五十五話 『世界に一つだけの器だよ!』
町の通りをしばらく歩くと、少し開けた場所に出た。
いくつかの店が並んでいて、その間に小さな空き地がある。朝から人が行き来していて、買い物をする人や、店の前で立ち話をしている人もいた。
「着いた」
ブルナが足を止めた。
「ここで売るの?」
アリエスが辺りを見回す。
「うん。前にもここで売ったことがあるから」
ブルナはそう言って、持っていた箱を地面に置いた。
「じゃあ、始めよう!」
アリエスがすぐに箱へ手を伸ばす。
「待って。並べ方があるから」
「え、並べ方?」
「うん。ちゃんと置かないと」
ブルナは器を一つずつ取り出した。大きさを見ながら、置く場所を決めていく。少し離して置くものもあれば、同じ形のものを並べるところもある。器の向きまで揃えていた。
「これ、ここでいい?」
僕が器を一つ持ち上げる。
「うん。そこに置いて」
言われた場所に置く。
「もう少し右」
「ここ?」
「うん。ありがとう」
次にブルナは、小さな木の板を取り出した。そこには器の値段が書かれている。
「これが値札?」
「そう」
ブルナは器の前に一枚ずつ置いていく。
「こっちは二十星貨。こっちは三十星貨。これは少し大きいから四十星貨」
「全部違うんだ」
「作るのにかかった手間が違うから」
僕は並んだ器を見る。同じように見えても、少しずつ形や大きさが違っていた。
「これでいいかな」
ブルナが一歩下がって、全体を見る。
「うん。大丈夫」
それから、腰につけていた小さな袋を開いた。中には何種類かの硬貨が入っていた。ブルナはそれを取り出して、種類ごとに分けていく。
「何してるの?」
「最初にお釣りがいくらあるか、数えてる」
「え、わざわざ?」
「うん。最初にいくらあるか分かってないと、売れた分と混ざっちゃうから」
そう言って、硬貨を一枚ずつ指で弾いていく。
「一、二、三……」
アリエスが隣で覗き込む。
「そんなにゆっくり数えなくても分かるよ」
「私はこうしないと、分からなくなる」
「ならないって」
「なるの」
ブルナは淡々と数え続けた。
「……全部で、三百星貨。これでお釣りは足りるかな」
そう言いながら、紙に数字を書き込む。
「これで準備できた」
「よーし、いよいよだね!」
アリエスが待ちきれないように立ち上がった。
「じゃあ、私呼んでくる!」
「え?」
ブルナが振り向くより早く、アリエスは通りのほうへ走っていった。
「みんなー!」
大きな声が響く。
「器売ってるよー!」
通りを歩いていた人たちが、何人か振り向いた。
「私たちが頑張って作ったの! ほらほら、みんな買って!」
「ちょっと、アリエス……!」
僕は慌てて追いかける。
「そんな大きな声で言わなくても……」
「だって、買ってもらわないと!」
「いや、僕たちが作ったって言っても……」
「作ったじゃん!」
「作ったけど……」
アリエスは楽しそうに笑った。そして、近くにあった切り株や荷物箱の上にピョンッと飛び乗る。
「頑固者のブルナが作った、世界に一つだけの器だよ! 買わないと一生後悔するよー!」
両手に器を掲げて、朝日にキラリと反射させる。そのあまりの勢いに、通りがかったおじさんが「お、なんだなんだ?」と足を止める。
「ほら、ラッサルも言って!」
「え?」
「私たちが作ったって!」
「……恥ずかしいよ」
「なんで?」
「なんでって……」
通りを歩いていた人が、僕たちのほうを見る。僕は少しだけ目を逸らした。
「……いらっしゃいませ」
小さな声で言う。
「聞こえない!」
「もう……」
アリエスが笑う。少し離れたところで、ブルナがその様子を見ていた。困ったような顔をしていたけど、口元だけは少し笑っていた。
しばらくすると、一人の女性が器の前で足を止めた。
「これ、かわいいね」
小さな器を手に取って、光にかざす。
「この模様、いいなあ」
「ありがとうございます」
ブルナが少し緊張したように頭を下げる。
「これ、いくら?」
「二十星貨です」
「じゃあ、これください」
女性は嬉しそうに笑って、器を大事そうに抱えた。
「いい器だね。大切に使うよ」
「……はい」
ブルナの表情が、ほんの少しだけ緩んだ。
「ありがとうございました!」
アリエスが元気よく手を振る。女性が去っていくと、今度は別の男性が器を眺め始めた。
「こっちは形が面白いな」
「それは少し大きめなので、使いやすいと思います」
「へえ。じゃあ、これにするか」
男性も、器を一つ買っていった。
「ありがとうございました」
ブルナは頭を下げる。
「なんか、いい感じだね!」
アリエスが嬉しそうに言った。
「うん……」
ブルナも小さく頷いた。
そのあとも何人かが器を見ていった。
「きれい」
「味がある」
「こういうの好きだな」
そんな声が聞こえるたびに、アリエスは嬉しそうに笑った。




