平穏の終わり、青春の始まり
初投稿のため、お手柔らかにお願いします。
誠実な主人公(♂)
あざとい幼馴染(♀)
未練ある元カノ(♀)
重めな幼馴染(♂)
大学生っぽいゆるい日常と人間関係が書けたらいいなと。
『―大丈夫。善人は悪くないよ』
『僕がついてる。善人は何も気にしなくていいんだよ』
『……ごめん。私じゃ、支えてあげられない』
今でも、まだ消えてくれない。
すべてがあの時のまま、止まっている。
◇
大学生活は「平穏に過ごそう」と決めていた。真面目に勉強して、誠実に友達と向き合い、目の前のキャンパスライフを楽しむ。……のはずだった。
「おーい、善人。昨日の講義のノート見せてくんね?」
「おっけ、後で送っとくわ」
「菅原くーん、また明日ね~」
手を振って去っていく友人たちを見送りながら、ポケットからスマホを取り出す。
俺の名前は、菅原 善人。菅原道真の「菅原」に、善人と書いて「善人」。いや、別にぜんぜん善人ではない、誠実でありたいとは思っているが。
大学生活ももう3年目、気付けばそろそろ将来のことも本格的に決めないといけないお年頃。
そこそこ真面目に大学生活を送っている。そこそこ仲のいい友人もいるし。
まぁ友人からしたら「講義ノート要員」の可能性は大いにあるが、それもまた友人の一つの形だろう。
恋人はいない。好きな異性もいない。別に募集もしていない。
「大学生なんて遊んでなんぼでしょ!」って幻聴が聴こえてきそうだが、まぁ分からなくもない。
過去の恋愛のトラウマが~、とかでは一切なく。高校の時は普通に振られて落ち込んだりはしたけど。
「善人。既読無視はよくないと思うな」
急に横から視界に入ってくるのは、透き通るような白い肌。綺麗に手入れされた指先、折れそうなくらい細い腕、見上げると無駄に整った顔立ちをした――悠人だった。
「無視じゃなくて講義中だったんだよ。束縛女かよ」
「悠人が変な女に引っかからないようにチェックしてるだけ」
ノートの写真を撮る俺を見下ろしながら、大げさに溜息をついたこいつは、幼馴染の柊 悠人。幼稚園からずっと一緒で...何年の付き合いになるのかは、もう数えてない。たぶん食べたパンの数とだいたい同じ。
「その辺のクソ雑魚女と一緒にしないで欲しいな」
中性的な見た目のせいで男女問わず人気は高いが、本人はそれらに一切興味がない。なぜか俺に近づく人間をすべて監視しようとする、超絶に重い幼馴染である。
「昼、どうする?学食行くか?」
「そうだね。あ、善人。スマホ鳴ってるよ」
机の上のスマホを開くと、写真付きのメッセージが届いていた。
『今日のお弁当!まもりちゃんも可愛い!』
送られてきた写真には気合の入ったキャラ弁?と、カメラ目線でキメ顔のまもりが写っていた。
「うわぁ……あざといねぇ。わざわざ弁当の写真まで送ってアピール?」
横から覗き込んだ悠人が、嫌悪感をまったく隠そうともせずに吐き出す。
「お前なぁ、言い方……」
送り主は葵 まもり。まもりも悠人と同じく幼馴染、こっちも幼稚園からずっと一緒で...以下同文。
まもりは同じ大学だが、俺や悠人とは別のキャンパスに通っている。普段、大学ではめったに会えない。が、こうやって意味もなくメッセージやら写真やらを毎日のように送ってくるため、ほとんど毎日会っている感覚に近い。
昔からこんな感じで無駄に距離感は近いが、不思議と恋愛感情を抱くことはなかった。どこまで行ってもいい親友、ってやつ?たぶん向こうも、そんな感じなんだと思う。
「ま、返信は後でいいや。学食行こうぜ」
◇
悠人と昼飯を済ませ、午後の講義も終了した。
今日はハンドボールサークルの練習日で、練習着も忘れず持ってきてる。昨日の予報では「降水確率20%」とか言ってたけど、どうにか雨が降らなくてよかった。
練習コートが空くまでまだ少し時間があるので、俺は自習スペースに足を向けた。そろそろテーピングが無くなりそうだったよな、なんて考えながら図書館に入る。
静かな玄関フロアを進むと、廊下から出てきた誰かと視線がぶつかる。
「あ…」
「...うっす」
思わず声が漏れそうになったのを何とか隠して、なんとか挨拶だけ返した。
篠宮 紗季、俺と同じキャンパスに通う、高校時代の元恋人だ。最近は大学内でも会うことが少なかったから、正直油断していた。もう何年も前の話なのに、本当に女々しい人間だな、と顔を合わせるたびに凹んでしまう。
そのまま通り過ぎる。かと思ったら、遠慮がちに服の袖を引かれた。
「......えっと。なにしてんの、善人」
「あ、いや。サークルの練習まで時間あるから、自習室行こうかと」
自習室の方を指さして、紗季の視線から顔を逸らす。やはり、二人きりで話すのは慣れないな。
「ふーん。サークル……ハンドボール?」
「うん、ハンドボールサークル。まぁでも高校に比べたら、かなりゆるい感じだけどね」
高校のハンドボールはかなりガチってたからなぁ。いや高校の部活ってだいたいガチなんだけど。
少し俯いて黙り込んだ紗季は、意を決したように顔を上げてつぶやいた。
「...…今度さ、その、見に行ってもいい?」
「え?いや、普通の練習だから、見ても面白くないぞ?」
想定外の紗季の申し出に、焦って否定的な返答してしまう。こういう所は直した方がいいな、俺。
「……そっか。なんか、ごめん」
紗季は表情を曇らせながら俯くと、つまんでいた俺の袖をそっと離した。
......相変わらず、紗季との会話はどこか噛み合わない。
気まずい沈黙が空間を支配して、次に紡ぐべき言葉が出てこない。
「じゃあね」と短く告げて、紗季が出口に向かって歩き出す。
小さくなるその背中を見送りながら、俺は小さく息を吐いた。
「平穏な大学生活」はたぶん、すぐ崩れそう。




