悠人の思惑と堂々デート
「やばっ、甘ぁ!このいちご、めっちゃおいしい~!」
正面の席でテンション高めにいちごパフェを頬張るまもり。それと対照的に、真っ赤に彩られたいちごケーキを黙々と口に運ぶ左隣の悠人。
俺は目の前のいちごタルトをそっと手に取り、程よい硬さのクッキー生地の食感をかみしめる。
ふんわりと鼻を抜けていく華やかないちごの香り。いちごソースの甘酸っぱさと生地の濃厚なバターの風味をゆっくり味わう。
「そういえば、まもり。今週からダイエットする、って言ってなかった?」
「はぁ?今週頑張ってダイエットしたから、これがそのご褒美じゃん」
悠人は呆れたように大きくため息をつき、ケーキの上の鎮座するいちごにフォークを突き刺す。あ、悠人はケーキの上のいちごは途中で食べる派なんだ。
「別にまもりは太ってなくね?無理にダイエットしなくてもいいだろ」
アイスティーで口を潤しながら、正面に座るまもりの身体を凝視する。二の腕や太ももなど、見える範囲ではむしろ細身の印象すらあるけど。
「は、はぁ!?こっち見んな!まじキモい!!」
テーブルの下で俺の足に蹴りをいれるまもり。あぁ、これはさすがに俺が悪いか。幼馴染とはいえデリカシーが皆無だった、反省。
「ごめんごめん。はい、これ謝罪」
残り半分ほどに減ったいちごタルトを差し出すと、まもりは目の前に置かれたいちごタルトを凝視したまま固まってしまう。
タルトって美味しいんだけど、食べてると喉渇くから2口くらいで満足しちゃうんだよね。メニューを選ぶ時、まもりもタルト食べたそうだったから、これで少しは許してもらえるだろ。
石化の魔法にかかったように動かないまもりに向かって、悠人がにやにやした表情で声をかける。
「まもり。そのタルト、食べないなら僕が貰ってあげてもいいけど?」
悠人の言葉にハッと反応を示したまもりは、悠人を睨みつけて大きく息を吸い込んだ。
「うるさい!食べる...食べればいいんでしょ!」
石化が解けたまもりは頬を少し赤く染めながら、目の前のいちごタルトにおずおずと手を伸ばした。
◇
いちごスイーツを満喫してゆっくりくつろいでいると、唐突に悠人が椅子から立ち上がる。
「じゃ、僕はそろそろバイト行くね」
突然の悠人の離脱宣言に目を丸くする俺とまもり。え、今日もバイトなの?この後も普通にダラダラと遊ぶつもりだったのに。
ふと悠人の手元を見ると、テーブルの上には既に悠人の分の代金が置いてあった。かなり計画的な犯行に見える、やはり犯人はいつだって悠人だ。
腕時計を確認しながらショルダーバッグを肩にかけた悠人は、ゆっくりとまもりの方に近付くと、ぎりぎり俺にも聞こえる声量でまもりにささやく。
「僕のことは気にしないで、二人でゆっくりデートすればいいよ」
サッと俺の方に顔を向けてウインクした悠人は、こちらの返事も待たずに手を振りながら去っていった。
引き止める暇もなく遠ざかる背中を見送りながら、黙ったままのまもりの方に顔を向ける。
「...っ!」
ちょうどこちらを見ていたまもりと目が合ってしまい、思わずお互いに目を逸らす。
間を埋めるように、氷で薄まったアイスティーを口にする。ズズッと小さく音を立てて飲み干したグラスを静かにテーブルに戻す。
「...悠人、最近マジでうざい。善人からも注意して」
手元のスマホに目線を落としながらつぶやくまもり。心なしか顔が赤くなってるように見える。こういう所が悠人にからかわれる要因なんだと思う、可愛いやつめ。
「過剰に反応すると負けだぞ?堂々としてればいいんだよ」
氷だけになったグラスをストローでかき混ぜる。くるくると勢いよく回る氷。悠人がいたら「行儀が悪い」って怒られそうだな。
「じゃあ、この後。デート......する、の?」
顔は変わらずスマホに向けたまま、まもりはこちらの顔色を伺うように上目遣いで見つめてくる。
あー......たしかに、そうなるか。
この理論なら「堂々とデートする」が真になってしまう。思ったより恥ずかしいこと言ってるね、俺。
ふと、今日の待ち合わせ場所で交わした悠人との雑談を思い出す。
『まもりはダメだよ。あいつは絶対に善人を幸せにできない』
だったら「まもりとデート」なんてそそのかすなよ、って話。悠人も案外、あまのじゃくなのかもしれないな。
「そうだな。せっかくだし、二人でデートしますか」
今から帰っても微妙な時間だし、いまさら前言撤回するのは格好悪すぎるし。悠人の思惑通りになってる気がして、かなり癪ではあるんだけども。
余計な考えを振り払いながら、テーブルの端に置かれた伝票に手を伸ばす。
「別会計はめんどくさいから、ここは奢るよ」
ゆっくりと立ち上がりながら、次の行き先をぼんやりと考える。急にデートとか言われても、もちろんプランは何も思い浮かばない。
「え、奢ってくれんの?うわ、デートだからカッコつけてる?」
ウケる、と笑いながら足元の荷物カゴに手を伸ばすまもり。さっきまでの殊勝な態度はどこに行ったんだよ。
通常運転に戻った幼馴染の声を背中に受けながら、俺はレジの方にのんびりと足を踏み出した。
あまのじゃくな幼馴染たち。この空気感は割と好き




