正妻感が否めない
菅原 善人
平穏な大学生活を過ごしたい、誠実でありたい主人公
葵 まもり
小動物系幼馴染、毎日メッセージ送る程度のウザ可愛さ
篠宮 紗季
クールなウサギ系元カノ、付かず離れずの距離感
柊 悠人
中性的な美形幼馴染、愛が重そう、だが男だ
「サイド上がった!ポストそっち行った!」
「はい出る!ポスト見て!」
屋外の練習用コートに真剣な掛け声が響く。涼しい風が汗ばんだ肌に心地いい。
ボール回しに合わせて、ディフェンスの動きを横目に息を整える。大学のハンドボールサークルとはいえ、なんやかんやでうちのサークルは真面目にやってる方だ。
サイドからのパス回しで45が動く。1歩目のステップを潰しにディフェンスが前に出る。俺はすかさずディフェンスの背後に付いて、イン側をブロックする。
2対1で簡単に抜き去られたディフェンスを、フォローするように隣のディフェンスが前に出る。ボールを持つ45はそのまま外に1ステップでディフェンスを引き付けながら、鮮やかな股下パスをポストの俺に通す。
完全フリーでシュート態勢に入る俺を見て、たまらず詰め寄るキーパー。6メートルラインを高く飛び越え、キーパーとの空中戦、一瞬の駆け引き。俺は倒れこみながら、対角の右隅にシュートを放つ。
◇
「はい、攻守交替!その前に10分休憩!」
先輩の声で一斉に力が抜け、コート脇のベンチへ向かった。肩で息をしながら汗を拭いていると、すっと冷えたスポーツドリンクが視界に差し出される。
「お疲れ、善人」
「うお、サンキュ」
ボトルを受け取り、一気に喉を鳴らす。うちのサークル所属でもないのに、当然のような顔で佇む悠人。冷えたスポドリにタオルまで用意している手際の良さだ。
「菅原ぁ〜、お前今日も『彼女』同伴かよ~、羨ましいなぁ」
「彼女通り越して夫婦だな。愛されすぎだろ」
サークルの同期がニヤニヤしながら冷やかしてくる。
「ふふ、彼氏のサポートは彼女の務めだからね。善人は僕がいないとダメだし」
乗っかるように澄ました顔で悠人が微笑む。これが様になっちゃうから、美形って反則だ。
「僕たち、夫婦漫才の息ぴったりだし」
「漫才言うとるやんけ、いい加減にしろ」
周りの奴らは爆笑しながら、各々くつろいで休憩している。いつものお約束みたいなやり取りだが、今日はなんだか悠人の目の奥があんまり笑ってない気がする。
悠人から受け取ったタオルで汗を拭きながら、バッグからスマホを取り出す。画面を見て思わず「うわっ」と声が漏れた。メッセージの通知数が、エグいことになっている。
そういえば、昼間にまもりから来てたメッセージ、既読無視したままだ。
『善人、既読無視すなー』
『餓死?』
『悠人に襲われた?』
メッセージの後に大量の「返事しろ!」と書かれたスタンプの連投、嫌な汗が出る。
『すまん、サークル練習だった』
とりあえずそう返信を打って溜息をつく。
「うわっ、なにその連投、まじキモいね」
気付いたら真横に座っていた悠人が、遠慮なしに俺のスマホを凝視していた。いや俺のプライバシーわい。
「そう言ってやんな、俺が既読無視したのが悪いんだし」
「あ、これまもり?やっぱあいつ、重くてキモいね」
めっちゃいい笑顔で毒を吐く悠人、顔と発言がまったく合ってない。あなたの幼馴染でもあるんですけどね、まもりさんは。
「そういえばさ...」
ベンチに置かれた俺の飲みかけのスポーツドリンクを手に取りながら、悠人が思い出したように口を開いた。
「さっき、練習コートの入口付近で篠宮さんを見たよ」
「え、紗季が?」
悠人は遠くを見つめながら、ペットボトルの蓋を開けて静かにのどを潤す。
「......紗季、ねぇ?」
なぜだか悠人は、紗季のことを良く思ってないらしい。俺が「紗季」って名前で呼ぶのも嫌がるほどには。
「僕が軽く睨んだら、そそくさと逃げてったよ」
こいつほんとに容赦ないな、顔が良いから許されてる感あるけど。
「善人の視界に入るのは許されない」
迷いのないまっすぐな瞳で練習コートを見つめる悠人に呆れつつ、俺は高校時代の頃を思い返す。
体育館の入口の扉に隠れて、不安そうな顔して練習を眺める姿。
(そういえば……高校の時も、よく練習を見に来てたっけ)
高校の時に練習を見てたから、大学でも練習を見に行きたい、ってのは普通なのか?
いやそうはならんやろ。だって、あの時は付き合ってたんだし。今は恋人でも何でもないわけで。
ピコン、とスマホが鳴って現実に引き戻される。画面にはまもりからの返信。
『ふーん、別にいいけど。じゃあ今度、詫びスイーツね』
いや、別にいいなら詫びも要らんやろ、と思いながらも口元が緩む。
『わかった。悠人の予定も聞いてみる』
返信を打ちながら、隣からスマホ覗かれてるオーラをビンビンに感じる。いやだから俺のプライバシーわい。
「ねえ善人」
横から画面を覗き込んでいた悠人が、ひょいと首を傾げる。
「それって、普通にデートなんじゃない?」
「は? デートなわけないだろ。相手はまもりだぞ?」
外で遊ぶ時はいつも3人。悠人と二人で遊び行くことはあっても、まもりと二人でなんてほとんど記憶にない。
「ふーん。まぁ、善人がそう思うんだったらいいんだけど」
子離れができない親鳥のような顔をしてる悠人。いや、俺も大学生ですし、そろそろ飛び立てますよ?
「……悠人もそろそろ俺離れしないとなぁ」
「善人が彼女作ったら、考えてあげなくもない......かな?」
◇
「練習再開するぞー!」
コートから先輩の呼び声がかかる。俺は立ち上がり、タオルを悠人に渡した。
「じゃ、俺戻るわ。いつもありがとな」
「いいよ。じゃあ僕は先に帰るね」
ベンチから静かに立ち上がった悠人は、軽く手を上げて微笑んだ。
「ふふ、彼女だからね。このくらい当たり前」
「……だから『彼女』言うな」
背中に向かって突っ込みを入れつつ、俺は苦笑いしながらコートへと走っていった。
むむ?なんだか幼馴染(♂)の正妻感が否めない、こんなはずでは...




