を探さないと。」

「…そうだね。…って、言ってもそれらしい物は……あ、」


私に視線を戻したジークの言葉に頷き、辺りを見渡す。石造りの壁、石畳の地面。遺跡の中にいればどこでも見る光景だったが……一つだけ、見慣れない物が空間の中心に存在していた。

私の言葉と視線に気づいたのかジークも同じ様に『ソレ』に視線を向けた。もっと詳しく見たくなった私とジークは互いに『ソレ』に近づき、見上げた。


「これは……石像、だよね。」

「あぁ。しかも……これまた馬鹿でかい『大弓』だな。」


鎮座する様に佇む弓の石像にジークは見上げながらハハハと軽く笑った。

私の肩幅位の石台の上に、天へと向けられた大きな弓…の石像。細く、高く伸びた柄の部分も触れれば切れてしまい様な弦も……全て石で作られている。遠目から見たら本物の弓と間違えかねない。

こんな精巧な物を石で作り出すなんて……凄い技術だ。…ていうか出来るものなのかと疑ってしまう程、精巧だ。


「本物みたいだね…。」

「あぁ。…いや、もしかしたら本物かもしれないな。」

「え、それって…どういう意味?」

「ここ、見てみろよ。」


私を促しながらジークは石台に指をさした。視線を追うとそこには文字……古代文字らしき文字が並んでいた。


「『全ての風の力、ここに眠られたし。世界が求めし時、応えるであろう。』……これって…、」

「勇者の力…かどうかは分からんが、この部屋にはコレ以外変わった物はないし、古代文字も書いてあるしな。……全ての風の力、か。どんなものだろうな、マツリ。」

「分かる訳ないでしょ、私が。」

「そうだな。マツリは人間で、商人で…勇者だからな。これから知ればいい。……方法は書いていないが、扉と同様触れてみたらどうだ?」

「簡単に言うね。…まぁ、やるけど。」


目の前にある大きな弓…ジークは『大弓』って言ってたっけ。今は石で作られた存在だけど……触れて何か変わるのだろうか。

いや、変わる。変わってほしい。私が世界に求められているかどうか本当の意味ではまだ、分かっていない。けど……これがあればきっと、助けられる。

犠牲になろうとしているシフォンを家族を守ろうとしているジークを……解放を願っているシーナさんを……!

……あれ?解放って……………なんだったっけ…?


ピカッ、


「!!」


指先が大弓に触れた瞬間、大弓が突然光り出した。

眩しい程の発光に私は思わず身を捩りながら目を細めた。近くにいたジークも同じ様に目を細めながら手で目元を覆いつくした。

白く光り続ける大弓。耳元ではビュウビュウ、と風が通り抜ける音が響いていて、足元を風が通り抜けているのを感じた。これは……発光する大弓に風が集まっている…!?


ー……!!


「ッ!」


一際更に、光が増した。細めていた目も堪えられず、私は瞼を強く閉じた。






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