めんどくせぇ幼馴染たち
「週末にスイーツ食べ行くって言ってんのに、カフェに誘うとか。モテないよね、善人って」
「おおい、1時間近く遅刻した奴の第一声が、それでホントにあってるか?」
ドカッと音を立てて向かい側の席に腰を下ろすまもり。傍若無人とはこいつのためにある言葉だ。
「まもりちゃん、そんなに暇じゃないよ? 善人がど~~~しても詫びたい、って言うから来てあげたのに」
「それは言ってねぇな。捏造は良くない、メッセージのログ確認してみろ」
こちらに見向きもせずスマホを弄り始めるまもりに呆れつつ、俺は卓上の呼び出しベルに手を伸ばす。少しずつ店内には人が増えてきたので、もう悠人とはゆっくり話せないかもしれない。
カフェオレを一口飲んでテーブルに戻す間に、軽やかな足取りで悠人が近づいてきた。
「まもり、おつかれさん。今日も変わらず可愛いね」
「うわ、その営業スマイルうざぁ」
...相変わらず、仲が良いのか悪いのか分からない会話。遠慮がない、と言えば聞こえは良いが。
「今日もまた遅刻? 毎回そんなんじゃ、さすがの善人でも愛想が尽きちゃうかもよ?」
「善人は誰かさんと違って、そんな冷たい人間じゃないよ?ねぇ、善人?」
幼馴染たちの視線が同時に俺を捉える。こっちに振るなよ、面倒くさい絡みに巻き込むんじゃない。
「ま、いいけど。まもりはアイスココア?でっかいのにする?」
「ん、普通のでいい」
数秒前の邪険なやり取りは夢だったかのように、普通に会話する悠人とまもり。こいつらも独特の幼馴染イズムの付き合い方、って感じだ。
俺と悠人の場合は、悠人がからかってきて俺がいじられる。
俺とまもりの場合は、まもりがダル絡みするのを俺があしらう。
三すくみではないが、なんだかんだで上手いことバランスが取れているのかもしれない。
まもりの嫌がる営業スマイルをバッチリ張り付けたまま、音も立てずに店内の奥へ去っていく悠人。
結局、バイト中の悠人を冷やかすというよりは、こっちが冷やかされている気もする。楽しいから別にいいんだけど。
「...で、なんで昔の女と一緒にお昼してたの?」
スマホから顔も上げずに、唐突にお昼の件を投げかけるまもり。「人と会話するときは目を見て話しましょう」って習わなかったのかな?このわがまま娘は。
別にやましい事をしているわけでもないのに、問い詰められているような空気になってるのは解せない。
気を落ち着かせるために、一旦カフェオレで口を湿らせてから、ゆっくりとカップを戻す。
「別に? 普通に売店の前で会って、普通に一緒に食べるか~、って流れになっただけ」
背もたれに身体を預けながら答える。まもりは相変わらずスマホをいじる手を止めない。スマホを見つめる表情からは、まもりの感情はほとんど読み取れない。
窓から差し込む夕日が眩しく感じる。だいぶ日が落ちてきたな。
「あの女と話す暇あったら、まもりちゃんに返信すべきだと思う」
あ、それは確かに正論かも。最近は既読無視が当たり前になっているのは、俺も否定できない。いや、まもりの遅刻癖に比べればだいぶマシだとは思うけど。
「おい、ながらスマホは良くないぞ。話すときはちゃんと相手の目を見てだな……」
突然、パッと顔を上げたまもりと目が合う。パッチリとした大きな瞳に、長いまつ毛。相変わらず文句のつけようがない顔立ちで、真っ直ぐに俺の目を見返してくる。
……いや、なんか喋れよ。
5秒、10秒と見つめ合っている恥ずかしさに耐えられず、ついに俺の方から窓の外に目を逸らす。
「……ぷはっ! はい善人の負け〜、まじウケる」
堪えきれず吹き出したまもりは、ニヤニヤしながらまたスマホに視線を戻した。
くそ、これは恥ずかしい。熱を帯びた頬を隠すように、再びカフェオレを傾ける。
「お待たせしました。……どしたの?善人、顔赤いよ?」
アイスココアを持ってきた悠人から急に背中を刺された。幼馴染の連携コンボやめい、俺はもうオーバーキルだよ。
「食べ物は注文する?どうせ善人のおごりでしょ?」
よく考えたら、まもりと一緒に食事して割り勘とかしたことない気がする。もちろん、まもりにおごってもらった記憶もない模様。
「んー、今日はシロノワールの気分かなぁ」
相変わらずスマホにお熱なまもりは、顔も上げずに気の抜けた声で答える。お世辞にも良い態度とは言えない。そんなまもりの様子に呆れながら、悠人は俺の方に顔を近付ける。
「......そろそろ本気で愛想尽かした方がいいよ、善人」
口に手を添えて、形だけは内緒話の体を取ってるけど、普通にまもりに聞こえる音量で話してくる悠人。そんな憐れむような顔でこっちを見るんじゃない。なんだかこっちまで悲しくなってくる。
「うるさい、悠人。黙って仕事に戻りな?お店、混んできてるよ」
そう言われて店内を見渡すと、空席もほとんど埋まっていて混雑してきている。
まもりさん、顔も上げずにずっとスマホを弄ってるだけなのに、なんで店内の混雑具合がわかったの?素直に感心するわ。
「はいはい。ホントにもう、まもりちゃんは善人が大好きだね」
「そういう悠人は、拗らせすぎててクソキモいけどね」
一瞬、ピリッと空気が凍りつく。
無表情でスマホを弄るまもり。冷たい瞳で見下ろす悠人。この二人の空間だけ、時間が止まったような錯覚に陥る。混雑し始めた店内の騒音が、やたら大きく聞こえる。あれだけたくさん飲んでたはずのに、もう喉が渇いて仕方がない。
「……俺、ハンバーガー。あとカフェオレ、おかわり頂戴」
どうにか平静を装いながら、悠人に注文を告げる。少しだけ声が震えていたかもしれない、相変わらず恰好つかないな。
悠人を見上げると、少し驚いたような顔で俺を見つめていた。
「……ふふっ。承知しました、少々お待ちください」
さっきまでの冷たい空気が一気に溶け出し、モノクロの風景に彩りが戻ってきた感覚。
ふぅ、と小さく息をつきながら、身体を背もたれに預ける。毎度のことだが、ピリピリした空気はやっぱり得意じゃない。何事も、平穏無事が一番だ。
「……ごめん。その、言い過ぎたかも」
夕方のピークを迎えた店内の騒音に、ギリギリかき消されない程度の大きさでまもりが呟く。相変わらずスマホからは目を逸らさないが、その表情は少しだけ申し訳なさを含んでる気がした。
いや、それって俺じゃなくて悠人に言うべき台詞なのでは?
「いいよ。ちゃんと後で悠人にも謝っとけよ」
特に返事はなかったが、少しだけまもりの表情が柔らかくなった気がした。
にしても、メッセージではウザいほどに絡んでくるのに、リアルで会うと内向的というか......完全なるネット弁慶、これも情報社会の弊害なのかもしれないな。
ほとんど空になったカップを持ち上げながら、俺はすっかり日が落ちて暗くなった窓の外を眺める。
相変わらず、めんどくせぇ幼馴染たちだなぁ。
リアルでは素直になれないまもりさん。
狙ってたわけではなく、キャラが勝手にそう動いちゃいました。




