第二話‐①
「う…、」
出口から外に出た。真上にある太陽の眩しい日差しが容赦なく襲い掛かり、思わず目を細めてしまう。
対して隣に立つリリィは気持ちよさげに大きく伸びをした。
「んー!ハァ…やっぱり陰湿な遺跡の中より外の空気の方が気持ちいいわ~。」
「遺跡?」
「そ。さっきまでいた場所。ほら、見てごらんなさいな。」
「うわぁ……凄い…、」
リリィに促され私は振り返る。すると視線の先にはテレビでしか見た事がない様な立派な石造りの建物が聳え立っていた。
洞窟かと思ったけど……こうやって見てみると確かに遺跡だ。
「…周りも森だらけ…。」
遺跡から今度は辺りを見渡す。見渡す限りあるのは生い茂る木々…森だ。遺跡と呼ばれる場所以外建物らしい建物は見当たらない。
勿論私の知るスーパーもコンクリートの道も電柱も車も……何もない。どこの田舎なのかと言われてもおかしくない程の自然が広がっている。
「…本当、ここってどこなの…。」
「なぁ~にぶつくさ言ってんのよ。ほら、さっさと行くわよ。」
「行くって…言ってた村に行くの?ていうか本当にあるの…?」
「あるわよ。何、私の言う事を信じられないの?」
「そ、それは…、」
「…この先にあるのは小さな村で宿屋もあるの。今日はそこで休みましょう。」
「宿屋…。」
「勿論、マツリが知りたい事も全部教えるわよ。…そうね、とりあえず歩きながら、ざっくりと話しましょうか。」
そう言いながらリリィは歩き始める。先を歩き始めるリリィの背中を私は慌てて追いかけ、隣に並んだ。
「薄々気付いているかもしれないけど、単刀直入に言ってここはマツリの知る世界じゃないわ。」
「…本当に単刀直入だね。」
「あら、遠回しに言った方が好み?」
「いや…逆に紛らわしくなるからいい。…えっと、ここが私の知る世界じゃなかったらどこな訳?」
「驚かないのね。」
「驚いてるよ。驚いてるし、これが悪趣味な夢じゃなくて現実だって事も……分かってる。」
分かってるからこそ詳しく知りたいのだ。ここがどこなのか、何故私がここにいるのか、元の場所に帰れるのか……、
ていうかさっきの生き物は何なのか、私がさっきいた場所が遺跡ってどういう事!?魔物狩りとか何!?…と考えだすと気になる事があり過ぎて頭が追い付かない。追いつけないからこそ、どれから質問すればいいか分からない状態だ。
「ふぅん…まぁ、それなら話が早いわね。ここはマツリのいる世界とはまた別の世界。千年ぶりに危機を迎えている世界。」
「千年ぶりの…危機?」
「そうよ。詳しい事は長くなるから省くとして……マツリ、貴方が呼ばれた理由は簡単な話よ。貴方は…千年ぶりに訪れている危機を救う、救世主だからなの。」
「はい?」
危機を救う救世主?…言ってる意味が分からない。
?マークが頭上でぐるぐると回る私を他所にリリィは動かしていた足を止めた。私も反射的に足を止め、リリィに視線を向けた。
リリィは私の顔を見つめると優しく、微笑んだ。
「貴方が世界を救う勇者として、私が直々に召喚したのよ。マツリ。」
「……勇者…?」
勇者…っていうのはゲームや小学校の時に読んだファンタジー系の小説で出てくる物語の主人公にしてヒーローの事か。
確かに私の知る勇者というのは悪を倒して世界を救うのが定番だけど……リリィはそれを私だと言っているのか。
何の取り柄もない、能力もない、個性もない私に言っているのか……意味が分からないさ過ぎて、どうリアクションしていいか分からない。
「勇者…っていうのはとりあえず混乱するから置いておいて…、」
「そこは置いておくのね。」
「何故私が呼ばれたのか聞きたい。だって勇者なんてヒーロー的存在、平凡が取り柄みたいな私に合う訳ないし、有り得ない。それに…リリィが召喚したってどういう事?」
「どういう事も何も…そのままの意味なんだけど。」
そうして再び歩き始めるリリィ。そんなリリィに私も隣に並びながら歩き始める。
「私の家系は元々勇者を召喚させる事が出来る唯一の家系でね、魔術師レベル99の経験値と魔力を代償に勇者を召喚する事が出来るの。今回も私の経験値と魔力を代償にマツリが召喚されたっていう訳。」
「経験値と魔力で…私が……。で、でも、なんで私なの?」
「それは分からないわ。私が貴方がいいって選んだ訳じゃないもの。まぁ、言うならばランダムね。」
「そんな簡単なものなの?勇者を召喚する際の選出…。」
「選出する基準は分からないけど、過去勇者として召喚された人は様々だったらしいわよ。文献によれば男性だったり、男性でも元料理人やその世界では名高い武将だったり、芸術家だったり……、」
「勇者って過去に存在してるの?」
「勿論。言ったでしょ?千年ぶりに危機に陥っているって。つまりは千年に一度、勇者を召喚してるっていう事よ。これも文献からだけど、召喚された勇者は皆別世界から来てるみたいね。もしかしたらマツリのいた世界の住人もいるかもしれないわ。ま、どの時代の人間か分からないけど。」
「どの時代か分からないって……過去の人間ならまだしも未来の人も呼べるものなの?…ありえなくない?」
「あら。ありえないと思うの?今現在進行形でありえない事が起こっているのに?」
「そ、れは……、」
ありえない。過去ならまだしも未来の人間を召喚するなんて……いや、ていうかそもそも召喚するというだけでもありえない事じゃないか。
リリィの言葉に返せずにいるとリリィは小さく笑みを浮かべた。
「マツリの言う『ありえない』と思える事がこの世界ではありえてしまう。これが今の現実であり、事実。今持っている概念は捨てた方がいいわ。」
「捨てるって…、」
「じゃあ受け入れなさい。受けれいて納得しないと今後やっていけなくなるわよ。マツリはこの世界を救う勇者なんだから。」
「………。」
受け入れるって言われても……、
只でさえ別世界にいるっていう事だけでも非現実的でお腹一杯な案件なのに、その上に勇者と言う新ワード……これ以上どう受け入れろというのだ。
それだけじゃない。勇者という存在に対する世界の危機的なものって何?どうしたら勇者がそれらを倒して世界を救うというの?方法があったとしてもそれを私が出来るの?
ていうか帰る方法はあるの?元の世界に帰れる方法が……あ、ダメだ。また考え込んでしまった。
本当…これが只の悪い夢だったらいいのに……。
「あ、見えてきたわ。ほら、マツリ。村が見えてきたわよ。」
「え?……あ、」
リリィの言葉に私は下がりかけていた視線を前に向けた。確かに…森の開けた先に小さくだけど屋根らしき建物がいくつか見える。
「さぁ、目的の場所まで後少しよ!行くわよ、マツリ!」
「あ、ちょ、ちょっと待って…!」




