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勇者は、後のマツリ!  作者: くるす
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第八話‐③



ー…風の遺跡は私が生まれるずっと前から存在していました。先代、先々代、それよりも前から存在していて、何百年という昔から存在しているらしいです。らしいというのは私も話でしか聞いた事がないという意味で明確にいつから存在するのかは私もよく分かっていません。恐らくそれは今、谷に住む皆も同じでしょう。

風の遺跡は伝承にある勇者の力が封じ込められている場所で高い風属性の魔力を放出している……風と共に生きる私達にとって神聖な場所。そして私達ピネーに住む者は風の遺跡を守る『守護者』として生活をしていました。

産まれた時から風の遺跡がいかに神聖で大事なものであるか言われ続けていました。だからこそ風の遺跡を守る者としての誇りもありましたし、苦だとも思いませんでした。『風神様』がいるから私達は生活をする事が出来る、そう信じていました。

『風神様』は皆さんが御覧になった大きな生物です。なんでも遺跡が作られた当初、当時の勇者が連れてきた由緒正しき神獣で特殊なまじないが施された枷と鎖で『風神様』は繋がれています。何故繋がれているのかは分かりませんが…当時の勇者とピネーの長がそうしたそうです。

『風神様』は風の神獣。その存在だけで風属性の魔力を放出する存在。普段は大人しく、大きい翼を器用に折り畳み、顔も身体に埋める様にして眠っています。


「ね、眠ってる?」

「はい。眠っている間は近づいても、触っても、決して目覚めませんし攻撃もしません。」

「え、えぇ……でも私達が会った時は……、」

「はい、起きてました。凶暴で攻撃的……普段眠っている静かな『風神様』とは程遠い姿。…けど、それも訳があるのです。」

「訳?」

「……普段眠っているといっても食べ物を全くとらないという訳ではないのです。……五十年に一度『風神様』は長い眠りから目覚める。そして目覚めた『風神様』に風の民が一人、『風神様』に捧げられるのです。」

「!?…そ、それって……、」

「…はい、リリィさんが先程話していた通りです。これが……ピネーの『儀式』です。」


『儀式』は五十年に一度、長い眠りから目覚めた『風神様』にピネーの民が一人捧げられる……言い方を変えると『生贄』を捧げるものです。遺跡と谷を守る『風神様』に敬意を表するもので、選ばれた民は『風神様』と一つになり、ピネーを守る風として栄誉ある存在になります。

言葉にすると綺麗なものかもしれませんが、やっている事は残酷です。選ばれれば命がない。勿論、反対する者もいたそうです。……ですが、拒めば『風神様』の怒りを買うらしく、一度谷に風が流れない時があったそうです。

それ以来、『儀式』は五十年に一度必ず行われていました。五十年に一度、誰かが『風神様』に捧げられていたのです。


「それが……あの女の子達だった。」

「そうです。花冠は選ばれた者を祝福する賛美の証、白い衣装というのは絹の衣装でしょう。リリィさんが言っていた通り純潔、純恋を表し穢れのない証として身に着けられるものです。」

「…それで?選ばれた条件は?あるんでしょう?」

「…はい。リリィさんの言う通り、選ばれるには条件があります。まず第一に当たり前ですが『ピネーに住んでいる事』。」


第二に『魔力の扱いがピネーで一番上手い者』。年齢は関係ありません。この二つが揃えば『風神様』に捧げられる『生贄』となります。


「あれ?女性、じゃないの?」

「魔力の扱いが長けているのがピネーでは男性より女性が多いんです。職業も男性は『弓使い』女性は『魔法使い』が殆どなので……恐らく選ばれた方々が女性だったのは偶然だったのではないでしょうか。」

「職業的素養は遺伝も関係しているというし、魔法使いが女性に偏っているピネーなら『生贄』に選ばれるのが女性っていうのは理解出来るわね。特にピネーは外部と関わりは殆どないみたいだし、外部からの素養が入ってくる事はほぼない。遺伝的要因が変わる事はないって事ね。」

「…それだけじゃないだろう。」

「クロト?」

「…何故男が外に出る許可があって、女が禁じられているか……疑問だったが、そういう事なら理解出来る。」

「そういう事って…?」

「要は、逃げられない様にしていたんだろう。『生贄』になる為に必要な奴が高い確率で女なんだ。逃げられない様に掟を作った。だからピネーに住む女は外に出る事を禁じられているんだ。」

「……そんな事って……、」

「でもクロトの言う通りね。話の辻褄が合うもの。…住んでるのに次の『生贄』として見られるのね、ここに住む女性達は……、」

「………話を戻しますね。…と言っても、ここからは私や兄さんに関わる話になるのですが……、」


五十年に一度に行われる『儀式』。『儀式』が執り行われれば目覚めた『風神様』は再び深い眠りにつき、谷に風と魔力を再び送る。『生贄』となった者の命を風に乗せて、谷を守る……。

ここから話すのはその『儀式』に関わった女性達の…いえ、マツリさんが言っていた夢に出てきた女の子の話をしましょう。夢に出て、私と兄さんと一緒にいた女の子の話です。


「結論から言います。私は、その女の子とは……深い関係にあります。…と言っても関わっていたのは十年も前ですが。」

「十年前…。」

「丁度今から十年前、五十年に一度行われる『儀式』が行われました。その『儀式』に選ばれたのがマツリさんが話した女の子。マツリさんが度々見ていた女の子の姿はきっと……『儀式』を行う女の子の記憶、なのでしょうね。」

「………。」

「十年前の『儀式』は例年通り執り行われました。女の子の命は目覚めた『風神様』に捧げられ、再び『風神様』は深い眠りについた。風と魔力が谷に流れ、送られました。……家族である、私と兄さんを残して…、」

「…え、」

「か、家族って……、」

「…女の子の名前は『シーナ』。十年前、『儀式』の『生贄』になった私達の……姉です。」






●●●



姉…『シーナ』姉さんは心優しい人でした。両親を早くに亡くしてから私達の親代わりとして育ててくれました。

だから、でしょうか……両親がいない悲しみは私にはあまり感じなく、穏やかな日々を過ごしていたと思います。心優しい姉と悪戯好きだけど頼もしい兄…大好きで大事な家族と共に過ごす時間は当時の私にとって、とても…幸せでした。

けれど…そんな穏やかな日々は続く事はなく、それは突如としてやってきました。


『……、』

『あ、お兄ちゃん、お姉ちゃん!おかえりなさ……どうしたの?泣いてるの?』

『……ッ、』

『あ、お兄ちゃん!どこいくの!?』

『シフォン。…いいの、今はそっとしてあげて。部屋から出てくる頃にはきっと…ジークも落ち着いてると思うからね。』

『そう…?』


当時の私は幼く、あの時兄さんが泣いていた意味は知りませんでしたし、知ろうともしませんでした。…今思えば、きっと兄さんは姉さんが『儀式』に選ばれた事に泣いていたんでしょう。そして泣いている所を私に悟られない様に部屋に籠ってしまった……。

その時の私は『風神様』の事をあまり知りませんでした。まだ教わり理解するには早すぎる年齢だったからでしょうね。だから『儀式』も姉さんが選ばれた『生贄』の意味も分かりませんでした。

その日からでしょうか、少しずつ何かが変わっていった様に思えました。優しい姉さんは時折悲しそうな表情を浮かべる様になり、毎日の様に悪戯をしていた兄さんは悪戯をしなくなり、谷に住む人達もいつも以上に優しく…いえ、同情の様な態度で接してきました。

何かが変わっている、それも良くない方へと向かっている……そう思ってはいても幼かった私は口にするには難しく、態度に出すにしてもどうすればいいか分からない。そういう日々が過ぎていきました。

……そして、来たる日が来たのです。


『わぁ……お姉ちゃん、綺麗~。ね、お兄ちゃん。』

『…そうだな。』

『絵本に出てくるお姫様みたい。私も着てみたいなぁ~。』

『……シフォンには別の服が似合うよ。』


用意された衣装に身を包み、列をなして谷から出ていく姉さんを遠目から眺めていた私と兄さん。何も知らない私は着飾れた姉さんの姿に喜んでいたけれど、これから起こる事を全て知っていた兄さんの顔は……絶望と悲しみで溢れていました。あの時の顔は幼い私の記憶に強く残っています。

何故そんな悲しそうな顔をするのか、何故何も言わないのか…何故兄さんが悲しい顔をしているのに谷にいる人達は笑顔で姉さんを見送っているのか……全く分かりませんでした。

そして、その日……姉さんは帰ってきませんでした。

当然ですよね。姉さんは『風神様』に捧げられる『生贄』に選ばれたのですから。帰ってくる事はありません。

私は何度も兄さんに問いました。「姉さんはどこか」と何度も兄さんに問いました。けれど兄さんは今にも泣き出しそうになりながら笑顔でこう言うのです。


『姉さんは……風になったんだよ。』


その時の私はそれを全て理解する事は出来ませんでした。ただ…そう、どこか遠くに行っているのかと思ったのです。どこか遠くに、旅に行ってるものと思ったんです。

だっていなくなるにはあまりにも突然で、姉さんと関わっていた人達は普通だったから……まさか『生贄』になってもう、戻ってくる事はないとは思えないじゃないですか。

もしかしたら小さな私に見せない様に態度を出さなかっただけかもしれません。けれど、それでも……戻ってきて来ると、いつか帰ってくると思ってしまうじゃないですか。

…けど現実は残酷なもので……姉さんは帰ってくる事はなく、『儀式』の本当の意味を知った私は無知が故の愚かさに後悔しました。姉さんが行ってしまう日に私はなんて、無神経な事を言ってしまったんだろうか。姉さんや兄さんに気を遣わせてしまった事も後悔し、あの時に戻れたらと今でも悲しくなります。

けれど……時は戻りません。姉さんが『生贄』になる事でピネーの平和が守られた。風が流れる様になった。姉さんが命懸けで守ったピネーの平和と秩序を胸に過ごそう、それが私に出来る事……だと思っていました。


「思っていた?」

「…はい。少し前までは…思っていました。けど、マツリさんの話を聞いて……マツリさんが遺跡で倒れた時を思うとそう思うのはダメだと思いました。」

「私が倒れた時…、」

「はい。…きっと姉さんは覚悟を持って、ピネーの為に犠牲になった。けど、それでも姉さんは今の私より年下の女の子。一人であの『風神様』を相手にして、恐怖を感じない訳ない。恐怖どころか絶望すら思うでしょう。それに……あの時、マツリさんはひたすらに「痛い」と泣いていた。…きっと姉さんや今まで『生贄』になっていた人達が感じた、痛みなんです。」

「……。」

「誰も助けてくれない、自分を犠牲にしなくてはならない…そんな絶望的な状況で感じる痛みは一体、どれほどのものなのでしょうか。きっと…それは私の考えを遥かに超える痛みに違いありません。彼女達はそんな痛み、悲しみ、苦しみを感じながら…死んだのです。そんな彼女達を他所に生きている私は…なんて、愚かなんだろう…そう、思いました。」

「そんな事…、」

「姉さんは…痛がっていた。一人で、誰にも助けてもらえず、絶え間ない痛みと恐怖で……それをマツリさん越しに見て、私は……本当、なんて事を…してしまったんだろう……、」

「シフォン…。」

「私は謝りたい……『生贄』になった人達の思いを全て見て、感じたマツリさんにも…ずっと苦しんでいた姉さんにも謝りたい…謝って済む話ではない事は分かってます。けど、それでも…私は謝りたい。……姉さん……。」









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