すてきな笑顔
いちごスイーツで小腹を満たした俺とまもりは、駅直結の商業施設に向かって並んで歩く。
「悠人ってさ、最近バイト多くない?」
「知らない。興味ないし」
隣から素っ気なく返事をするまもりは、不自然に俺と距離を置いて歩いている。
友人の距離よりは遠く、他人の距離よりは近い。声を張るほどの距離ではないが、小声での会話は聞き取れなさそう。
…少なからず、さっきの「堂々とデート発言」が効いているのかもしれない。すべての原因は悠人にある、文句はすべてあいつにぶつけることにする。
思い返せば、実はこうやってまもりと二人で歩いた記憶はほとんどない気がする。
自宅では二人きりになることはあるけど。どこかに遊びに行くときは、だいたい悠人と3人で出掛けることが多かったし。
駅前の大きな道路に差し掛かり、信号待ちで並んで足を止める。
すぐさまスマホを取り出して操作するまもりを横目に、目の前にそびえたつ商業施設の外看板を見上げる。
『万国共通の赤と白のロゴ』と『低価格路線の青と黄色のロゴ』が目に入る。
正直、この2店舗さえあれば商業施設として合格だと思う。あとはファストフード系のお店とファミレスが入っていれば文句なしだ。
「...あのさ、来週」
他人寄りの距離感で佇むまもりが小声で呟く。音量はぎりぎりである。その距離ならもっと声出しなさい。
「......」
なかなか続きが出てこない。そろそろ青に変わりそうだな、と思いながら信号機を見上げる。
「カフェ、行くじゃん」
やっと出てきたまもりの言葉と同時に、歩行者用の信号が青に変わる。まもりの方を確認しつつ、ゆっくりと横断歩道を進む。
「あぁデートね。約束だからな」
たしか「紗季との2ショット写真」の謝罪でカフェおごり、みたいな流れだった気がする。いやなんやねんその謝罪、俺が悪いのかそれ?
ってか、よく考えたら2週連続でまもりとデートになるんだな。うーむ、財布が少し心配だ。
横断歩道を行き交う人を避けるように、一歩だけまもりに近付く。この距離なら小声でも聞き逃さないだろう。
無言のまま横断歩道を渡り終え、商業施設に繋がるエスカレーターに向かう。
「...ダサい服で来られたら迷惑。一緒に服、見に行こ」
言い終わると同時に、小走りで先にエスカレーターに乗り込むまもり。
こちらを見下ろすまもりの表情には、少しも迷惑そうな色は伺えなかった。
◇
「善人は細いから、ちょっと緩めのサイズ感も似合うよ」
手に持ったメンズ用のTシャツを俺の身体にあてるまもり。色違いと交互にあてがっては、難しい顔をしながらうんうんと唸っている。
ワールドワイドな赤と白のロゴのお店に入り、俺はまもりのマネキンに成り下がっていた。
「善人ってパンツは細身が多いから、上だけオーバーサイズにするかな」
俺に意見を求めるわけでもなく、ただぶつぶつと一人で服を選んでいくまもり。
こういうのって、あーじゃないこーじゃないって会話しながら選ぶもんじゃないの?知らんけど。
「あ、俺こういうジャケット系が好きなんだけど」
一応、俺が着る服なのでこちらの意見も主張してみる。普段から細身に合わせやすいキレイめを選びがちではある。
「んー、まぁそれも悪くないよ」
あ、そうなの?さっき、さらっと「ダサい」とか言われたので、普通にショックで凹んでたわ。
「でも普通じゃん。善人、ジャケットばっかだし」
こちらに目を向けることなく、次から次へと商品を手に取るまもり。
やがてその手はゆっくりと止まり、まもりは少し俯きながら呟いた。
「私、カジュアル寄りだから......バランス悪いし」
普段より2段階ほど抑えられた声量、俺じゃなきゃ聞き逃しちゃうね。
お眼鏡にかなう商品は見当たらなかったのか、まもりはそそくさと隣の陳列棚に移動する。
気を抜くと置いていかれそうになるので、必死にまもりの後を追いかける。
「あ、これ可愛い」と呟きながら、俺の方に歩み寄ってオーバーサイズのTシャツをあてがうまもり。
「うん、いいじゃん!これ似合う!」
いい笑顔でテンション高めに声をあげるまもり。おっと、近距離でその笑顔は反則だ。まもりさん、顔だけはいいからね。
「ちょっと試着してくる」
ほんの少しだけ早くなった鼓動を隠すように、俺は小走りで試着室に向かった。
◇
「善人、めっちゃ似合ってた。もっと買えばよかったのに」
再生紙でできた紙袋を片手に、商業施設の通路をのんびりと進む。隣で半歩先を歩くまもりは、機嫌良くステップを踏んでいる。
「ありがとな。ちゃんと来週、着ていくわ」
「......うん、わかった」
ステップを緩めてゆっくりと俺の隣に並んだまもりは、照れと嬉しさが混ざったような表情で微笑んでいた。
「あー、私もそっちのキャンパスにすればよかった......かも」
俺から目を逸らすように、そっぽ向いて呟くまもり。
ちょっとマジっぽい声色で、最後はちょっとだけ自信がなさそうに付け加えた。
「そうだな。一緒だったら、最高に楽しいだろうな」
まもりの背中を押すように、俺は力強く答えた。幼馴染3人が揃うんだから、そりゃ最高に決まってる。
逸らしていた顔をこちらに戻し、上目づかいで見つめてくるまもり。
徐々に、にやにやとした悪い顔に変わっていく。
「ふーん。私のこと好き過ぎじゃん、キモっ!」
「はいはい、大好きですよー。悠人と同じくらいな」
笑いながら下りのエスカレーターに乗り込む。いやぁ、我ながら今日はかなりいいデートだった気がする。あとで悠人に報告しておこう、そうしよう。
エスカレーターはゆっくりと下り続ける。
ふと、前に佇むまもりがクルっと振り向いて、完璧な笑顔を張り付けて見上げてくる。
「............」
ん?なぜだろう?笑顔のはずなのに、なぜか背筋が寒く感じる...
「あ、今日買った服であの女と密会したら、殺すから」
怖いよ、笑顔で言うのやめて。
感情のジェットコースター、楽しいよね




