【第2章 始まりの町】 8話 『初火町の朝』
街についた。
太陽がやけに近く感じる。空気が熱い。立っているだけで、肌がじんと熱くなる。汗が頬を伝った。まだ朝なのに、もう太陽が本気を出しているみたいだ。
「はぁー……最高っ!」
アリエスが両腕を思い切り空へ伸ばした。金色の髪が朝日に当たって、光が揺れているみたいに見える。眩しくて、思わず目を細めた。
「……元気だね、アリエス」
「だって、空気がこんなに気持ちいいんだもん! ほら、ラッサルも!」
「え、僕も?」
「そうそう、両手を広げて深呼吸!」
言われるままに腕を広げて息を吸い込む。
「――っ」
熱を含んだ空気が肺に流れ込んで、少しむせそうになった。
「ほら、太陽が背中を押してくれる感じしない?」
「……うん。でも、ちょっと暑いかも」
「暑いって褒め言葉だよ。生きてるって実感できるでしょ?」
アリエスは拳をぎゅっと握った。朝日の光を受けて、彼女自身が小さな炎みたいに輝いて見えた。その姿を見ていると、不思議と足を止める気にはなれなかった。
伝説の魔法使いとやらがどこにいるのかも分からない。それでも、とりあえず前に進むしかない。そんなとき、アリエスは迷いなく言った。
「魔法使いを探す旅。最初の一歩は、始まりの町からが一番いいの」
「始まりの町?」
「そう! ここ、初火町はね、最初に火が生まれた場所なんだ。だからね、みんな、心のどこかに小さな火を抱えてるの」
「……そんな場所に、火のない僕がいても、いいのかな」
僕がそう言うと、アリエスは小さく笑った。
「ラッサルも持ってるよ。私には見えるもん」
「う、うん」
その言葉に背中を押されるように、僕は足を前に出す。アリエスの言う通り、この町には、旅の始まりにふさわしい何かがある気がした。
ふと街の方へ目を向けると、赤土の家々が並んでいた。細い路地の奥まで朝日が差し込んでいる。
どこかで子どもたちの声がして、風鈴が鳴った。焦げたような匂いが、かすかに混じっている。さっきまでいた場所とは、まるで違う。
――この町は、火と一緒に生きている。
「すごいな……」
胸いっぱいに朝の空気を吸い込む。露店の布屋根が風に揺れて、ぱたぱたと音を立てていた。
あちこちで火がぱち、と弾ける。通りを行き交う人の声が重なって、少しずつ賑やかになっていく。街はもう動き出していた。
「こんな場所が、あったんだ――」
僕は思わず立ち止まり、そのまましばらく動けなかった。行き交う人たちは、どこか活気があった。アリエスがにっこり笑う。
「初火町の朝は特別なんだよ。香辛料とパンの匂い、それから、火の音に鍛冶の音。全部が混ざって、元気が出るの」
「元気、か。……確かに、空気を吸うだけで、ちょっと体が熱くなった気がする」
「でしょ!」
鍋から上がる湯気の向こうで、金属がぶつかる音がした。通りはもう人で動いている。




