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勇者は、後のマツリ!  作者: くるす
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第八話‐②



泣き続けていたシフォンが落ち着いたのは、それからしばらく経ってからだった。

焚火を囲う様にして私とリリィが座り、その間にシフォンが行儀よく座っている。落ち着いたと言っても顔色は暗く、目は泣き腫らして真っ赤だ。

泣き疲れたのか茫然と焚火を眺めるシフォンに私とリリィは一度顔を見合わせた。そして重い沈黙が流れる中、一番最初にリリィが口を開いた。


「ねぇ、シフォン。聞いてもいいかしら。……なんでさっきマツリに謝ってたの?」

「それは……『風神様』の事を知っていたのに黙っていたから…です。」

「『風神様』……その『風神様』って何なの?ジークは風の遺跡を守る尊い存在とか何とか言ってたけど…、」

「言葉通りです。古くから……風の遺跡が存在してから現れた、谷を守る風の守り神。『風神様』がいる事で谷に風が流れ、私は生活が出来ている。そんな…尊い存在の方なのです。」

「ふーん……そんな大それた方?獣…よく分からないけど、あれがいるなら正直話してくれても良かったのに……そういう点では裏切られた感じがして少しショックだけど、それにしたってシフォンの取り乱し方はその…少し大げさじゃない?黙っていただけなんでしょ?あそこまで取り乱す事はないんじゃない?」

「………。」


リリィの言葉にシフォンは押し黙る。そんなシフォンにリリィは言葉を重ねる事なく、小さく溜め息をついて会話を終わらせた。

リリィの言っている事は……私も思っていた事だ。あの巨大生物の存在を黙っていた事を謝る…にしては大げさ、というのは失礼な言い方かもしれないけど、それだけに謝っている様に見えなかった。

それに、その事を謝るのであればリリィやクロトにも出来た筈だ。けどシフォンは私を見た瞬間、泣き出しては謝罪を繰り返した。

……やっぱり、シフォンは関係があるんだ。私が見て、感じた……あの人達の事と…。


「…本当は、ジークが戻ってから話そうと思ってたんだけど……今話そうかな。」

「話?」

「うん。さっき話途中だったでしょ?ここに来るまで夢を見てたって話。それについて話そうかと思って……。良かったらクロトも近くで聞いてくれる?暇つぶし程度でいいから。」

「………。」


離れた場所にいるクロトにダメ元で声を掛けた。するとクロトは無視する所か私の言葉通りこちらに歩いてきて、私の対面に腰を下ろした。どうやら聞いてくれるみたいだ。…と、その前に……。


「はい、クロト。マントありがとう。それと…ここまで運んでくれたんだってね。本当、ありがとう。」

「…礼を言われる事じゃない。気にするな。」


掛けてもらっていた黒いマントをクロトに渡しながら礼を言うとクロトは静かにそれを受け取った。受け取ったマントを羽織りなおしたクロトを確認してから、私は口を開いた。


「リリィには少し話したんだけどね……この遺跡に来るまで夢みたいな夢を見ていたの。」

「夢みたいな夢?」

「うん。夢から覚めた時は内容なんてほぼ覚えてなかったんだけど……今なら思い出せる。最初に見たのは……女の子に手を引かれる夢。ほら、人払いの森に入る前に夢を見たって言ってたじゃない。その時の夢。」

「人払いの森………あぁ、人払いの森を突破した時に見たっていうやつね。」


思い出したかの様にリリィが声をあげると私は頷きながら言葉を続けた。そう、あの時私は……女の子に手を引かれていた。


「小さな女の子だったの。今思えば耳が長かったからシフォン達と同じ、エルフだったのかもしれない。その女の子に手を引かれながら森を走っていた。その時迷わない様に目印を教えてもらったの。」

「目印…人払いの森を抜ける為の目印ね。その夢のおかげでピネーに入る事が出来たものね。」

「そう。…その時点で少し不思議だよね。知らない場所、知らない女の子、迷わない為の目印……それらが現実と繋がってるなんてね。」

「………。」


チラリと隣にいるシフォンに視線を向ける。反応はないけれど聞いてくれている…と思う。いや、思いたい。そう願いながら私は二度目の夢の話をし始めた。


「次に見た夢は…女の子と別れる夢。見たのは、シフォン達の家に泊まった時。」

「あの時?…もしかして魘されて私が無理やり起こした時?」

「ううん。それは三度目。その前に一度、夜中目を覚ます前に見たの。詳しい事は分からないけど私は、その女の子と別れなくちゃいけなかったの。私は凄く嫌がっていたけど、女の子は別れる事に後悔はしていなかった。」


『な、なんで……なんで姉さんなんだ……。』

『それは…私が選ばれる条件に一番合ってるからだよ。だから、泣かないで。』

『…ッ、』

『私の為に泣いてくれて、ありがとう。でもこれはとても名誉ある事なの。賢い貴方なら分かるでしょう?』

『で、でも…俺は、嫌だ。母さんや父さんだけじゃなく、姉さんまでいなくなるなんて……、』

『いなくならないわ。私はこの谷に流れる風の一部になるの。目には見えないけれど、ずっと二人の事を見守っているわ。だから、安心して。』

『姉さん…。』


「…そう、私はその人を「姉さん」って呼んでた。そして女の子は私に風の一部になるって言ってた。」

「!」

「姉さん…つまり、女の子にとってマツリは妹って事?」

「いや、自分の声は女の子というより男の子って感じだったから……弟?かなぁ…。」

「………。」


話が切れた所で隣にいるシフォンの手が小刻みに震え出した事に気付いた。心配になり顔色を伺うも表情は今だ変わりはない。…話の続きをしても……いいよね?


「それで?三度目は?」

「三度目はリリィに起こされる前に見た夢。あれは……確か、私が女の子だった夢。」

「え?マツリが?」

「うん。あれは……そう、着飾られてる夢だった。」


『まぁ、なんて綺麗なのかしら。』

『きっと風神様も喜ばれるわ。』

『…風神様……。』


「花冠を頭に乗せられて、真っ白な衣装を着せられてた。それでしばらくしたら……そう、長…パヌさんが現れたの。時間だって言われて、どこかに連れていかれて…そこで目が覚めたの。」


今思えばなんでパヌさんが出てきた事を思い出せなかったんだろう……パヌさんに会った後に見た夢だし、思い出してもいい筈なのに……。

それに、なんであの状況でパヌさんが現れたんだろう。なんで女の子をパヌさんが連れて行ったのだろうか……話をしながら疑問に思う事がいくつも出てくる。

けど…まだ話は終わりじゃない。話はまだ、続くのだから。


「それで、四度目は……、」

「ちょっと待って。まだ夢があるの?三度目が今朝目を覚ます前に見た夢でしょ?その後一睡もしていないじゃない。どうやって夢を見たのよ。」

「そう、そこなの。」

「え?」

「ここからは夢…みたいな、夢じゃない感じ。意識が持ってかれるというか……この遺跡に向かう道中、遺跡に入ってから…そして『風神様』と対面してから…私の視界が別の視界と重なるというか…なんて言ったらいいんだろう。」

「…別の意識が干渉していたのかもしれないな。」


クロトが静かに答えた。別の意識の干渉……言葉にすると有り得ない話だけど、私が感じた現象は酷く納得するものだ。

別の誰か……話の中で言う女の子の意識と私の意識が重なる…あの時感じた感覚はそういう感覚に似ている。干渉する、という言葉は合っているかもしれない。


「ここの遺跡まで見たものは全部、女の子が感じていた不安や恐怖、それに打ち勝つ覚悟と我慢…そういうのを感じた。遺跡に入る時も一人で『風神様』と会っていた。そして……、」

「そして?」

「………ッ、」


脳裏に蘇る痛々しい映像。痛みと悲しみ、裏切り、恐怖……女の子から感じためちゃくちゃな感情。思い出すだけで身が裂かれる痛みに襲われる。吐き気も感じるし、血の気が引くのも分かる。


『い、いやぁあああああああ!!!』

『い、いや……嫌だ……こんなの……こんなの『風神様』じゃない……!』

『だ、誰か…誰か助け……!』


しかも…あの時感じたのは女の子だけのものじゃなかった。沢山の……それはもう沢山の『女性』の感情を感じた。


『いやぁああああああ!!』

『何故、どうして……そん……ぁああああああ!!』

『痛い…痛い…!』

『こんな事なら逃げるべきだった……!』


「……あの時見たのは、全部……『風神様』に喰われている所だった。」

「…え、」

「ッ、」

「………、」


リリィは茫然とし、シフォンはビクリと身体を強張らせ、クロトは静かに私を見つめていた。三人の反応に私は応える事が出来ず、胸に感じる喪失感に似た痛みと込み上げる涙を必死に落とさない様にしながら言葉を続けた。


「腕を引き千切られて、投げ飛ばされて、恐怖で動けない所を襲ってきた。鋭い嘴で何度も身体を傷つけて、開いた傷口に容赦なく中の物を引き摺り出しては食べていた。動物の様に、食べていたの。」

「マツリ…、」

「そ、それだけじゃないの……女の子だけじゃないの。沢山の…沢山の『女性』が『風神様』に喰われていた。頭を食い千切られた人もいたし、逃げ出そうとする人を鋭い爪で押さえつけて刺し殺してもいた。足を食い千切っていたし、身体を引き裂かれた人もいて、それで、それで……、」

「マツリ!!」


叫びに似たリリィの声にハッと我に返った瞬間、私の身体を包み込む様にリリィが抱き締めてきた。柔らかく、温かなリリィの身体。か細い腕で力強く私を抱き締めていた。


「もう、いいの。もう、いいから……それ以上は言わなくていいから……、」

「リリィ……。」

「あの時…ずっと痛いって言っていた意味がようやく分かった。マツリはあの時……その人達の感情を読み取って感じていたのね。辛かったわね、痛かったわね。」

「………うん、痛かった。けど、私は何もしてない。怪我もしてない。痛かったのは……彼女達なの。」


そう…今まで見てきたもの、感じてきたもの…それらは全て、女の子を含めた彼女達が体験したもの。彼女達が感じた事なんだ。


「私が見てきたものや感じた事は全部彼女達の『記憶』なんだと思う。…そう思うのは変かな?」

「そんな事ないわ。夢にしては具体的過ぎるし、マツリの状態を考えるとおかしいと思う方がおかしい。」

「私の状態?」

「そうよ。マツリが倒れる前、私はマツリの意識が別の意識になっている様に見えた。そして今話を聞いて確信した。だから、マツリはおかしくないわ。」


抱き締めていた腕の力を緩め、リリィは私から少し離れると小さく笑みを浮かべた。


「きっとこの遺跡に囚われた残留思念がマツリに引き寄せられたんだわ。マツリを通して何かを訴えようとしている。だからマツリの意識が別の意識に干渉されていた。…話をまとめましょう。」


そっと私から離れたリリィは元の場所へと腰を下ろすと人差し指を立てながら口を開いた。


「まず第一にマツリが見た女の子について。歳は私達より年下で、エルフ。人払いの森を知っていた事と長が出てきた事、そして遺跡で『風神様』と出会っている点からピネー出身というのが分かるわね。」

「遺跡の構造も全く同じだったから間違いないと思う。」

「第二に女の子が『風神様』に選ばれたという点について。家族と別れなくてはならない状況と着飾られている事、遺跡に一人で入らされている事を考えて……恐らく、その女の子は何らかの『儀式』に選ばれたのかもしれない。」

「『儀式』?」

「古い民族がいる村ではよくある話よ。豊穣祈願や航海安全、雨を降らせる為の儀式もある。マツリの話を聞く限り、その女の子はピネーで行われた『儀式』に選ばれたんだと思うわ。…何の為の『儀式』かは分からないけどね。」

「………、」


隣にいるシフォンの手が震えながらも何かを耐える様にして拳を強く握りしめている。表情もさっきより悪そうに見える。

そんなシフォンを他所にリリィは三本目の指を立てながら続きを話し始めた。


「第三に、マツリが見た女の子以外の女性達の存在。…これも恐らくだけど彼女達も『儀式』に選ばれた人達。マツリ、その女性達は背格好はどんなものだったか覚えてる?」

「背格好は皆バラバラだったよ。私より年下の人もいれば年上の人もいたし、お婆さんだっていた。けど皆、花冠をつけて白い衣装を着ていた…エルフで『女性』だったよ。」

「そう…。ピネーに住む『女性』である事と別に『何か』が条件で『儀式』に選ばれた。マツリが夢で見ていた女の子も『儀式』に選ばれる条件を持っていたのね。…ここまで考えで分かる事は、ピネーで行われている『儀式』は定期的に行われている事になる。」

「て、定期的…。」

「そうよ。皆同じような恰好をしていたんでしょう?恐らく『儀式』に選ばれた証、というんでしょうね。これもよくある話よ。特に『儀式』で使われる白い衣装というのは神聖を表すの。清楚で純心、純潔……身の清らかさを証明する為に白い衣装を身に着けるのよ。」

「そうだったんだ……。」

「最後。…マツリが見た、女性達が『風神様』に食べられているという点について。今までの『儀式』の話を考えると恐らく『儀式』の内容は……、」


ここで言葉を止めたリリィ。その表情は苦し気で言葉の先を言いにくそうに唇を噛みしめる。対面に座るクロトも言葉の先が予想出来るのか眉間に皺を寄せ、顔を背けていた。

隣に座るシフォンも顔を腕の中へと埋め聞くのを拒絶している様に見えた。……ここまでの話を聞いたら誰だってリリィがこれから言おうとしている事は想像出来る。彼女達の事を見て、感じた私なんて尚更だ。

私だってシフォンと同じだ。この先の言葉を聞きたくない。聞いても嘘だと断言したい。けど……それは出来ない。

それが嘘ではなく、真実だからだ。


「『儀式』の内容は…?」

「………『風神様』に食べられる為の『儀式』。つまり、選ばれた彼女達は『風神様』の『生贄』になっていた。」

「…………ッ…うぅ、」


隣にいるシフォンが声を殺しながら呻いた。顔は腕の中にあり見る事は出来なかったけど……押し殺した声が泣き声だというのが分かる。

泣きたい気持ちは痛い程分かる。胸が苦しくなるのも悲しくなるのも分かる。それだけ……痛々しく、悲惨的な事なんだ。そして……リリィが話した結論は、嘘であってほしい程痛々しいものだけれど……心のどこかで納得している自分もいた。

まだこの話が真実かどうかはピネーの住人じゃない私達では分からない。けど、それでも納得してしまうのだ。

彼女達が選ばれた事、家族と別れる事、不安と覚悟を持ちながら『風神様』と対面し、『生贄』になる事……見てきた私に酷く、納得するものばかりだった。


「…シフォン、教えて。リリィの話は本当…?」

「………、」

「『儀式』は本当なの?彼女達はなんで選ばれたの?……彼女達はどうなったの?」

「………、」


反応がない。いや、言いたくないのだろう。

けど、それは全て知っていると解釈も出来る。全て…ではなくても何か知っているからこそ言いたくない。そう、思ってしまう。

そこまでして聞きたい事なのか、無理やり聞き出そうするのは果たして良い事なのか……いつもの私なら躊躇うだろうけど、今回は違う。

胸がざわついている。早く続きが聞きたくて、全てを知りたくて、怖くて不安もあるけれど……全部知らなくてはいけないと私の中で言っている。そんな気がする。


「……実は、これは秘密にしていた事なんだけど、」

「秘密?」

「うん。…三度目の夢を見た時、一度部屋の外に出たの。気分をスッキリする為に水を飲んで、部屋に戻ろうとした。けど、その時に……気になったの。」

「何を?」


リリィに問われ私は一度隣にいるシフォンに視線を向ける。…話してどうにかなるか分からないけれど、もしかしたら……、


「シフォンの部屋の隣の部屋。」

「!」

「隣の部屋?なんでまたそんな所を……、」

「扉が少し開いていたの。最初は無視しようかと思ったんだけど……どうにも気になっちゃって……。悪いと思いながら中に入ってしまった。」

「………。」

「中は誰かの部屋だった。ベッドも机もあった。けど、使用されている形跡がなかった。生活感がないと言えばいいのかな……物はなくて、どこも埃が被っていた。」


瞼を閉じれば鮮明に思い出す事が出来る。きっとこれは夢ではなく、実際に自分の目で見た事だからだろう。

誰もいない静かな部屋。夫婦で使用するには狭く、そして生活感が全く感じられない埃まみれの部屋。どこか物悲しくて、何かが足りない冷たい部屋。


「最初はシフォン達の両親の部屋かと思ったの。けど二人で使用するには狭いし、ベッドも一人用だったから違うかなって思って……客室にしては中途半端な場所にあるし、」

「まぁ、それっぽい部屋だったら一階にあったし客室でもないでしょうね。ご両親の部屋と思われる部屋もジークとクロトが使っていた部屋の隣にあったし、」

「詳しいね、リリィ。」

「ま、暇な時間にちょっと探け……ゴホン、調べたからね。…それで?」

「う、うん。……誰の部屋かは分からないけど、その部屋に一枚の写真らしきものを見つけたの。」

「しゃ、しん?…何、それ。」


私の言葉に首を傾げるリリィ。もしかして猫と同様に写真という言葉もこちらの世界にはないのだろうか。見た感じ写真と同じだったけど、別の言葉があるのだろうか。……いや、そんなの今どうでもいい。


「…三人の人物が写った絵みたいなものがあったの。三人とも子供で見た感じ古いものだった。そしてそれを見た時、気付いた。三人の内二人が……ジークとシフォンだった事にね。」

「ジークと…シフォン?」

「………。」


私の言葉を復唱する様にリリィが口を開く。そんなリリィに私は頷きながら言葉を続けた。


「顔立ちとか雰囲気とか……まずそれ自体が家にあるのだから写真…その絵に映っているのがジークとシフォンであるのは間違いないと思う。…確証はないけどね。」

「まぁ、それもそうよね。……それで?それが秘密にしていた事と関係あるの?」

「あるよ。…ていうか、ここからが本当に驚いた事なんだけどね……。」


言葉を止め、ふぅと息を吸っては吐き出す。昨夜の事を忘れろと言った本人がいないからだろうか、それとも私にとって衝撃的過ぎるせいだろうか……発言するのに緊張してしまう。

まだ誰なのかも分からない、二人の関係性も分からない、忘れろと言われてしまったけれど……それでも今は、話さなくてはならない。

全てを知る為に、話さなくてはならない。……ごめん、ジーク。


「…そこにいたのは女の子で、二人の間に入り込む様にして笑っていた。とても可愛らしい女の子。…そして、私の知っている女の子だった。」

「ッ、」

「女の子って……まさか、」

「そう。……夢に出てきた女の子。その子がシフォンとジークと一緒にいたの。私が見た女の子は実在していた。実在して、二人の……シフォンとジークに関わる人物だった。違う?シフォン。」

「………そ、れは、」

「そして私はこの事を……ジークに忘れろと言われた。遠回しに関わるなと黙っていろと言われた。……ジークは女の子の事を秘密にしたがっているみたいだった。」

「え、ジークが?な、なんで……、」

「理由は分からない。けど、私達が女の子の事を知るのをジークは秘密にしたがっている。それが『風神様』と関係があるか分からないけど……ねぇ、シフォン教えて。もうシフォンにしか聞けないの。」

「……、」

「あの女の子は誰?シフォンやジークにとって、あの女の子は一体……誰なの?」

「…………。」


最後の問いかけにシフォンは押し黙る。沈黙が流れる中、微かにシフォンの声が聞こえた。


「…もう、ダメだよ。兄さん……、」

「シフォン…?」

「………、」


俯いていた顔がゆっくりと上がる。泣いていたせいか目元は赤く、涙が流れた痕が頬に残っていて痛々しい。けれど私を見つめる瞳は涙で濡れた顔と不釣り合いな程、強く…何かを決意したかの様に見えた。


「…全部、話します。私の知る全てを……、」

「シフォン…。」

「そしてどうか……どうか、私の事は許さなくても兄の事は許してあげて下さい。兄は…兄さんはただ……抗っているだけなのです。私や私達の為に……、」

「どういう事?」


祈る様に両手を重ねながら話すシフォンにリリィは首を傾げる。けれどシフォンは聞こえなかったのか、または聞こえなかったフリをしているのかリリィの反応に返す事はなく、一呼吸を置いてから口を開いた。


「……全てを話すにはまず風の遺跡と『風神様』の事を話さなくてはなりません。そこから全ては始まったのですから。」





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