続・幼馴染やめる宣言
「そっか。まもり、そんなこと言ったんだ」
うどんをちゅるんと啜りながら、向かい側に座る悠人はぽつりとこぼした。
ピークタイムの学食はそれなりに混雑していたが、どうにか二人分の席は確保できた。
俺は日替わり定食の白身フライにかじりつきながら、綺麗な所作でうどんを食べ進める悠人に問いかける。
「まもりから、何か聞いてない?メッセージも来ないからさ」
定時連絡のように届いていたメッセージと自撮り写真も、あの日からぱたりと途切れてしまった。
うどんを完食して「ごちそうさまでした」と両手を合わせる悠人。両手で持った紙コップに口を付けながら、じっとこちらを見つめてくる。
「なーんにも。僕は普段から、まもりとは連絡なんて取ってないし」
…それ、本当かぁ?にしては俺の情報がリークされるの、早過ぎじゃね?
悠人に向けて疑惑の目を向けつつ、まだ半分ほど残っている日替わり定食を食べ進める。
「でも、どういう意味なんだろうな。幼馴染、やめるって」
ほとんど具のない味噌汁を流し込みながら、先日のまもりの言葉を思い返す。
文脈的に見れば「幼馴染、というか友達やめます」みたいな意味にもとれる。
あとは「幼馴染を越えた関係を...」って可能性も、無くは...ないのか?
「まぁ、普通に考えたら『恋人になりたい』って意味だよね」
音を立てずに紙コップをテーブルに戻した悠人は、平然とした顔で後者を選択した。
「でも、あのまもり...だぞ?」
「まもり、善人のこと大好きでしょ。何をいまさら」
悠人にからかっているような素振りはない。当たり前のことを言ってるだけ、といったテンションで話を続ける。
「あいつ、基本ビビりじゃん。ちょっとわがまま言うだけで」
たしかに、まもりはわがままなイメージはある。だけどそれは、いつだって『可愛いわがまま』の範疇だった。
幼馴染という関係を大きく変えない範囲で、まもりがうまいこと調整してたのかもなぁ。
「だから、正直びっくりしてる」
空になった紙コップを両手で包みながら、やさしく微笑む悠人。
「...僕も、負けてられないなぁ」
幼馴染の意地?なのか、悠人は対抗心を感じるつぶやきをこぼす。いや、この場合の「勝ち負け」って何よ。とても不毛な気がする。
「だとしたら、俺も。覚悟、決めないとな」
もし、まもりが前に進むことを望んでいるのであれば。いつまでも幼馴染として付き合うのはなしだよな。
誠実でありたい。変化するのは、まだ少し怖いけど。
ずっと変わらずに寄り添ってくれた幼馴染に、誠意をもって向き合いたい。
ふぅ、と小さく息をついて、背もたれに身体を預ける悠人。
手元にある紙コップに視線を落として、思い悩むような表情を見せる。
「僕もやめちゃおうかな...幼馴染」
悠人は顔を伏せたまま、少し冗談っぽくこぼした。つい先日の、カフェでのまもりの姿と重なる。
「それは...困るなぁ。ひとりの昼食は、ちょっと味気ない」
悠人に倣って、俺も冗談っぽく聞こえるように答える。
ちらっと悠人の顔色を伺う。ちょうど同じタイミングで顔を上げた悠人は、ふふっと自然な笑みをこぼした。
「そうだね。善人には、僕しかいないもんねぇ」
悠人はいつもの調子を取り戻したように、からかうような声色に変わる。
さすがに、二人いっぺんに幼馴染をやめるのは勘弁してくれ。
大学ぼっちは厳しすぎる、見捨てないでくださいお願いします何でもしますから。
「でも、ごめん。やっぱり僕も、幼馴染やめるね」
清々しい笑顔と共に告げられた悠人の言葉が、賑わう学食の雑音に紛れて消えていく。
呆然と悠人を見つめることしかできない俺は、立て続けに幼馴染を失うこととなった。
これでやっとスタートライン、ここからが本当のレースなのだ




