パートナーの誓い
―ピッ、ピピッ
鳴り響くアラームの音で目が覚める。今日は朝からあいにくの天気のようで、部屋の中はいつもよりうす暗い。
―ピピピッ、ピピp
もぞもぞと身体を起こし、耳障りな音を立てる目覚まし時計を止める。
ごろんっと大きく寝返りを打ち、枕元で充電していたスマホに手を伸ばす。
ホーム画面に表示されている今日の天気を確認する。くもり時々晴れの予報だ。
今日は土曜日、体育館でのサークル練習の後に、紗季とデートの予定。とりあえず天気は問題なさそうだな、と一安心する。
そのままスマホの画面を消して、再び寝返りを打って仰向けになる。ぼんやりと天井を見上げながら、ふと昨日の夜のことを思い出す。
『私。善人の、彼女に......なりたいから』
真剣な表情で見つめてくるまもり。
突然の告白に言葉が出てこない俺を見て、まもりは優しく笑った。
別に、今は返事いらないから、と。
それだけ言い残すと、まもりはそそくさと帰っていった。日曜の予定はまたメッセージで連絡する、とのこと。
「まもりからのメッセージは...まだ来てないな」
メッセージアプリを開いてみるも、新しい未読マークは付いていない。
んー、さすがにこっちから連絡するのは、ちょっと...違う気がする。
一晩経って、冷静に思い返す。
あんな真正面からの告白を受けておいて、俺は返事もしてない。
…ダメすぎるな、俺。
改めて、自分の情けなさに凹みながら大きなため息をつく。天気が悪いと心まで暗くなる、良くない良くない。
切り替えてこう、と勢いをつけて起き上がると、手元にあったスマホが小さく震える。
『おはよ。朝ごはん、もう食べた?』
スマホを開くと、悠人からのメッセージが届いていた。俺の起床時間を正確に把握している、さすが悠人だ。
『おはよ、今起きた。まだ食べてない』
そう返信すると、すぐに既読マークが付く。こいつ......見ているなッ!
『よかった。今から部屋行くね、すぐ着くから』
ん?なんだか急展開で話が進んでいる。この感じだと、すでに家を出てるっぽいな。
...あ、普通にメッセージ返してしまった。よく考えたら、悠人も『幼馴染やめる宣言』してたんだった。
まぁ考えても時間の無駄か。とりあえず、悠人が到着する前に顔だけでも洗っておこう。
俺は急いで立ち上がり、いそいそと洗面台に向かた。
◇
「いただきます」
「はい、どうぞ召し上がれ」
目の前に用意された悠人特製の朝ごはん。からっぽのお腹が立ち上る香りに刺激される。
一仕事を終えた悠人は、ゆったりと俺の隣でくつろいでいる。
俺から見る限り、今日の悠人はいつもとまったく変わりがない。
いろいろ聞きたいことはあるが、とりあえずは冷めないうちに朝食を頂くとするか。
薄切りのハムが乗ったサラダに手を伸ばす。食事はまずサラダから、といつも悠人に口酸っぱく言われてるから。
黙々と食べ進める俺をよそに、悠人はベッドの方を向いてスンスンっと鼻を鳴らしていた。
「ねぇ、悠人。もしかして...」
名探偵のような顔つきをした悠人は、静かに俺に問いかける。
「昨日...まもり、来てた?」
…すごいな、ちゃんと換気したのに。いや、別にやましいことはしてないけど。
「あぁ、昨日の夜ね。いつもどおり、ベッドでゴロゴロして帰ってったよ」
いつもどおり、ってのは少し語弊はあるかもだけど。さすがに告白された、って自分の口から言うのは憚られる。
ふーん、と興味なさげに答える悠人。鋭く光るその目は、今にも真実を暴こうとしている。
「てか、どうしたん?朝から来る、って珍しいじゃん」
これ以上の追及を避けるために、多少強引ぎみに話を変える。
事実として、悠人は泊りでそのまま朝を迎えることはあっても、わざわざ朝から出向いてくることは今までなかったはず。
さきほどまでの名探偵の気配は消え去り、穏やかな表情を見せる悠人。
「そうだね。ちょっと、伝えたいことがあって」
そう呟いた悠人は、傍らに置いていたショルダーバッグに手を伸ばした。
◇
朝食を終えて綺麗に片付けられたテーブルの上には、見慣れない書類が並べられていた。
「昨日、善人と別れてからいろいろと動いてたんだけど」
わざわざテーブルの向こう側に移動して、正座で向き合う悠人。想定外の展開に、全然頭がついて来てない。
「法学部の友達に相談したら、たたき台だけならすぐ作れるって言われて」
珍しく緊張してるのか、いつもより早口でまくし立てる悠人。そんな悠人の姿に、不謹慎にも可笑しくなってしまう。
小さく笑い声をこぼした俺に気付いたのか、悠人は怪訝そうな顔でこちらを見つめる。
「あぁ、ごめん。珍しく早口な悠人を見てたら、つい」
平謝りする俺の言葉に、毒気が抜かれたように呆ける悠人。少しだけ間を置いて小さく笑うと、悠人からさっきまでの緊張の色が消えていた。
「善人。真面目な話なんだよ、ちゃんと聞いて」
落ち着きを取り戻した悠人は、まるで先生のような口調でゆっくりと語り掛ける。
「これが、僕の覚悟だよ」
悠人は目の前に置かれた書類を指差した。
『同性パートナーシップ契約(合意契約)』
「僕は、幼馴染をやめるよ」
そこには「財産管理」「医療や介護の同意権」「遺言」などの単語が並んでいる。それらの単語は目に入るだけで、脳はいまいち状況を理解できてない。
悠人は身を乗り出してスッと俺の手を取ると、誓いの言葉のように胸に秘めた想いを紡いだ。
「善人のパートナーに、なるために」
幼馴染(♂)、参戦!こんなつもりじゃなかったのになぁ...




