たべたそうに こちらをみている
菅原 善人
平穏な大学生活を過ごしたい、半額弁当が至福の主人公
葵 まもり
小動物系幼馴染(♀)、自宅押しかけ系ヒロイン
篠宮 紗季
クールなウサギ系元カノ、いまだに距離がつかめないヒロイン
柊 悠人
中性的な美形幼馴染(♂)、エプロン姿が想像できるほどの正妻感
いやぁ、昨日はほんとに大変だった。
あのあと、まもりは完全わがままモードに突入して、結局終電近くまでゲームに付き合わされた。
落ちゲー、格ゲー、パーティーゲー、リズムゲー辺りを一通りやり尽くした後、しっかりと終電に間に合うように駅まで送って帰らせましたよ。いまさら二人きりだからって、変な雰囲気になるわけがない。
ちなみに、まもりの自宅の最寄り駅までは、まもりパパがお迎えに来てくれたのでご心配なく。さすがに駅から自宅まで一人で夜道を歩かせるくらいなら、うちに泊めるのもやむなしだし。
ということで、本日は超絶に寝不足である。
こんな日に限って1限からしっかり講義が入っている。というか、まもりは「俺が明日1限から講義ある」って知った上で、遅くまでダル絡みしてたんだと思う。そういう奴だ、あいつは。
あくびを噛み殺しながら、どうにかペンを走らせる。同じ学科の友人からは「講義ノート枠」として重宝されている感があるので、安易に居眠りもできない。
いや、別にそんな友人、切ったらいいだけの話なんだけど。まぁ、いざという時は人の縁って大事だし。恩は売れるだけ売っときたい。俺、菅原『善人』だし?
そんなしょうもないことを考えながら、襲い掛かる眠気と戦いながら講義を受け続けた。
◇
今日は珍しく悠人と講義が被っていないので、一人きりで昼食の時間を迎えた。
「たまにはこういう一人の時間も悪くないなぁ」と思いながらも、一応悠人に昼飯のお誘いだけ送ってみる。
すぐに返信は来たが『これからバイト、また誘ってね』とあっさり振られてしまった。
(しゃあない、たまにはぼっち飯と決め込みますか)
睡魔で少しヨレた字で埋め尽くされたノートを片付けながら、ぼっち飯の選択肢を考える。
うちの大学の昼飯の選択肢は3つ。
ひとつ目は学食。それなりの値段でそれなりの量と味。しかし、一人で利用するのはちょっとだけ勇気が必要。
2つ目はカフェ。軽食でパスタがメインだが、あそこの生パスタは普通に美味い。ただ、値段もそれなりにするので毎食はちょっとお財布的に厳しい。たまに悠人と行ったりしてる。
最後は売店。弁当かパン、あとは飲み物。言うて一番学生感があるのって、結局これだと思う。
よし、今日はぼっちだし、無難に売店で済ませよう。
◇
講義棟を出て、寝不足の目に染みる日差しを浴びながら売店へと向かう。悠人に連絡していた分でちょっと出遅れたけど、混雑のピークを避けられた、と前向きに捉えよう。
売店へ続く階段を下りる。ふと、階段を上ってくる見慣れた顔が目に入った。
紗季だ。
「...あっ」
驚いた顔で俺を見上げる紗季。少しだけ階段を下りるスピードを緩める。
「……売店?」
「うん、今日は一人だから」
「そっか」
相変わらずぎこちない。もっとスムーズに会話できないもんかね。
「んじゃ、また」
絶妙に気まずい空気をかき混ぜるように、軽く手を振って一気に階段を下る。
うーむ、そろそろどうにかしたいんだけどね、これ。
紗季の方からも話しかけてはくれるんだけど、なかなかどうして会話が弾まない。
無視して避けるのもだいぶ心を擦り減らすけど、これはこれで針の筵感がある。そりゃ『元恋人』ってのは、難しい関係だってのは分かるんだけどさ。
ふぅ、と小さく息をついて売店のドアをくぐった。
◇
「ありがとうございましたー」
やる気のない店員の挨拶に見送られて、そそくさと売店を後にする。
昼食争奪戦で売れ残った菓子パンを手に入れ、いつものスポーツドリンクも無事に購入できた。
(天気もいいし、外のベンチで食べるかなぁ...)
なんてことをぼんやり考えていると、売店前の休憩スペースに佇む人影が目に入る。
紗季だ。あれ? さっき階段を上がっていったはずでは?
「どうしたん?誰か待ってる?」
こちらに気付いてる様子だが、すぐに返事が返って来ない。
...あれ?俺、何か怒らせることしました?
会話のキャッチボール的に、まだ向こうのターンなので返答をしばし待つ。
手持無沙汰に耐え切れず、購入したパンが入ったポリ袋を覗いてみる。
あ、よく見るとこのパン、どっちも甘い系だな。しくったな。
「...お昼」
パンの構成ミスを悔やむ俺をよそに、紗季は重い口を開いた。
「一人なら、一緒に食べようと思って」
休憩スペースのイスから立ち上がえり、ゆっくりとこちらに近付いてくる紗季。
「だから、その……だめ?」
少し目にかかる髪を気にしながら、不安を隠しきれない表情で俺の返答を待つ紗季。
…うーんと、これはどういう意図だ?
『元恋人と二人で昼飯食べる』って、個人的には罰ゲームに近いんだけど。
いやでも、普通の友達としてのコミュニケーションか?俺が過剰反応しすぎか?
俺の目の前で立ち止まる紗季は、俯きながら俺の返答を静かに待っている。
...いや、待って。ここで断っちゃうと、俺が悪者みたいにならない?
「ダメじゃないよ。あっちの飲食スペースで食べるか」
根負けした俺は情けなく笑いながら返答する。ノーと言えない典型的な日本人だなぁ、と痛感する。
「……うん!」
パッと一瞬で紗季の表情がほころぶ。クール系の見た目でそれやられると、相当な確率で男子は落ちますよ。こんなところで無駄打ちしなさんな。
いつもより少し足早になりながら、売店の隣に併設されている飲食スペースへ向かう。
◇
飲食スペースには長机とキャスター付きの椅子が並べられており、サークルの部会とかでも使える共用のフリースペースになっている。
たまに、ここで軽音楽部が構内ライブをやってたりするけど、それ以外は誰でも自由に使える。
「うーし、腹減った! 食べよ食べよ!」
適当な椅子に座り、購入したパンを袋からテーブルにばらまく。
勢いで一緒に食べることになったけど、こうやって二人きりになるのは高校の時以来かもしれない。
「そのパン、好きなの?」
勢いよくテーブルに転がったパンを指さしながら、紗季は向かいの椅子に座った。
「いや、売れ残りで一番安かったやつ。食べたことない」
なんかだか格好つかない。パンより弁当の方が良かったか?
「善人って...お昼、いつも売店なの?」
「いや、悠人が一緒の時は学食が多いかな」
もちろん紗季も悠人のことは知っている。高校の時に、俺を介して3人で会話した記憶がある。
「柊くん……昨日、怖い顔で睨まれた」
あ、それはたぶんサークル練習の時のやつですね、はい。
「あ、その節は本当に申し訳なく。悪い奴じゃないんだけどね、あいつも」
顔は良いし悪い奴ではないんだけど、俺に関わることになるとちょっと、ね。
遠慮というか、ブレーキがうまく動作しないというか。暴走機関車みたいなそんなイメージ。
「...私、何かしたかな? すごく睨んでたけど」
「違う違う、あれは本当に悠人が悪くて」
今度、悠人に会ったら強めに言っておこう。さすがにこれは紗季に悪い。
「紗季は、悪くないよ」
申し訳ない気持ちでこぼした俺の言葉に、紗季はハッとした表情で顔を上げる。
「…紗季」
釣られて顔を上げた俺と目が合った紗季は、焦っているのかあちこちと目線が落ち着かない。
...あれ?下の名前で呼ぶのはNG?馴れ馴れしかったか?
「あ、ごめん。篠宮さんが良かったか?」
言いながら、心臓の辺りがチクッと痛む感覚。一瞬で遠くなった紗季との距離に、正体不明の感情が沸き立つ。
「ち、違うの! 紗季......で、いい!」
身体を長机に乗り出して否定する紗季。勢いよく長机にぶつかってしまい、机の上のペットボトルが倒れてしまう。
「ご、ごめん!」
「あぁ大丈夫! 蓋してたから大丈夫、落ち着いて」
謎に二人であたふたした後、少しの沈黙が訪れる。
「……ふふっ」
耐えきれないように小さく吹き出す紗季。口に手を添えてうつむいているが、小さく肩が震えているので全然隠せてない。
「なんかツボるところ、あったか?」
「……ふふっ。なんだか、善人とのこういうの……懐かしくて」
柔らかい笑みをこぼす紗季。相変わらず、笑った時の破壊力は高い。
「別に、このくらい普通だろ。何も特別じゃない」
そう、当たり前。このくらいスムーズに会話したい。元恋人という鎖があったとしても、友人としての付き合いは可能なはず。
多少のいざこざがあったとしても、年齢的にはもう大人なんだから。
「...じゃ、じゃあさ。またお昼とか」
緊張から解放されて油断していた俺に、紗季はおずおずと踏み込んでくる。
「誘っても……いい?」
......反則技だと思う。心の中でイエローカードを掲げながら、見慣れない包装から覗くパンにかじりつく。
このパン、味がまったく分からない。こんな昼食は、ちょっと困るかもなぁ。
ウサギ感、ってこんな感じなのか?わからない




