29話
「拓也様」
アリスが僕の名前を呼ぶ。
冒険者ギルドを出てからというもの、アリスは、なにやら、怒っているように見えた。
見えたというより、本当に怒っていたのだろう。街を出るのに兵士の確認が必要なのだが、その時の、アリスの確認をしようとした兵士の人が、顔を青白くしているのが目についた。
そうとう、怒っているのだろう。でも、僕が、アリスを怒らせるような事をした憶えはないはず、っていうかまだあって、1週間も経ってないし、
「は、はい」
とりあえず、返事をする。
今、アリスは僕の前を歩いている。顔が見えないからよけい怖く感じてしまうだ
「このあたりにしましょうか」
アリスが振り向き言ってくる。その顔は驚くほど、さわやかな笑顔だった。
「?どうしたんですか?拓也様そんなポカンとした顔をして」
「い、いやなんでもないよ」
さわやかだ、不気味と思えるほどさわやかすぎるアリスの笑顔、ぜったいに怒っている顔だよね?
「ア、アリス」
「はい、拓也様なんですか」
「僕が何かしたなら謝るけど、なんで怒っているの?」
「・・・・・・拓也様を怒ってなどいません」
僕に対して怒ってないならいったい誰に対して?はっ、まさかリーゼさんか、
「拓也様、あの受付嬢の人ではありませんよ」
僕の心を読んだかのように、アリスが言ってきた。そして、急に地面に顔を向けてうつむきだした。その顔は、さっきとは逆で悲しそうだ。
「自分自身です。自分自身に対して怒っていました」
「自分自身?」
「はい、拓也様、恋とは、なんだと思いますか?」
「こ、恋、急にどうしたの?そんなこと聞いて」
「拓也様、私は真剣です」
「わ、わかった」
恋かー、うーん、そういうのあっちの世界でも、そういうの無縁ってより興味がなかったからなー、なんて答えたらいいんだろう。
「ごめん、アリス、僕には恋がどういうものなのかわからない」
「そうですか」
再び、うつむくアリス
「でもね、そういうものに積極的に取り組んだ方がいいってのは知っているよ」
僕がこの世界に来る前に読んでいた本に書いてあったし、
「積極的にですか」
「そう、積極的に」
アリスはなにか考えるようなしぐさを見せたあと、何かが吹っ切れたような笑顔でこっちを向いた。
「拓也様、ありがとうございます。私、なんだか勇気が出てきました」
「そう、それはよかったよ、さぁ、魔法の練習しようか」
「はい!」
アリスが元気になってよかった。でも恋か、アリスの恋が実ればいいな。
そう思っていると、アリスが、僕の肩をちょんちょんと軽くたたいてきた。
「それから、拓也様」
「ん?なに、」
「これから覚悟してくださいね」
「?」
アリスは、ニコッと可愛い笑顔でいってきたが、僕は、何を覚悟しないといけないんだろう。魔法の練習前にそう思った。




