↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
2/60

【第一章 炎の少女】 二話 『朝陽のなかの少女』

 風がやわらかい。草が揺れる音がする。――息を吸った瞬間、体が急に重くなった。瞼を動かすと光が差し込み、ぼやけた人影がひとつ揺れた。


「……ラッサル!」


 誰かが呼ぶ声が聞こえる。


「ねぇ、ラッサルってば!」


 目を開けると、崖の縁から少女が身を乗り出していた。


 短い金髪が柔らかく揺れ、橙色に染まる光が輪郭を縁取る。赤い服の裾が揺れるたび、目が引き寄せられた。胸元の白いファーが朝の光をやわらかく弾く。


 その姿を見た瞬間、息が止まった。


「あ、やっと起きた! もう、心配したんだから!」


「……っ」


 似てる。あのときの、リラに……。光に包まれた、あの姿。闇の淵で見た、変わってしまう瞬間――。


 気がつくと、僕は自分の右手首を、肉に爪が食い込むほどの強さで 掴んでいた。


 あの夜、リラの手を掴み損ねた、僕の右手だ。思い出したくない記憶が一気に押し寄せて、うまく息ができなくなる。


 だけど――目の前の少女が灯す光は、あの白銀の冷たさとは少し違った。


 眩しく揺らめいていて、見つめるだけで、さっきまで強張っていた指が少し緩んだ。触れたら火のぬくもりに変わりそうなくらい、あたたかい光だった。


「……君は、誰?」


 知らないはずなのに、なぜか心が震えた。彼女を見ていると、なんだか落ち着かない。怖いわけじゃない。むしろ、どこか懐かしい。なんだろう、この感覚……。


 ふと少女と目が合った。すると彼女は、迷いのない、明るく澄んだ声で答えた。


「私はアリエス、火の魔法使い。あなたを助けに来たの」


 赤いフリルがふわりと揺れ、小さな火花みたいに舞った。


 そのとき、気がつく。さっきまで浅かった息がちゃんと吸える。彼女がそばにいるだけで、呼吸が少し楽になった。


「……どうして、僕のこと知ってるの?」


 言葉が震え、喉の奥で引っかかる。初めて会ったはずなのに、どこかで触れた匂いがかすかに残っている気がした。思わず視線を逸らすと、アリエスが首を小さくかしげた。


「あれ? 変だね。会うのは初めてのはずなのに」


 彼女はそう言ってパッと笑った。朝日を受けて、その笑顔がやけに明るく見えた。


「ま、いっか! ラッサルはラッサルだし」


 その一言で、さっきまで変に早かった鼓動が少し落ち着いた。温かい風が頬を撫でる。砂ぼこりが舞って、目が少し痛む。


 僕は深く息を吸い込み、アリエスの瞳を見つめた。緊張がゆっくりと解け、体全体に熱が広がっていくのを感じる。


「もう大丈夫だから、安心して」


 アリエスの声は驚くほど優しかった。はっきりしているのに、押しつける感じもない。赤い衣の裾が揺れるたび、視界がちらつく。


 リラの時とは違う、あたたかな光。理由は分からないのに、目をそらせなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。