↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
18/24

ずっと一緒に


「雨、止まないなぁ。帰る頃には止んでるといいけど」


朝から降り続く雨のせいで、いつもより濁ってみえる窓越しの景色。


「......」


俺が放った渾身の天気の話題は、スマホを弄るまもりによって軽やかに無視された。


こいつ......俺が玄人だったら、天和上がってたぞ。




先週ぶりに訪れた悠人のバイト先は、ピークタイムでもないのになかなかに混み合ってる。


おそらく雨の影響か。駅から近いこの店舗は、雨が売り上げに繋がるタイプのお店のようだ。


「お待たせしました。でっかいカフェオレのお客様?」


たぶん同世代くらいであろう店員さんから、注文していたドリンクを受け取る。


一緒に注文していたアイスココアは、正面に座るまもりの前に静かに置かれた。


「ごゆっくりどうぞ」


一礼して小走りに奥に消えていく店員さん。チラっと店内を見渡してみるが、悠人の姿は見当たらない。


でっかい容器を持ち上げてカフェオレを口に含む。飲み慣れた味にホッと一息つき、目の前の不機嫌モードのまもりに目を向ける。


案の定、怒っている様子。「泣いちゃうかも...」と心配していた悠人の予想は見事に外れたようだ。




『悠人のカフェ。奢って』


今日の昼にまもりから送られてきた短いメッセージ、おそらくは先日の紗季の件だろう。


まもりが口を利かないつもりなら、むしろこちらとしては好都合だ。向こうから攻められる前に先制攻撃を仕掛けよう。


「まもり。紗季のことだけど、今度いs」

「聞いてないんだけど」


ぴしゃりと俺の言葉を遮るまもり。


...え、こわ。ガチで切れてます?こわいなぁ。


再び、目の前に鎮座するでっかい容器に手を伸ばして、渇いてもない口を湿らせる。


「......」

「......」


沈黙だけが二人の間に落ちる。先ほどの反省を活かして、俺は大人しくまもりの言葉を待つ。


ふと横目で店内を見渡すと、ちょうど通路の奥から歩いてくる悠人と目が合った。


苦笑いする俺、不機嫌なまもり。それを見た悠人は呆れた表情を浮かべる。


大げさに肩を落として息をつくと、俺に向かって「ふぁいと」と口パクの声援を残して去っていった。


まぁ、応援されたところで、今の俺に出来ることは待つことだけなんだがな。




やっと顔を上げたまもりは、目の前のカップに手を伸ばす。


ゆっくりアイスココアを楽しんでから、音を立てずにカップをテーブルに戻す。


さらにたっぷり間を置いた後、ようやくまもりの口が開かれる。


「......私は許さないから」


はっきりとした拒絶の言葉で、まっすぐに見つめてくるまもり。


その瞳には感情的な色はなく、ただまもりの強い意志だけが感じられる。


「だって逃げたじゃん。善人は、悪くないのに」


まもりはつらそうな表情を浮かべながら俯くと、ギュッと口を噤む。




『―大丈夫。善人は悪くないよ』




泣きながら掛けられた言葉。


肩に感じた体温。


背中に当てられた手の温かさ。


今でも、あの日のすべてを、鮮明に思い出せる。


いつだって俺の味方でいてくれた。


悠人とは違う距離感で、幼馴染として常に俺を支えてくれていた。


まもりが『許さない』のは、『俺を守るため』だから。




「ありがとう、まもり。もう大丈夫だから」


あの日、怖がって引いてしまった境界線。


そこから、やっと一歩を踏み出せた程度だけど。


「俺も、少しは強くなったから」


それでも、俺にとっては大きな一歩だ。




ゆっくりと顔を上げたまもりは、いまにも泣き出しそうな表情をしていた。


…...あぁ、まもりはあの日のまま、俺に寄り添ってくれていたんだな。


それは同時に、あの日からずっと『まもりを縛っていたこと』に他ならない。


『嬉しい』と『申し訳ない』が混ぜ合わさった感情に胸がざわつく。




噤んだ唇がそっと開き、まもりの想いがこぼれ落ちる。


「...私は、逃げたりしないもん。善人と、ずっと一緒にいるもん」


まもりは涙ぐんだ瞳を隠すこともなく、真っ直ぐに俺を見つめてくる。


「そうだな。俺も、まもりと一緒にいたい」


飾り気のない言葉でまもりに応える。こういう時、余計な言葉はノイズにしかならない。




…あ、待ってこれ。なんだかプロポーズみたいになっちゃってるな。




俺からの突然のプロポーズ?に気付いたまもりは、頬を赤く染めながら顔を伏せてしまう。


そんなまもりの姿を見つめながら、冷静にまもりとの関係を考える。




……正直、まもりとの関係は『友達の延長線上』でしか想像できない。


恋人のそれとは、何かが根本的に違う気がする。


小さい頃からの付き合いだから?長い時間を一緒に過ごしたから?兄妹みたいな感覚?


おそらく一番の要因は、一緒にいると『安心する気持ち』が圧倒的に大きいから、かもしれない。


『ずっと一緒』なんて関係は、友達でも恋人でも難しい。


それを成し遂げるには『幼馴染』という立場が、一番適しているのかもしれない。





「ありがとう、まもり」


ひねりのない言葉で、再び感謝を伝える。


これ以外に伝える術がないのが、少しだけもどかしい。


まもりも、悠人も、本当に俺を大切にしてくれる。自分のことを二の次にして、当たり前のように俺を優先してくれる。


今更だけど、もっと感謝しないとなぁ。




「......今回は許してあげる。善人がいいなら、勝手にすればいいし」


いつもの不愛想な顔に戻ったまもりは、不機嫌そうに窓の外に顔を向けた。


そうだよ、俺たちは幼馴染なんだから。


真面目な話もいいけどさ、やっぱりバカな話をしてた方が健全なんだよ。


「そうだな。まもりもそろそろ、彼氏でも作ればいいよ」




―ピキッ




と、音が鳴った気がした。嫌な予感がして顔を上げると、まもりが感情のない笑顔でこちらを見ていた。


「...へぇ~。そんなこと言うんだ、善人」


あ、これはやばい。恐ろしいほどに目が笑ってない、なんとかしないと。


「いや、まもりはひいき目に見ても可愛いし!うん、断るやつなんていないだろ」


ほとんど脊髄反射で早口にまくしたてる。結果的におべっか使っただけみたいになったが。


…まぁ、嘘はついてない。まもりは顔だけは良い、ってのは事実だし。




まもりは張り付けていた笑顔を消して、少し考えるような素振りを見せる。


どうやら、初期消火には成功したようだ。まもりにバレないように、小さく胸をなでおろす。




ふぅ、と小さく息をつくまもり。


「...あのさ」


俯いたままの状態で声をかけてくるまもり。テーブルの下で指を弄りながら、もごもごと言葉を濁す。


意を決したように顔を上げたまもりは、俺の目をまっすぐ見つめながら口を開いた。






「私。幼馴染、やめるね」


遠くで呼び出しベルの音が聞こえる中、俺は何も言えずにまもりを見つめ返すことしかできなかった。


動き出したひとつの関係は、波紋のように水面を揺らす

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。