第八話‐①
真っ白な世界が広がっている。
空も、地面も白い世界。自分以外何もない世界だ。
『辛い目に遭わせて、ごめんなさい。』
幼げな声がして振り返る。するとそこには美しい花で作られた花冠を頭に乗せた少女が立っていた。
『貴方は……誰?』
私が問いかけると少女は困った様に小さく笑みを浮かべた。
『私から名乗れない。けど、すぐに分かると思うわ。勇者様。』
『…私の事、分かるの?』
『勿論。こうして私達と繋がっているんですもの。』
『私、達…?』
そう言葉にした所で気付いた。対面にいる少女の後ろ、そこには少女の他にも女性達が立っていた。
少女より若い子もいれば、年老いた女性もいる。皆、少女と同じ様に白い衣装を身に纏い、花冠を頭に乗せている。
『勇者様、どうか、あの子達を責めないであげて。あの子達も捕らわれているだけなの。私達の様に……、』
『あの子達?』
『……時間ね。また、会いましょう。勇者様。』
言葉と共に風がぴゅうと吹いた。前髪が目に掛かり、瞼を閉じる。
最後に見た少女の姿……幼い容姿に不釣り合いな大人びた笑みを浮かべていた。その姿は落ち着いている様に見えて、悲し気に見えた。
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「ん…、」
パキパキと焚火の音が聞こえた。重たかった瞼をゆっくりと開けると紺色の空と宝石の様に散りばめられた星達が視界に広がった。
ひゅう、と冷たい夜風が吹き、前髪が揺れる。朧気だった意識が冷たい夜風ではっきりしてきた。
「………ここは…、」
「目が覚めた?マツリ。」
「……リリィ?」
声と同時にリリィが覗き込んできた。そこで私は頭に感じる柔らかな感覚がリリィのものである事に気付き、慌てて頭を上げようとした。けど、すぐにそれはリリィによって制止られた。
「無理しないで、まだ眠ってなさい。」
「で、でも膝枕……重たいでしょ?」
「そんな事ないわよ。案外楽なもんよ、コレ。」
「……ありがと。それから、迷惑掛けたよね。…ごめん。」
「マツリが謝る事じゃないわ。それと…礼を言うならクロトに言いなさい。マツリをここまで運んでくれたのよ。」
「クロトが?」
顔だけ辺りを見渡すと離れた場所で座るクロトの背が見えた。いつも身に着けている黒いマントがない事に気付くと同時に、そのマントが私の身体に掛かっていた事に驚いた。運んでくれただけじゃなく、マントまで掛けてくれるなんて……やっぱりクロトは優しい人だ。
後でちゃんと御礼を言わないと……。
「そういえば……ここは?遺跡の中、じゃないよね。」
「遺跡の外よ。…と、言っても魔物に襲われると困るから結界がある遺跡の敷地内だけどね。中にいるよりマシでしょ。」
「そうなんだ。…どうりで風が少し強いなって思った。」
辺りを再び見渡す。遺跡の外といっても遺跡自体はリリィの背後にあり、遺跡まで登る階段も視界の端にあった。
「山の上にあって、尚且つ階段の上に遺跡があるからね。…それより、体調の方はどう?どこか痛む所はある?」
「痛い所はないよ。体調も少し身体が重いだけで……大丈夫。」
「確かに、少し顔色は良くなってるわね。…本当、マツリには驚かされたわ。倒れた時の事、覚えてる?」
「……倒れる直前の事は正直覚えてない。けど…覚えてる事もある。」
自身で感じた痛み、悲しみ、苦しみ……そして、自分の目で見た全てのもの。あの時は痛みや気持ち悪さで何が何だか分からなかったけど、今なら分かる気がする。
「…あれは……あの子の記憶だったんだ。」
「あの子?」
「うん。…ここに来るまで夢を見たり、見た事ない映像が流れたりしてたの。その時、必ず女の子がいたの。」
「……夢って、もしかしてピネーに行く時に見た夢も?」
「うん。あの森で目印の場所を教えてくれたのも、その子だった。…って言っても私に教えたんじゃなくて、別の誰かに教えてた。……忘れかけてたけど、段々思い出してきた。」
今まで見た夢の事。この遺跡に入ってから見てきたもの……薄れていた記憶が底から湧き出る様に蘇る。
最後に見た夢の記憶も強く残っている。……だから、あの少女が言っていた『あの子達』というのも誰の事なのか……大体、分かる気がする。
倒していた身体をゆっくりと上げ、辺りを見渡しながらリリィに問いかけた。
「…シフォンとジークは?」
「二人なら食べれる物を探しに行ったけど……あ、」
「ん?」
何かに気付いた様に声を上げるリリィ。それと同時にボタボタッと何かが落ちる音がして私はリリィと共に視線を音のした方に向けた。
するとそこには見た事のない果実を地面に落としながら茫然と立ち尽くすシフォンの姿があった。
「シフォン?」
「……ぁ、」
立ち尽くす姿に声を掛けるとシフォンはたかが外れた様に目に大粒の涙を溜め、そのまま顔を歪ませた。
「わ、私……ご、ごめんなさ………ぅああああああ……!」
両手で顔を覆いながら地面に膝をつくシフォン。突然の号泣に私もリリィも驚いたけれど、すぐにシフォンの傍に駆け寄った。
「大丈夫?」「どうしたの?」と私達は頭や背を擦りながら声を掛けるもシフォンは嗚咽混じりに謝罪を繰り返す。
「ごめんなさ……ごめんなさいぃいい……!」
大粒の涙を流しながら謝罪を繰り返すシフォンに私達はそれに応える事が出来ず、シフォンが落ち着くまでひたすらに傍にいた。
シフォンの叫ぶ様な泣き声は時折吹く夜風によって掻き消されたが、私の耳にはずっと残っている様に思えた。




