第十話
「…リ、…ツリ、」
「………、」
「…リ!起きろ!マツリ!!」
「!?!」
耳元で叫ばれ、一気に意識が覚醒された私は閉じていた瞼を勢いよく開けた。開けた先は見慣れない石造りの天井が広がっていて、少し薄暗い。
ここは……どこ?そう思った矢先、視界の隅からジークが安堵の表情を浮かべながら現れた。
「ハァ…良かった。無事みたいだな。……痛い所とかはないか?」
「…う、ん。怪我とかは…ないかな。」
「そうか。…起きれるか?」
ホッと安心した様に息をついたジークはそのまま倒れている私に手を差し出してきた。私はその手を遠慮せずに取るとそのままジークに引き上げられる様にして起き上がった。
起き上がった瞬間、ひゅうと身体全体に冷たい風が吹き抜け身震いした。反射的に風が吹いた方に視線を向けるとその先には開かれた入り口があり、更にその向こうには鎖に繋がれた巨大な生物が存在していた。
ピギャアアアアア!!
「『風神様』…。……あれ?」
「どうした?マツリ。」
「………私…あの時…『風神様』の攻撃を受けた様な気がしたけど……気のせい?」
そう、私の意識が失う前……私は『風神様』の上級魔法と呼ばれる攻撃を受けた筈だ。いや、正確には攻撃の余波を受けて、そのまま吹き飛ばされた様な……、
けど今の私は吹き飛ばされたにも関わらず怪我一つしていなければ、こんな小部屋にも入った記憶もない。ていうか、そもそもここはどこ…?
ぐるぐるとする思考に頭を悩ませていると「ハハハ」とジークの方から笑い声がした。
「本当…マツリは分かりやすい顔をしているな。」
「…それは…どうもすみませんねぇ。」
「いやいや…前にも言ったかもしれないが馬鹿にしている訳じゃないんだ。むしろ分かりやすいというのは良い事だぞ。……ちゃんと分かりやすく、俺が説明してやるよ。」
ニッと笑みを浮かべるジークにそれ以上何も言えず、私は押し黙る。言い返すより先にいち早く、ここがどこなのか、どういう状況なのか聞きたいからだ。
「…まぁ、まず、ここがどこなのか……結論から言うとな、ここは俺達が目指していた場所……最奥の扉、その向こう側だ。」
「………え、」
「つまり今、シフォン達がいる通路の対面側に俺達はいる、という訳だ。」
「う、嘘。冗談じゃなくて?」
「冗談なものか。冗談だったら俺が怒るぞ。」
肩をすかしながらジークは言う。そんなジークの発言に私は辺りを見渡す。……石造りの天井、凸凹とした石畳の地面。その地面は先まで続いているが、薄暗いせいか先が見えない。
…ここが最奥の扉の向こう側…?けどこの景色は遺跡に入ってからと変わらない、私達が『風神様』のいる場所までに通った場所みたいだ。けど…通路にいる筈のリリィやシフォンの姿はない。
「…本当に、ここが……でも、どうやって?入った記憶ないんだけど…、」
「まぁ、その時は気を失っていたからな。俺も曖昧だ。だが、俺達がここにいるっていう事は作戦が成功したって事だ。」
「作戦…あ、ジークが考えた作戦ってやつか。」
「そうそう。マツリも感じただろ?『飛ぶ』ってやつ。」
ジークの言葉に私は『飛ぶ』という感覚を思い出した。そうだ、『風神様』の上級魔法を受ける正にその瞬間、全身に優しい風が通り抜けて、浮いた。そのおかげで真正面から攻撃を避ける事が出来た。
…でも、あの風って…一体なんだったんだろう。ふと思った疑問に私はジークに投げ掛けようとするもジークが先に口を開いた。
「あの時、シフォンに魔法を放つ様に言ったんだ。」
「シフォンに?」
「あぁ。『共鳴』を使ってな『風神様』が攻撃する正にその瞬間、俺達を風で飛ばしてくれって頼んだんだ。そのおかげで攻撃の軌道から逸れて、更には奴の攻撃の衝撃波でジャスト!ここ、最奥の扉まで吹き飛ばされたっていう訳だ。」
「最奥の扉に吹き飛ばされたって…ま、まさか攻撃の余波でここに飛ばされる事を計算してたの!?」
「勿論。…と、言ってもほぼ運任せだったけどな。一歩間違えれば壁に激突、怪我どころじゃ済まなかった筈だ。そこはまぁ、マツリの運のおかげだな。」
「………、」
言葉が出なかった。圧巻されたというのだろうか。ジークは得意気に話しているけれど、これがどれほど凄い事か……。
あの『風神様』の上級魔法を受けるという状況、危機的状況で冷静に作戦を考えて……それを実行した。攻撃を受ける軌道をシフォンの魔法で逸らし、更には攻撃の衝撃波で吹き飛ぶ事を想定した上でそれを利用して先にある最奥の扉にたどり着ける様にした。
…確かに一歩間違えれば壁に激突して怪我どころではなかっただろう。けど、実際は成功した。私達は最奥の扉に辿り着いた。怪我もなく、こうして目的の場所に辿り着いた。
……こんな凄い事がある?運が良いという話じゃない。これはもう……あれだよ。
「……奇跡みたい。」
「おいおい、感動し過ぎだろ。」
「感動もするよ!だってあの時、本当に死ぬかと思ったもの!でも……こうして辿り着けた。……ありがとう、ジーク。ジークの考えた作戦のおかげだよ。」
「……礼を言われるのはまだ早いぞ、マツリ。俺達の役目は、この先にあるんだからな。」
ひゅう、と吹き抜ける風。先程感じた冷たい風と違い、爽やかな風が通路の先から吹き抜ける。…そうだ、まだ道が続いてるんだ。
「奴…『風神様』は鎖のせいで向こうの通路同様、攻撃は届かない。さっきみたいな上級魔法も恐らく、ここにいれば回避出来るだろう。」
「え、そうなの?」
「あぁ。…流石、風の遺跡と言われているだけあって造りが異常だな。あの上級魔法を受けても目立った破壊がない。普通、あんなものを受けたら崩れ落ちるものなのにな…それもない。」
「…確かに……遺跡は崩れてないね。」
「マツリが目覚める前に無事辿り着いた事を報告がてらシフォン達に状況を聞いたが…ここと同じで目立った損傷はなかったみたいだ。クロトもピンピンしてるってよ。」
「…そう、良かった…。」
クロト、無事だったんだ。いや、無事だったのは知っていたけど……大きな怪我等してないみたいで安心した。リリィやシフォンも無事みたいだし……一先ず、安心だ。
「……この先に、勇者の力が眠ってるんだね。」
「あぁ。ここからは俺とマツリだけで進むぞ。」
先に通ずる道。薄暗い先は何も見えないけれど風が通っているのは肌で感じ取る事が出来る。……この先に行けば…勇者の力が手に入る。
ゴクリと生唾を飲み込む。そして進む為に一歩、前へと足を踏み出した所で「あ、」と隣に立つジークから声がした。
「進む前に…マツリ、」
「え、な、何?」
「……今から神聖な場所に行くんだ。ソレ、払ってからの方がいいんじゃないか?」
「ソレ?……な、何これ!?」
ソレ、と指さされた先…私の身体、というより服には大量の大きな羽根がいくつも張り付ていて驚いた。恐らく羽根の持ち主は『風神様』で、吹き飛ばされた時に張り付いたのだろう。
大きな羽根が何枚も張り付いているせいか、羽根の衣装みたいだ。まるで鳥人間……。
「あ~!もう!」
面白そうに笑いを堪えるジークを無視して私は服に張り付いた羽根を手で払った。服に張り付いていた羽根がひらりひらりと地面に全て落ちたのを確認すると私は改めて前を向いた。
「…よし!行こう!」
「おう、行こうぜ。」
この先にある勇者の力を手に入れる…!
私とジークは再び、前へと足を踏み出した。




