「じゃあ」ってなんだよ
菅原 善人
平穏な大学生活を過ごしたい、ハンドボールサークルの主人公
葵 まもり
小動物系幼馴染(♀)、メッセージを既読無視され続けるヒロイン
篠宮 紗季
クールなウサギ系元カノ、ひと睨みで退散する最弱メンタル
柊 悠人
中性的な美形幼馴染(♂)、圧倒的正妻感が否めない
「んじゃ、みんなお疲れさーん!」
サークル仲間とダラダラしゃべりながら練習コートを出ると、スポーツ後のほどよい解放感と夜風が肌をなでる。しっかり汗を流した後のこの感覚、やっぱり好きなんだよな。
キャンパスの入口でチャリ徒歩組のサークル仲間と分かれたタイミングで、バッグの中のスマホを確認する。
通知画面には悠人から『週末空いてるよ』と短いメッセージが見えた。そして、まもりからは既読無視に対するスタンプが追撃されていた。
とりあえず、悠人には『週末了解』と返し、まもりには……
今は長文を打つのが面倒くさいので、とりあえず「謝罪スタンプ」だけを返しておく。
大学から自宅までは電車で3駅ほどの距離。電車組のサークル仲間と「今日のディフェンス連携、良かったよな~」なんてしゃべってたらもう最寄り駅、別れの挨拶だけして颯爽とホームに降り立つ。
ホームの階段を降りて、人通りも疎らになった改札を出た瞬間、ポケットの中でまたスマホが震えた。
たぶん、まもりからだろう。
(わかったって、帰ったらちゃんと返信するって)
心の中で突っ込みつつも、思わず口元が緩んでしまう。これ、傍から見たらただのにやにやしてる不審者だな。
顔と気を引き締め直して、自宅の方向に足を向ける。
あ、そうだ、晩飯買って帰らないと。
今年から始めた待望の一人暮らし。掃除や洗濯は大変だけど、一人の時間を満喫できるこのフリーダム感は正直たまらない。
残念なことに現在彼女はいないので、この一人暮らしのポテンシャルを最大限に活用できているかと言われれば......まぁ、できてない気もしないでもないが。
そんな邪念を振り払いつつ、もはや慣れ親しんだ駅前のスーパーに入る。お弁当コーナーで誇らしげに貼られた「半額」シール付きのお弁当を無事に確保。
戦利品を手にした俺は、少し浮かれた足取りで自宅に向けて歩き出した。
◇
駅から徒歩5分の好立地、広くはないけど住めば都の我が家が見えてくる。
……あれ?
(電気がついてるな)
朝出るときに消し忘れたか?いや、もしかして…
嫌な予感がしながらも足早に自分の部屋の前に到着、恐る恐るドアノブに手をかける。案の定、鍵はかかっておらず、何の抵抗もなくドアが開いた。
「あ、善人おかえりー。もうご飯先に食べたよー」
自分の家かのようにソファでくつろぎ、手を振ってきたのはまもりだった。
「お前、また勝手にひとん家に上がって…」
「てか、まず謝罪じゃない? 既読無視しすぎなんだけど?」
あ、悠人と同じ冷たい目してる。これ本気でご機嫌斜めなやつだ、やばい。
「その件は本当に申し訳ありませんでした……てか、どうした? 何か用か?」
「別に? 何か用がなきゃ来ちゃダメなの?」
とりあえず、まもりに見えないようキッチンの影に隠れながら部屋着に着替える。あれ?なんで家主の俺がコソコソ着替えなきゃいけないんだ?
そんな不毛な思考を秒で捨てさり、先ほど手に入れた半額シールの戦利品をレンジに放り込んだ。
「ホントにごめんて。お詫びにスイーツ食いに行こうぜ。週末だったら悠人も暇らしいから」
「……悠人も?」
ピタリと動きを止めるまもり。あれ、これは昼間に悠人が言っていた「デートじゃないの説」が正しかったパターンか。
「いや、俺は別に二人でもいいけど、デートみたいに見えるぞ?」
「……じゃあ、3人でいいよ」
じゃあってなんだよ。どういう意味の「じゃあ」だよ、それ。
タイミングよく電子レンジの『チン!』の音が鳴り響く。
ふとテーブルを見ると、キレイに食べ終えたコンビニ弁当の空き容器が転がっていた。まもりは本当にここで晩飯を済ませていたらしい。
「もしかして、うちのことカフェ感覚で利用してます?」
「えー、善人ひどーい。せっかくこんな可愛い幼馴染が会いにきてるのにー」
とても魅力的な台詞が、あからさまな棒読みで読み上げられる。まぁこいつ顔はだけ良いからね、あながち間違ってないのがちょっとだけ悔しい。
もう限界、とりあえずまもりは放置して弁当を食おう。
少し温め過ぎた半額弁当を片手に、まもりの隣に座る。パックのふたを開け、食欲を誘う香りが空っぽのお腹をさらに刺激する。
言いたいことは吐き出し切ったのか、大人しくスマホを弄りだしたまもりを横目に、俺は弁当を口に運ぶ。
やっぱり半額弁当は美味い。定価より半額の方が絶対美味しく感じる、プラシーボって本当に大切。
「じゃあこれ食べに行きたい。期間限定らしい」
まもりが見せてきたスマホの画面には、色鮮やかなイチゴが盛られたスイーツの写真。
「え、めっちゃ美味そうじゃん」
なんだかんだ文句を言い合いながらも、こうやってうまくやれてるんだから、やっぱり幼馴染は良いもんだ。
こいつは顔も可愛いんだから、さっさと彼氏でも作って大学生活を満喫すればいいのに。
「てか善人、今日も半額弁当なの? 身体に悪くない?」
「そういうまもりだってコンビニ弁当じゃん、変わらなくね?」
大学生の一人暮らしだと、どうしても毎日自炊は難しい。たまに自炊もするけどね。焼きそば3玉とか、パスタ3人前とか。
「ご飯作ってもらえば? 悠人とか好きそうじゃん」
「それやりだしたら本気で笑えんぞ」
お願いしたらノリノリでエプロン着て作ってくれそうな気がする。リアルに想像できてしまうのが怖い。
「逆にさ、こういうシチュエーションなら、まもりが晩飯作って待ってる方がまだ現実的だろ」
言いながら首だけで振り返ると、こちらを向いていたまもりと目が合う。すぐにサッと顔を背けられてしまう。
「……意味わかんない。別に善人の彼女じゃないし、私」
言葉なく伏し目がちに、少し赤くなった耳を隠すように髪を弄るまもり。
「知ってる。あとその理屈でいえば、悠人も彼女じゃないしな」
なぜか焦りながら早口で突っ込みながら、半額弁当を咀嚼する俺。少し気まずい空気は、俺が半額弁当を食べ終わるまで続いたのであった。
自宅押しかけ系幼馴染、これさいつよでは?




