7. 新入りの狩魔師
「どうやら今夜は眠れそうにないな」
ヴィクターが苦笑する。
「心配いらないさ」
ソーンが自信満々に笑った
「魔獣の見えないあいつが来なくて正解だったな。
俺たち四人なら、この程度の魔獣なんて楽勝だろ」
その瞬間だった。
「ギャアアアッ!」
一匹の魔獣が叫び声を上げる。
それを合図に、四方八方から魔獣たちが飛び出した。少なくとも十体以上。
夜の闇の中では顔までは見えない。
だが巨大な黒い影が次々と迫ってくる。
魔獣は人型に近い。しかし大きさは成人男性の二倍近い。
長い尾。鋭い牙。そして妖精を思わせる大きな尖り耳。
ソーンは地面すれすれまで身を低くした。
次の瞬間、一気に前へ飛び出す。
剣が閃いた。
二体の魔獣の脚が同時に切断される。悲鳴を上げながら倒れ込む魔獣たち。
そこへヴィクターが跳び込んだ。
落下の勢いを利用し、そのまま心臓へ剣を突き立てる。
コーディアは一体の魔獣に追い詰められていた。
岩壁際まで後退する。
剣で爪を受け流しながら、頭部を狙う猛攻を避け続ける。
その時だった。わずかな光が剣身へ映る。
雲の隙間から月が顔を出したのだ。鏡のような剣の表面。そこへ一瞬だけ何かが映った。
ほんの一秒にも満たない時間。
だが十分だった。
自分の背後。岩の上からもう一体の魔獣が飛びかかろうとしている。
コーディアは即座に剣を引いた。そのまま右へ倒れ込む。
飛び降りた魔獣は狙いを外した。下にいた魔獣へ激突し、二体まとめて地面を転がる。
だが安心する暇はない。別の魔獣がすでに迫っていた。
コーディアは身をひねる。爪を紙一重でかわした。そしてすれ違いざまに一閃。魔獣の背後へ鋭い一撃を叩き込む。
魔獣の爪は粗悪な剣なら簡単にへし折る。
だが狩魔師たちの武器は違った。最高品質の武器だ。
特に南方の軍事大国ザヒール製の武器は群を抜いている。
「コーディア!」
グレンの叫び声が響く。
彼は自分を囲んでいた三体を倒したばかりだった。
振り向くと、先ほど転倒した二体が再び立ち上がっている。そしてコーディアへ襲いかかっていた。
コーディアは横へ飛ぶ。しかし足を取られ、そのまま地面へ倒れ込んだ。
一体の魔獣が大口を開く。そのまま彼女へ飛びかかった。
だが――
閃光のような剣筋が走った。魔獣の首が宙を舞う。
ソーンだった。
「大丈夫かい、コーディア姉さん?」
片手をポケットへ入れたまま笑う。
月明かりを受けた紫色の瞳が、不自然なほど輝いて見えた。
「助かったわ、ソーン」
コーディアは悪戯っぽく笑う。
そして突然、ソーンを突き飛ばした。
直後。一本の剣が二人の間を通り抜ける。
そのまま後方の魔獣の心臓へ突き刺さった。
「おいおい!」
ソーンが叫ぶ。
「気をつけろよ、この兄ちゃん!」
「大丈夫だ」
グレンが歩いてきた。刺さった剣を引き抜く。
そしてコーディアへ片目をつぶった。
「ちゃんと合図してたからな」
「どうやら、ほぼ片付いたみたいだ」
ヴィクターも合流した。
剣を軽く振る。刃についた魔獣の血肉が飛び散った。
ソーンは倒れた魔獣の群れへ近づく。しゃがみ込み、死骸を確認し始めた。
その時だった。
「ソーン! 後ろだ!」
ヴィクターの叫び声が飛ぶ。
ソーンが振り返る。巨大な黒い影が目前まで迫っていた。彼は即座に剣の腹で頭部への攻撃を受け止める。
だが次の瞬間。もう片方の爪が腹部を狙っていた。
避けられない。
誰もがそう思った。しかし――
稲妻のような人影が現れた。
誰も反応できなかった。
気づいた時には、魔獣の両腕はすでに切り落とされていた。
ソーンは即座に後方へ跳んだ。魔獣との距離を取る。
「ソーン!」
ヴィクターが駆け寄った。
腹部からわずかに血が滲んでいる。
「平気だ」
ソーンは鼻を鳴らした。
「かすり傷だよ」
その間にも、その人物は戦い続けていた。
魔獣が飛びかかる。だが軽やかにかわされる。
横薙ぎの一閃。二体の魔獣が同時に倒れた。
グレンは目を細めた。
誰だ。どこの狩魔師だ。援軍が来たのか。
その狩魔師は驚くほど身軽だった。
さらに一撃。最後の魔獣の腹部へ剣が突き刺さる。断末魔を上げながら、魔獣は闇の中へ逃げ去った。
四人は高台の岩へ目を向ける。
そこには、一人の狩魔師が座っていた。
全員が顔を見合わせる。同じ困惑が浮かんでいた。
グレンが前へ出る。声をかけようとした、その時。相手の方が先に口を開いた。
「待たせたな、みんな。無事か?」
ソーンが目を見開く。
聞き覚えのある声だった。だが、あり得ない。そんなはずがない。
やがて雲が流れていく。明るい月光が、その狩魔師の顔を照らした。
高い岩の上に腰掛けたエリオ・ヴレスが、足をぶらぶらと揺らしている。
手にした剣からは血が滴っていた。 そして、その口元にはかすかな笑み。
「お前……」
ソーンの言葉が途中で止まる。彼は呆然とエリオの瞳を見つめた。
その瞳は――
紫色だった。
「エリオ!」
コーディアが驚きと喜びの混じった声を上げた。
「やあ! 俺も合流しに来たぜ!」
エリオは岩の上から飛び降り、皆の方へ歩いてくる
「どうしたんだよ。みんな、幽霊でも見たみたいな顔して」
全員が顔を見合わせた。数秒の沈黙が流れる。
やがてグレンが、堪えきれないように口を開いた。
「エリオ、お前……」
「ああ、これのこと?」
エリオは自分の目を指差した。
その時、皆はようやく気づいた。
エリオの左右の瞳は、色が違っていた。
ご覧いただきありがとうございます。
【更新スケジュールのお知らせ】
● 7/22 ~ 8/1: 毎日 18:10 最新話更新
● 8/2 以降: 毎週 【日・月・火・木・金】18:10 更新
ぜひブックマークして、続きをお楽しみいただけると嬉しいです。
本作を気に入っていただけましたら、評価(★★★★★)やご感想、レビューなどをいただけると大変執筆の励みになります。




