幼馴染の呪い
「善人、おかえりー」
紗季と別れた後、いつもの半額弁当をぶら下げながら帰宅した俺を迎える声に立ち尽くす。
ベッドの上でくつろぐまもり。あぁ、これ先週とまったく同じ景色だな。
先日飛び出した『幼馴染やめる宣言』が嘘のように、いつも通りのまもりが存在していた。
…なにこれ?タイムリープものに路線変更したのか?
「何してんの、善人。早く上がれば?」
ベッドの上からこちらを覗き込んでくるまもりは、まるで家主のような態度で話しかけてくる。
「いや、勝手に上がってるのはそっちな。あと、ここ俺んち」
靴を脱ぎながらいつも通りのノリで返す。冷静を装いながら、冷蔵庫の中からスポーツドリンクを取り出して一息つく。
まもりが普通に家に来ている。幼馴染やめる宣言後、今日が初めての顔合わせ。
テーブルに本日の戦利品をドサッと置くと、まもりが身体を起こしてこちらを向いた。
「おかえり」
「おう、ただいま」
俺とまもりはよそよそしい挨拶を交わす。もしかして、これが幼馴染やめた距離感なのか?
「えーっと、明後日のデート。時間とか、決めてなかったから」
手を伸ばしてスマホを俺の方に向けるまもり。先日約束したお洒落なカフェの画像が表示されている。
あ、デートはするんだ。こっちから確認のメッセージを送ろうと思ってたけど、下手に刺激しなくてよかった。
「…なに?もしかして、行きたくないの?」
なかなか返事をしない俺に不安になったのか、まもりは少し不機嫌そうな顔で目を逸らす。
「違う違う!幼馴染やめる、って言ってたから。デートも無しになったのかと思って」
慌てて返事をしながら、こっそりとまもりの顔色を伺う。
目を伏せてしばらく黙り込んだまもりは、自分の膝を抱え込むようにして小さく座りなおした。
「善人、もしかして…意味、わかってない?」
膝に顔を乗せたまま、上目遣いで見つめてくるまもり。あざといな、角度をよく理解している。
『幼馴染やめる』の意味、ねぇ。
そりゃあ、幼馴染やめる、って言われたら。誰だって『悪い方』で考えるに、決まってるじゃん。
勘違いして痛い目みたくないし。ダサいし、めっちゃ痛いし。
「私ね。幼馴染って『呪い』なんだ、って思う」
苦い顔で吐き捨てるようにつぶやくまもり。予想外の言葉に、ぐっと息がつまる。
「善人との幼馴染の時間。楽しかったし、幸せだった」
すらっとしたまもりの指先が、シーツの皺をなぞるようにゆっくりと動く。
「居心地がよくて、生ぬるくて、抜け出せない」
まるで『ここが終点』と示すかのように、まもりの指がピタッと止まる。
「気が付いたら、前にも後ろにも進めなくて」
苦しそうな顔を膝に埋め、まもりの指先は力なくシーツの上に倒れる。
「善人は優しいから。絶対に私を見捨てない、って知ってるから」
まもりはゆっくり顔を上げると、ごめんね、と小さくこぼした。
「だから、幼馴染をやめよう、って決めたの」
ようやく、まもりは笑顔を浮かべる。つい先日、強い意志を感じたあの瞳で見つめてくる。
「私。善人の、彼女に......なりたいから」
こねくり回さず。シンプル is ベストと言いますし




