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そういう関係

「菅原だけモテすぎじゃね?」

「善人、ちゃんと彼女さんを送ってけよー」

「浮気者~!夜道の背後には気をつけろよー!」


背後から聞こえてくるサークル仲間の冷やかしに見送られ、俺と紗季は一緒に練習コートを後にした。


「...なんか、ごめんね。こんなことになるとは、思ってなくて」


「いや、全然大丈夫。いつも、あんな感じでイジられてるし」


焦ってめっちゃかっこ悪い発言してますけど、実際にいっつも悠人と夫婦ネタでイジられてるから間違ってもない。まぁ今回に関しても、傍目から見たら練習中にイチャイチャしてたようにしか見えないわな。


「...意外。善人って、イジられキャラなんだ」


小さく笑いながら、独り言のようにこぼす紗季。俺から見られてることに気付くと「何でもない!」と慌てて顔を背けてしまう。


「俺がイジられるというか、悠人が余計な事を言うんだよ」


最初のうちは借りてきた猫のように大人しかった悠人だが、日を追うごとに「俺の彼女ポジション」をネタにすることが多くなっていった。まぁ悠人は男だから、サークル仲間もノリでやってる感もある。あれはあれで、俺も楽しいし。


「...柊くん、けっこう見学に来てるんだ」


「そうだな、ほとんど毎回って感じかな。今月入ってからはだいぶ減ったけど」


例のバイトが増えた件があるから、今後も悠人が見学に来る機会は減るかもしれない。俺もちゃんと飲み物とか用意しないとな、もういい大人なんだし。


キャンパスの入口から駅の方向に曲がり、少し狭くなった歩道を進む。紗季との距離が近づき、少しだけ体温が上がったような気がした。さっきちゃんと着替えたけど、俺、汗臭くないよな?大丈夫か?


「...久しぶりに、善人の頑張ってる姿。見れて、楽しかった」


紗季は俺の動揺にまったく気付くこともなく、自分の足元に視線を落としながらつぶやく。前も思ったけど、俺のサークル練習なんか見て、楽しいのかねぇ。洗濯機が回るのを眺め続ける特殊性癖の人、みたいな感覚か?


何て返事しようか悩んでる俺をよそに、紗季はゆっくりと歩みを止める。駅まであと数十メートルのところで、俺たちは向き合うように立ち止まった。


「でも、私が......」


俯いて表情は読めないが、まるで泣いているような声色。ぼつりとこぼれた言葉、なかなか続きは紡がれない。


「......紗季?」


いまにも泣き出しそうな紗季に一歩近づき、「大丈夫か?」と口を開きかける。


「その、私が彼女......とか」


俺は伸ばしかけた右手に力を込め、二歩目を踏み出す前にその場に立ち止まった。


「善人は、言われるの。迷惑......だったよね」


紗季は自分の身体を両腕で抱きしめ、必死に何かを堪えてるように見えた。さっきまでの楽しい空気は消え去り、俺たちを照らす電灯の明かりが少し暗くなった気がした。


......なんでそんなに、つらそうにしてまで、俺に絡んでくるのかね。


正直、俺はほっといて欲しい。元恋人で、しかも振られた身としては、もうさっぱり未練もないつもりだった。それでもやっぱり、こうやって話すと思い出すじゃん。良かったことも、思い出したくないこともさ。


『お互いに、いい思い出で終わらせる』ってことじゃ、ダメなんですかねぇ。


ふぅ、と小さく息をついて、俺は俯いたままの紗季から目を逸らす。


「ぜーんぜん、迷惑じゃない。イジられるのも、悠人ので慣れてるよ」


なるべく自然に見えるように笑い飛ばす、少しでも紗季の不安が消え去るように。


小さな子供のような不安げな表情で、俺の顔を見上げる紗季。正面から見つめ返すと、紗季は少しだけほっとした表情に変わった。


なんだか久しぶりに紗季と目が合った気がする。何度も顔を合わせてはいたが、本当の意味で向き合っていなかったのかもしれない。


「......ふふっ。やっぱり善人は変わらないね」


紗季は潤んでいた瞳を隠すように、あの頃の懐かしい笑顔で俺を見つめてきた。まだ少しだけ固さが残ってるけど、さっきまでの身体の震えはさっぱり消えたようだ。


「そうか?結構変わったけどな、身長も伸びたし」


敢えてかみ合わない返答をして、重くなった空気をちょっとだけ掻き回す。周囲で停滞していた空気が、少しだけ流れ始めたような気がした。


「......そういうとこ。わざと空気読まないところ、とかね」


軽い足取りで俺に並びかけ、あっさりと追い抜いていく紗季。そのまま2歩ほど進んで振り返り、少しだけ責めるような目で見つめてくる。あれ?バレてます?......だいぶハズいな、これは。


「さぁ、なんのことやら」とぼやきながら、大きく一歩を踏み出して紗季の隣に並ぶ。紗季も同じ歩調でに並び、駅構内から流れるアナウンスの音が徐々に聞こえてきた。


「......あっ!」


突然なにかを思い出したような表情で、声を上げて立ち止まる紗季。次はなんだよ、と思いながらも俺は立ち止まって紗季の言葉を待つ。


「えっと、その......善人!」


さっきとは違って、かなり焦ってるように見える紗季。カバンから自分のスマホを取り出し、ぶつぶつ言いながらやたら前髪を気にしている。駅から出てきた通行人に、横目でチラチラ見られてる気がして落ち着かない。


通行人の視線をごまかすように、俺もポケットのスマホに手を伸ばす。そろそろ次の電車の出発時間を過ぎそうだなぁ、と思ってスマホに触れた瞬間。


「......えいっ!」


紗季が小さな掛け声と共に、俺の腕に抱きついてきた。紗季はそのまま自分のスマホを目の前に掲げて、カメラモードのスマホ画面を操作する。


「......はい、チーズ!」


カシャ、という機械音だけが鳴り響き、紗季はスッと絡めていた腕をほどく。紗季の手に収まるスマホの画面には、真っ赤な顔をした紗季と間抜け面の俺の姿がバッチリと切り取られていた。


「...ど、どういうことです?」


写真の出来栄えを確認して、満足そうな笑みでスマホを操作する紗季に問いかける。急接近した物理的な距離に動揺を隠せず、思わず敬語が出てしまったのはかなり格好悪い。


「...ふふっ、ごめんごめん。これ、柊くんに言われてて」


言いながら、紗季は改めてスマホの画面をこちらに向ける。メッセージアプリが開かれており、悠人宛てに先ほどの写真が「送信済み」となっていた。


「......えええ、何してんの?いまの写真、悠人に送ったの?」


思わず大きい声を上げてしまい、通行人から白い目で見られる。紗季もびっくりした顔をして、スマホをこちらに向けたままの格好で俺を見つめている。


「だって、練習を見に行く条件。柊くんへの報告が、必須だって」


いたずらを叱られる子供のように、シュンとしぼんでしまう紗季。いや、怒ってはいないけど、びっくりしただけで。


「わざわざ腕組んで、写真まで撮る必要ないだろ」


「......柊くんが『2ショット写真がベスト』って、言ってたもん」


そんな可愛い表情で口とがらせて「もん」は、やめなさい。反則です。


「俺から悠人に言っておく。今後は普通にメッセージだけでいい」


いや、本来は報告すること自体、意味わかんないんだけどね。


「......あの、そもそもなんで報告制なの?善人って......柊くんとそういう関係なの?」


おいこら、本気で心配そうな目で俺を見るんじゃない。そういう関係、ってなんやねん。俺は真っ直ぐにノーマルです、特殊な性癖はありません。


その後、駅に入って紗季と別々のホームに分かれるまで、俺は必死に自分の身の潔白を訴え続けることとなった。


常にお話の軸に居座る幼馴染(♂)、恐るべし...

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