喫茶店での決別
「もう一度、善人と。友達以上になれる、チャンスを」
俯きながら言い切った紗季の肩は、小さく震えていた。
「それは......」
言葉が、続かない。
そもそもの話。俺が許可するものなのか?誰かに許しを得るようなもの?
俺と紗季は、もう終わった関係なんだと思っていた。
…いや、本当は『目を逸らしたかっただけ』なのかもしれない。
「......もう二度と、逃げたりしないから」
俯いたまま、今にも消え入りそうな声で言葉を続ける紗季。
『……ごめん。私じゃ、支えてあげられない』
あの時の紗季の言葉。今でも鮮明に思い出してしまう。
あぁ、いまだに傷は癒えていないみたいだ。相変わらず女々しくて、嫌になるね。
「お願い...」と消え入りそうな声がこぼれる。
……あぁ、もうわかんねぇ。
だって俺、振られた側だし。
紗季のことは嫌いになったわけじゃない。
むしろ、嫌われたくないって思ってるほどだ。
これ以上、嫌われたくなくて。あの日から勝手に線を引いて。
急に近付いた紗季との距離に、こんなにも怯えてしまっている。
結局、俺は『怖がっていただけ』なのかもしれない。あー、ぜんぜん恰好つかないなぁ。
膝の上で手を強く握りしめながら、紗季はただ静かに俺の返答を待つ。
「...チャンスとか、ちょっとよく分かんない」
言葉を飾らず、正直な気持ちをそのまま吐き出す。
「ただ、紗季のことを拒絶する理由はない」
ゆっくり顔を上げて、まっすぐに俺を見つめる紗季。目を逸らさず、ゆっくり言葉を続ける。
「紗季のこと、嫌いになんてなってないから」
あの時から、ずっと止まったまま。だったらまた動き出せばいい。
リハビリは必要かもしれない。またダメになってしまうかもしれない。
それでも、前に進む方がいい。怯えて怖がるだけの毎日に、そろそろさよならしよう。
「......じゃあ、どっか出掛けるか」
誰かをデートに誘うなんて、それこそ高校の時以来かもしれない。まぁ、その時も誘った相手は紗季だったんだけど。
紗季は俺の言葉に、一瞬だけ驚いた表情を見せる。すぐに安堵したような表情に変わり、ゆっくりと口を開く。
「...うん、ありがとう」
想いの込められた紗季の言葉に、少しだけ心が温かくなる。紗季とのあの日のいざこざを、今やっと乗り越えられた気がする。
「...ふふっ。思い出しちゃうな、高校の時のこと」
紗季は結露したグラスを手に取りながら、こぼれる笑いを堪えきれない様子でつぶやく。
「あの時も善人が誘ってくれたよね。最初のデート」
長いこと目の前に放置されていたケーキをフォークで崩しながら、紗季は上機嫌に高校時代の思い出を語りだす。
心のどこかで拒絶していたあの頃の記憶。
少しずつ溶かしていくように、俺と紗季はぽつぽつと語り合った。
思い出話がひと段落した頃合いで、紗季が小さく手を握りしめて気合を入れる。
「...とりあえず、柊くんに負けないように頑張るね」
いや、誰と張り合っとんねん。頑張らなくていいから、そんなの。
ここから始まる紗季の逆襲、ビームで善人が石化しないように気を付けます




